第六話 「ラブラドール・レトリバー」
第六話 「ラブラドール・レトリバー」
TVの電源を点けた。画面は砂嵐。すごく耳障りな音だった。
私はすぐにTVのリモコンでチャンネルを操作し、適当にチャンネルを回した。
ニュース、バラエティ、スポーツ、どれもこれもつまらない番組だった。
ユニークさとインテリ。この二つの要素を上手く組み合わさった番組はないのか? 私は今のTV業界に大きく失望した。
しかし、この二つの要素が上手く組み合わさった番組が存在した。しかも、今現在、放映している。
私はそれを新聞のTV欄で知った。すると、テレビっ子の血が騒ぎだす。
それはラブラドール・レトリバーの泳ぐ能力の高さを競う番組だった。 時々、音量を高くして食い入るようにその番組を見ていた。
一匹のラブラドール・レトリバーが湖で優雅に泳いでいた。多分、どのラブラドール・レトリバーよりも優雅で素晴らしい動きだったと思う。
私は優雅に泳ぐ一匹のラブラドール・レトリバーを見て、小さい頃に諦めていたことに火が付いた。
諦めていたこと、それは「水泳」である。
私は小さい頃から水が苦手で、海やプールに行かなかった。いや、行けなかったというのが正しいだろう。
学校の授業の時は隅の方で見学していた。
しかし、今、私は大人へと成長し、もうすぐ結婚を控えていた。そうすれば、いずれは子供を持つ父親になるだろう。
あのラブラドール・レトリバーのように優雅に泳ぐ私の姿を子供に見せたい。
そう思った私は近くにあるスイミングスクールで水泳を習い始めた。
ある時、水泳の講師の先生から、なぜ今になって、水泳を始めたのですか? とそう問われたので、私はこう答えた。
「ラブラドール・レトリバーの優雅な泳ぎを見て、私もああゆう泳ぎを身に付けたかったからです」
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