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short_short  作者: ビックアロー
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第三話 「幸せを運ぶブーケ」

 第三話 「幸せを運ぶブーケ」


 友人の結婚式に出席した私は幸せを運ぶブーケを我が物にする野望を抱いていた。

 そのために実家からわざわざ市内にある立派な結婚式場に足を伸ばした。

 もちろん、友人を祝福したい気持ちも少しはあるのかもしれない。だが、そんなことより、ブーケが欲しい。


 ここは市内にある結婚式場、新婦である友人と新郎が仲睦まじく壇上の座席に座っていた。私はそれを遠席から眺める。

 三十歳を過ぎる私に恋の予兆は未だ見えない。あわよくば、ここで未婚の男性と仲良くなってお近づきになるのも手なのかもしれない。思わず笑みがこぼれる。

 この私が今でいう肉食系女子と呼ばれるのだろう。隅に隠れている草食系男子諸君、私の相手が務まるのかしら。ふふふ。


 すると、お待ちかねのブーケトスの時間が迫ってきた。

 私を含め、多くの来場者が席から立って屋外にあるテラスへと赴く。

 よくよく考えてみると、私が未婚だなんて本当に可笑しな話だ。


「まさか……あいつが私より先に結婚するなんて!」


 私は女子のクラスメートたちから「肌が白くてきれいね」、「肌がすべすべできれいね」、「美人で羨ましいわ」なんて日常茶飯事だったのを覚えている。

 だから、将来、男に困ることはないだろうと思っていた。むしろ、どんな男でも捕まえられる自信があった。


 一方、あいつの容姿は中の下。

 現代の未婚率を考えると、あいつの結婚の成功率は難しいだろうと思っていた。

 だってさ、テレビでよく見る女芸人みたいな顔だよ。誰が貰うかっての。

 口にはしなかったけど、心中、そういう目にあいつを見ていた。私って嫌な女。


 だから、あいつに恋人が出来た時はとても驚いた。

 あいつが私よりも先に恋人を捕まえるなんて、というか正直、許せない。半殺し確定レベル。


 恋人の写真を見せてもらったけど、まぁ、そんなにイケメンじゃない。

 でも、雰囲気はどこか田舎臭くなくて、都会生まれの都会育ちって感じ。勤務先は大手出版社の社員。年収もいい方らしい。


 その後、交際のほうは上手くいき、最近行ったデートの話とか話してくれた。そのほとんどは恋人の相性が良いことをうかがわせるエピソードだった。

 普段、あいつ、話さない方なのに、しつこく恋に咲いた話を散々聞かされた。正直きつい。精神的にくる。

 そんなあいつにイラッとしたこともあるが、ここは大人な対応でカバー。

 

 そして、結婚。いやぁ。めでたくゴールインですよ。

 私より婚期が早いのが、超絶納得いかないけどねー。

 結婚の報告を聞かされた夜は一人で焼酎がぶ飲みしたっけ。ああ、ホント私、何やってんだろう。

 その後、大家さんに怒られたよ。うるさいって!

 よっぽど悔しかったんだろうね。まぁ、二日酔いで全然覚えていないけど。あはは。

 

 会場を背にし、赤いカーペットの上で二人が仲良く並び、一緒にブーケを持っていた。

 階段の下には、私も含め、多くの来場者が見守っていた。

 ラブラブな二人にご忠告をする。投げる前に絶対に絶対にブーケを落とすなよ。落としたら、運気がなくなりそうだから。

 

 二人はもうゴールしたから、幸せいっぱいだと思うけど、

 まだ実らない恋を必死になって追いかけている人が若干一名、ここにいるってことを知ってほしい。私だよ!

 すると、二人は後ろを向き、振り返った。二人が放ったブーケが宙に舞う。そして、ブーケがキレイな放物線を描いて、ってあれ、ブーケが見当たらないよ。

 二人を見ると、まだブーケを持っていた。投げるタイミングを考えてしまったんだね。あいつ照れてるし。焦らすなよ!


 困ったようなしぐさをしたあいつがあどけない天使のように一瞬だけ見えた。それを優しくフォローする新郎さん。

 ちょっと羨ましすぎるぜ、お二人さん。もう新婚満喫中ですかぁ?


 すると、再び二人はブーケを持って、後ろを向いた。来るんだね。いよいよやっちゃうんだね。いいよ。覚悟はこの通り万全さ。がに股の姿勢でどんと腹をくくる。

 私の様子をまじまじと見ているお子さんには悪いけど、ブーケを手にするのはこの私。お子ちゃまにはまだ早い。あと十年はママかパパで我慢していなさい。


 二人が投げるとされる落下位置を割り出して、誰よりも早くベストポジションを独占。これでもう絶対、ブーケを手に入れること間違いなし。

 ふふっ。さぁ親愛なるブーケちゃん。ヘイ、カモンっ!


 二人が放ったブーケが私に吸い寄せられるかように向かってくる。

 次は私の番だ。恋人は超絶イケメン。しかも、青年実業家で年収は一億超え。

 プロポーズはきっと、高級ホテルのスイートルームを借り切って、「ドンペリ」を注いだシャンパングラスの中に「白雪姫」をイメージした指輪がさりげなく入れてあるんだ。


 そうよ、私は誰よりも輝いて確固たる幸せをこの手に掴むんだわ。私には見える。そう、未来のユートピアがぁ! ブーケが太陽に隠れた。すると、黒い影が太陽を横切った。

 そいつは私が手にするはずだった未来のユートピアをさらっていった。私の手にはもはや、「未来」はなかった。


 いや、これは夢だ! 悪い夢なんだ!

 結婚は明日で、もしくはドタキャンになったとか。新郎がやっぱお前とはやっていく自信がねぇよって言ったんだよ。そうだよ。そうそう。


「いえ、彼女の目にはしっかりと決定的瞬間の画が焼き付いております。裁判官、これを」


 私の頭の中の検察官がそう言うと、裁判官がそれを受理した。


「待って! 検察官、その証拠を裁判官に提出しないで!」


「決定的証拠ですので。仕方ないかと思いますが?」


「くっ……」


「うむ、判決を言い渡す。黒い影は残念ながら、特定は出来ないものの、ブーケは何者かによって盗まれたことが判明した」


「ブーケを取り戻すことは可能ですか?」


 私は裁判官に尋ねた。


「さぁ。やつに聞いてみないと分からないな」


「NO! NO!」


「夢見がちの大人よ、素直に認める心を持ちなさい。そして諦めなさい」


 現実に戻った私は堪え切れずに泣いた。その場で泣き崩れた。とびきりメイクも涙で台無しになった。

 周りにいる連中なんか気にしない。駆け付けた友人の姿にも目もくれない。

 あいつさえ現れなければ万事上手くいったのに。あいつを絶対に許さない。絶滅まで追い込んでやる。オスもメスもみな殺しじゃ!

 嫉妬に狂う三十過ぎの私に子供たちが寄り添って優しく手を両肩に添えてくれた。


「ドントウォーリー、明日があるさ」

読了ありがとうございます。

感想やコメントをいただけると幸いです。

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