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short_short  作者: ビックアロー
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第一話 「たかいたかいがやってくる」

 あなたは「たかいたかい」をご存じだろうか?

 あなたが幼い頃、誰かにしてもらったことがあるのかもしれない。

 それが楽しくて心から笑ったことがある人や逆に怖くて泣き出した人もいるだろう。それは人によってまちまちだ。


 僕は祖父にそれをさせられた。挨拶よりも先にそれをさせられた。疲れるほどそれをさせられた。

 それが今では遠くに感じ、鮮明に思い出せない、懐かしくもある日々。

 空がいつもより身近に感じた親近感、僕は好きだった。

 しかし、大人への成長と伴い、「たかいたかい」は終焉を迎えることとなる・・・新たなブームが誕生したからだ。


 それはまだ小学生の頃だった。

 「胴上げ」がマイブームとなり、新たなステージへと移った頃。

 祝い事のイベントにはかかせない「胴上げ」はサラリーマンにとって希望の星。

 しかし、この「胴上げ」。もたらすのは、決して良いことばかりではないのかもしれない。何事も事故はつきものだ。


 体格が良く、しかも町内相撲のチャンピオン。

 目を合わせると、決まってからんでくる。一言でいえば、面倒な奴。

 そんな彼がひ弱そうな少年を「胴上げ」し、失敗した。

彼に胴上げをさせられ、天井にぶつけられ、非常口の逃げる人とともに落下した少年は奇跡的にどこも怪我はなかった。

 しかし、万が一、背骨などに損傷をしていたら、大変なことになっていただろう。一生車椅子生活だっておかしくはない。


 そういうところでは子供の遊びは自覚が足りていないので、危うい印象を持つ。その後、胴上げをした彼は自責の念に駆られたのか、早々に転校した。

 

 中学・高校へと進み、大学に進学した。

 受験した日は奇跡ともいえる偉業を成し遂げたのだと僕は感じ熱い涙を流した。

 これで僕も偉人の端くれか? 

 桜の花びらが舞う中、拳を握りしめ、大学の校門に向かう。


 すると、ユニフォームが千切れそうなくらい筋骨隆々な体格を持つ人たちが四人現れた。

 彼らは僕を心から祝おうとは思っていない。

 ただ、彼らは「胴上げ」をしたいだけ。僕はその格好の獲物。それだけだ。

 

 ああ、桜の花びらが舞う、こんな素晴らしい日に僕は胴上げをさせられるのか。宙を舞う中で風に煽られ舞う桜の花びら。


 「胴上げ」の途中、彼らに支えられている感覚がないのに気づく。その結果、地面に強く叩き付けられた。お尻が痺れて痛い。痛みに耐えながら立ち上がり、ズボンについた汚れを手で叩く。


 彼らは僕そっちのけで大学のキャンパスを歩く女子たちに熱視線。僕のことは完全に無視ですか。君たちは良い身分なんですね。

 

 大学を卒業。学生結婚を経て、会社員になった。

 そして、今年定年になり、サラリーマン生活から退くことになる。


 社内では、若い社員たちが密かに集まっている。OLから「内緒です」なんて言われると、すごく気になる。すると、若い社員たちに背中を支えられ担がれた。

 外で「胴上げ」された時とは違って、天井がある。若者の力は思ったよりもある。ちょっとの力加減で天井にぶつかる。だから、怖い。


 天井すれすれの時には必死に「止めてくれ!」と叫んだ。

 それに対し、若い社員たちは笑う。僕はちょっと涙目だった。


 今、まさに行われている「胴上げ」。

 これがきっと最後になるだろう。引退にはもってこいのマイブーム。



読了ありがとうございます。

感想やコメントをいただけると幸いです。

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