第10話 鋼の叫び ~深淵に眠るドワーフの誇り~
魔王を倒してから三日目。
俺たちはヴォルガルドの背中に乗って、北の山脈に向かっていた。
古竜の巨大な翼が風を切り、地上の景色がものすごい速さで流れていく。
リナが俺の胸にしがみつきながら、興奮気味に叫ぶ。
「わぁ! ドラゴンに背中に乗るなんて夢みたい! ケンタ、落ちないでね!」
俺は人間サイズのまま、苦笑いした。
「俺が落ちるより、お前が落ちる方が心配だよ……」
エルウィンが銀髪をなびかせ、静かに言う。
「グラムの故郷、深淵の鉱山『ガルド・フォージ』はもうすぐです。
そこに、鋼の巨人ドワーフの一族が眠っているはず」
グラムが豪快に笑う。
「わしの爺ちゃんが昔、話してくれた。
『我らドワーフの中にも、鋼の血を引く者がいる。だが、魔王の時代にその力を封じ、地下深くに隠れた』とな!」
ヴォルガルドが低く唸る。
「我の光の波動が届いたはずだ。もう目覚めているかもしれないぞ」
山脈の奥、巨大な岩壁に開いた大穴――それがガルド・フォージの入り口だった。
俺たちはヴォルガルドの背中から降り、洞窟の中へ進んだ。
道はどんどん広くなり、天井も高くなっていく。
ドワーフの建築技術の凄まじさを、肌で感じた。
突然、地面が大きく揺れた。
ドゴォォォン!!
岩壁がひび割れ、赤い光が噴き出した。
グラムが目を丸くする。
「これは……鋼の血が目覚めた音じゃ!」
奥から、重低音の声が響いてきた。
「誰じゃ……我を呼び覚ましたのは……」
俺たちはさらに奥へ進んだ。
そこにいたのは、巨大なドワーフだった。
身長は約45メートル。
体は岩と鋼鉄が融合したような灰黒色の皮膚で、髭は溶岩のように赤く輝いている。
両手には巨大な戦斧とハンマーを持ち、目は金色に燃えていた。
グラムが震える声で叫んだ。
「バルドガン爺ちゃん……!?」
巨大ドワーフ――バルドガンが、ゆっくりと目を細める。
「グラム……お前か。小さくなったな」
「小さくなったんじゃねえ! 爺ちゃんがデカくなったんじゃ!」
俺は一歩前に出て、声を抑えて挨拶した。
「初めまして。俺はケンタ。最後の巨人……いや、今は覚醒同盟の盟主を名乗ってる」
バルドガンは俺をじっと見つめ、大きなため息をついた。
その息だけで、洞窟内の風が渦を巻いた。
「巨人か……。魔王の時代、我らはこの力を封印した。
巨大になれば、魔王に即座に発見され、鉱山ごと焼き払われる。
だから皆、鋼の血を自ら抑え、普通のドワーフとして生きてきた……
だが、三日前から体が熱い。封印が解け、血が叫んでいる」
リナが恐る恐る近づき、バルドガンの足元を見上げる。
「すごい……お爺ちゃん、ケンタよりちょっと小さいけど、すっごくカッコいい!
でも、でかすぎて外に出られないよね?」
バルドガンが苦々しく笑う。
「その通りじゃ。小娘よ。
我が一歩踏み出せば、この鉱山は崩れ、地上の街は踏み潰される。
だから我らは、永遠にここに閉じこもるつもりだった……」
その言葉に、グラムが激昂した。
「馬鹿を言うな爺ちゃん!
魔王はもう倒した! ケンタが倒したんじゃ!
もう怯える必要はない! 外に出て、誇りを取り戻せ!」
バルドガンが目を伏せる。
「誇り……か。
我らが巨大化した過去は、魔王の兵器として使われた屈辱の歴史じゃ。
家族を、友を、失った……」
洞窟の奥から、他のドワーフたちも姿を現し始めた。
皆、人間サイズの普通のドワーフだったが、目には同じ金色の輝きが宿り始めていた。
鋼の血が、少しずつ目覚めている。
俺は深く息を吸い、バルドガンに向き直った。
「俺も最初はそうだった。
巨大すぎて、何もかも壊してしまう。
村を踏み潰しそうで、怖くて仕方なかった。
でも……今は違う。
この力で、守れるものがある。
仲間がいる。
お前たちも、もう隠れる必要はない。
一緒に、世界を守ろう」
バルドガンが俺をじっと見つめる。
長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「……巨人よ。お前の光は本物か」
俺は人間サイズから一気に巨大化。
30メートル級の姿になる。
さらに光の力を集中させ、掌に金色の輝きを灯した。
その光が、洞窟全体を照らす。
「これが、俺の光だ。
お前たちの鋼の血を呼び覚ました光と同じものだ。
信じてくれ」
バルドガンが目を閉じ、深く息を吐いた。
すると、彼の体がさらに輝きを増し、ゆっくりと動き始めた。
「よし……我も、外の世界を見るか」
バルドガンが立ち上がる。
ドゴン、ドゴン、と足音が響き、洞窟の天井が崩れ落ちる。
俺は慌てて光の壁を作り、崩落を防ぐ。
外へ出る。
山の斜面が崩れ、巨大なバルドガンが地上に姿を現した。
太陽の光を浴びて、彼の鋼の体が美しく輝く。
近くの人間の街から、悲鳴が上がった。
「巨人が! もう一匹の巨人が現れたぞ!」
リナが俺の肩(巨大化時)に乗って叫ぶ。
「大丈夫だよー! このお爺ちゃんは味方だよー!」
俺はバルドガンに提案した。
「最初は人間サイズに戻ってみろ。
俺みたいに、サイズを変えられるはずだ」
バルドガンが集中する。
すると、彼の体が縮み、約3メートルの立派なドワーフの姿になった。
鋼の皮膚は残ったまま、髭は相変わらず赤く輝いている。
グラムが目を潤ませる。
「爺ちゃん……」
バルドガンが俺の肩を、ドンと叩いた。
「巨人ケンタよ。礼を言う。
我ら鋼のドワーフ一族、覚醒同盟に加わろう。
これより、巨大な要塞を築き、お前たちを守るぞ!」
その言葉に、周囲のドワーフたちが次々と巨大化し始めた。
山が揺れ、岩が砕け、しかし皆、笑顔だった。
ヴォルガルドが空から降りてきて、満足げに言う。
「これで四種族。次は樹霊エルフと神獣獣人だな」
俺はみんなを見回した。
リナ、エルウィン、グラム、バルドガン、そして新しく目覚めた鋼のドワーフたち。
巨大種族が、少しずつ集まっていく。
まだ始まったばかりだ。
異星の巨神が完全に目覚める前に、
俺たちは強くなければならない。
リナが俺の手を握って微笑む。
「ケンタ、どんどん仲間が増えてるね。
これからも、よろしくね」
俺は頷き、空を見上げた。
「ああ。みんなで、世界を守る」
深淵の山に、鋼の叫びが響き渡った。
それは、新たな時代の始まりの音だった。
(続く)




