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②義兄さん、その女は誰ですか!?

 前回のあらすじ!


 A級の不浄を一撃で屠る力を持つ最強の私立探偵 鈴村オキト。

 仕事を終えてうどんを食って、事務所に戻ると、そこは田舎にいるはずの義妹が鬼の形相で待ち構えていた!

 それもそのはず!

 なぜなら事務所の前の置かれたゆりかごの中には、自分と同じ白い髪の赤ん坊が捨ててあったのだ!

 心当たりがありすぎる軽薄男。

 ガン詰めしようとする義妹。

 寝ている赤ん坊。

 果たして、オキトに明日は来るのだろうか!?


「……とでも思いですか?」

「なぜ地の文が読める!?」

「ちなみに同じ白い髪でも、絶対に私の子供ではありませんよ?」


 現実逃避をしたオキトを、トモエは逃がさなかった。


「何でここに居るんだよ?」

「手紙もlimeも既読スルーをするからです。本家からのお達しで様子を見るようにと」

「そうだっけ?」

「……本当に、既読スルーしていたんですね」


 オキトと同じ白髪が青い光を放つ。

 高ぶる感情に霊の制御が出来ていない証拠だ。


「……これでも制御しているんですよ?」

「だから、読めちゃダメだろう!?」

「爆発、……させたいですか?」


 無表情な美人ほど怖いものは無い。


「と、とりあえず、事務所の中に入ろう! 赤ん坊も寒そうだし!」


「ぬぅ」という言葉と共に、霊が収まっていく。

 トモエの厳しい緯線を背に、オキトは無言で荷物を手に取り、扉の前に立つ。


「……あ、あれ?」

「どうしたんですか? 段々と寒くなってきたので、早く開けてください」


 荷物を置いて、ポケットをまさぐる。

 冷や汗をかきながらトモエを見る。


「……鍵、失くしました」


 どこで落としたかを必死に思い出そうとするも、色々と思い当たる。

 一話が始まる前に遊んだ池袋か。

 それとも一話が始まるもう少し前に泊まった大人のホテルか。

 一話が始まって、格好つけてビルの間を飛び降りた時か。


「あ、あれー?」

「可愛い声を出しても駄目です。……まさか誰かに貸したりとか、していませんよね?」

「事務所の鍵だぞ! 流石にそれはない! 俺は「仕事は真面目にやる」主義なんだ!」


 ――などと思ってみたが、口には出せず。

 自分の記憶に自信がない。視線が痛い。

 一話が始まるもっと前に、行きつけのバーで結構飲んだ。

 その時に口説いたおんなぁー……。


「あー……。貸した、……かも」

「誰に、ですか?」

「…………」

「はい?」

「……思い、出せません」


 トモエの髪が逆立ち、電流が迸る。

 廊下の蛍光灯が割れ、故障していたエレベーターの電源が付く。

 窓ガラスが粉々砕け、僅かな間の後、冷気が吹き荒ぶ。


「待て待て待て! 思い出す! 絶対に思い出すから!」

「爆発、……します」

「くそっ!」


 霊の迸りを掻い潜り、トモエの額に人差し指を添える。


「――え?」


 途端に舞っていた紙が浮力を失くし、爆発寸前だった霊が綺麗に抜けていく。

 それどころか力すら抜けて、ストンとへたり込む。

 煮えたぎっていた霊は収まり、残るのは頬の紅潮。

 そして胸の高鳴りだけ。

 トモエは無意識に着物の裾を、震える手で掴んでいた。


「大丈夫か? トモ」


 久しぶりにトモと呼ばれ、恥ずかしさにより顔を伏せる。

 勝った。

 オキトは沈むトモエを前に、ゲスな笑みを浮かべた。


「……ふぇ」


 赤ん坊が起きたのか、本泣きの予兆がして、トモエが四つん這いになりながら、ゆりかごの下へ行き、抱き上げる。


「よしよし。うるさかったよね? 本当に困ったお父さんだよね。ごめんね?」

「え。俺のせい?」

「諸悪の根源はその下半身では? それよりも義兄さん、寒いんですが」


 と言われても鍵が無い。


「あら?」


 おくるみの中に違和感。

 手を入れると白く透明な貝殻のような物があった。

 それを見たオキトが目を丸くする。


「でかした!」


 突然手を掴まれ、トモエが赤面し硬直する。


「な、ななな何を、ですか?」


 慌てるトモエに、オキトが真面目な顔を近づける。


「このおかげで、赤ん坊の母親の候補が七人から、二人まで絞られた!」

「は?」


 トモエは心底軽蔑した表情を浮かべる。


「おそらく冥煉獄か、もしくは……」


 オキトが不穏な言葉を口にすると、赤ん坊のぐずりが本格化。

 思考を中断。

 トモエが焦り出し、溜息と共にその手を払う。

 柔らかい声であやし、再び眠りにつく赤ん坊。

 それにほっとして、両者が同時に溜息を付く。

 壊すにも賃貸だから勇気がいる。


 どうしようかと顎に手を当てて考えあぐねていると、後方でエレベーターが到着した音がした。


「……あ、あの」


 そこにはトレンチコートの美女が困惑した表情で立っていた。

 右手に、握られているのは、事務所の鍵。

 それをオキトは見逃さなかった


「ああ、こんばんは。お待ちしておりましたよ。では、約束通り鍵を」

「……は、はい」


 おずおずとオキトに鍵を手渡し、何事もなかったように開錠。

 さあどうぞと入室を促す。


「あ、トモエくん」

「――くん!?」

「彼女にあったかいココアでも入れてくれ」


 シンクの下からココアの袋を取り出し、トモエに手渡す。

 ハンガーを手に取り、コートを預かり、高級なソファへの着席を促す。


「いやぁ、寒かったでしょう。どうぞリラックスしてください」

「は、……はい」


 知っている者からすれば軽薄な態度。

 知らない者からすれば、嘘くさい接客。

 温かい場所にゆりかごを置いたトモエは、しぶしぶ暖かいココアを淹れ始めた。


「では、改めていらっしゃいませ。まずはこの用紙にご記入をお願いします」


 お客様相談シート。

 これに記帳すれば、名前を思い出せる。

 無駄に高いゲスIQが回り始めた。


 御田村 雪奈。連絡先。住所まで律儀に記入。


「へぇ。とても綺麗な字ですね。習字でも?」

「ええ、まぁ」


 そう言いながら、記入を進める雪奈。

 視線は赤ん坊と紙面を行き来している。

 粗方書き終え、運ばれて来たココアの匂いに釣られて、ゆっくりと口を付ける。


「落ち着きましたか?」


 優しい声で尋ねると「はい」とワンテンポ遅れて返事。

 うんうんと頷きながら、内心で焦る。

 だめだ。全く思い出せない。

 相談シートを手に取り、考えながら必死に記憶を手繰る。

 相談内容を見ると、ストーカーに悩んでいるとあった。


「あ」


 オキトが声を上げる。

 その声にトモエと雪奈が振り向くが、口に手を当てたまま思案にふける。


 霧が晴れる想いだった。

 思い出した。

 この女の正体を。

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