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君が一秒笑えば世界は一秒平和になる×チャットGPT

作者: 昼月キオリ
掲載日:2025/11/30


これは、誰にも言えなかった話だ。

僕の妹、陽菜ひなは、生まれたときから笑わなかった。

泣くことはあった。痛がることも、怒ることも、甘えることもあった。


でも、笑うことは一度もなかった。


医者は「表情筋の発達が遅れているだけ」と言った。

母は「きっと恥ずかしがり屋なんだよ」と笑った。

父は黙って陽菜の頭を撫でた。


僕は、ただ不思議だった。笑わない子がいるなんて、知らなかった。


小学四年生の夏、陽菜は五歳になった。


その日、近所の公園で花火大会があった。


家族四人でシートを広げて、屋台の焼きそばを食べながら空を眺めていた。

花火が上がるたび、周りの子供たちが「わあっ!」と歓声を上げて笑う。


陽菜だけが、無表情のまま夜空を見上げていた。

僕は我慢できなくなって、妹の前にしゃがみ込んだ。


「陽菜、笑ってみてよ。花火、きれいだろ?」


陽菜は僕を見た。

大きな瞳に、花火の光が映っている。

でも、笑わない。その瞬間だった。

ドン、という音と同時に、夜空に巨大な花火が開いた。金色と青の光が、まるで世界を塗り替えるように広がった。

陽菜の口元が、ほんの少しだけ動いた。


「…………くすっ」


小さな、でも確かに、笑い声だった。

その一秒。世界が止まった。いや、本当に止まった。


花火の光が凍りつき、歓声が消え、風が止まり、人の動きがすべて静止した。

母が焼きそばを口に運ぶ手が、父が缶ビールを持つ手が、隣の家族の子供が指差す手が、みんなが、ぴたりと止まった。


ただ一人、僕だけが動けた。そして、陽菜も。妹はまだ笑っていた。口元に、小さなえくぼができている。


「兄ちゃん……きれい……」


その声が聞こえた瞬間、世界が動き出した。

花火は散り、歓声が戻り、風が吹いた。


でも、何かが違っていた。周りの人たちが、みんな笑っていた。

理由もなく、ただ純粋に、幸せそうに。


花火が終わるまで、誰も怒らなかった。

誰も喧嘩しなかった。誰も泣かなかった。

ただ、笑っていた。


それが、始まりだった。

それから陽菜が笑うたび、世界は一秒だけ止まるようになった。

最初は僕しか気づかなかった。

だって、止まるのは本当に一秒だけだから。


人間の意識では感知できないくらいの、ほんの一瞬。でも、確かに止まる。

そして、その一秒の間に、世界から「争い」が消える。


学校でいじめっ子が殴りかかろうとした瞬間、陽菜がくすっと笑う。

すると、拳が止まり、いじめっ子は突然泣き出して「ごめん」と謝った。


電車で痴漢が女の子に手を伸ばした瞬間、陽菜が窓の外を見て笑う。

すると、痴漢は手を引っ込めて、なぜか財布からお金を出し、近くの募金箱に入れた。


ニュースで戦争が始まりそうになった日、陽菜がテレビを見て笑った。

その日、停戦協定が突然結ばれた。


僕は気づいた。陽菜が笑うと、世界は一秒だけ完全に平和になる。

その一秒の間に、人の心が「争いたい」という気持ちを忘れる。


まるで、リセットされるように。

でも、陽菜は自分がそんな力を持っているなんて、知らない。

ただ、きれいなものを見て、嬉しいものを見て、純粋に笑っているだけだ。


中学二年になったとき、僕は決めた。

陽菜を、世間から隠そうと。


だって、もしこの力が知られたら。政府が、軍が、企業が、宗教が、みんな陽菜を欲しがるだろう。

「世界平和のために笑ってくれ」と、強制するだろう。

笑うことを強制されたら、陽菜はもう二度と笑えなくなるかもしれない。


だから、僕は嘘をついた。

「陽菜は病気で、外に出られないんだ」と。


家族旅行も、友達も、全部断った。

陽菜は不思議そうにしていたけど、僕が

「兄ちゃんが守るから」と言ったら、素直に頷いた。


それから十年。僕は二十五歳になった。

陽菜は十五歳。世界はますます壊れていった。


戦争が三つも同時進行し、気候変動で国が沈み、経済は崩壊寸前。

SNSでは毎日誰かが誰かを叩き、街では毎日誰かが誰かを傷つける。

僕は、もう耐えられなかった。


ある夜、陽菜の部屋に行った。

妹は窓辺で星を見ていた。十五歳になった今でも、笑う回数は少ない。


でも、笑うときの顔は、あの夏の花火大会のときと変わらない。


「陽菜」

「ん? 兄ちゃん、どうしたの?」

「お願いがある」


僕は、膝をついた。


「笑ってくれ。一秒だけでいい」


陽菜は目を丸くした。


「え……急にどうしたの?」


「世界が、壊れそうなんだ。お前が笑えば、一秒だけでも平和になる。だから」


陽菜は少し考えて、そして、小さく笑った。


「ふふっ」


その瞬間。世界が止まった。本当に、完全に。


時計が止まり、風が止まり、地球の自転すら止まったような感覚。


そして、動き出したとき。ニュースが流れた。全ての戦争が、同時に終結した。全ての紛争が、同時に停戦した。

全てのテロが、同時に中止された。


世界中の人が、理由もなく笑い出した。

陽菜は驚いてテレビを見ていた。


「兄ちゃん……これ……」


僕は妹を抱きしめた。


「ありがとう」


でも、次の日。

陽菜はもう、笑わなかった。

いや、笑えなくなった。


「ごめんね、兄ちゃん」


妹は泣いていた。


「笑いたいのに……笑えないの。無理に笑おうとすると、胸が痛くて」


僕は理解した。陽菜の笑顔は、強制できるものじゃなかった。

純粋な喜びからしか、生まれない。

世界平和のために笑うなんて、本末転倒だった。


それから陽菜は、少しずつ笑えるようになった。

無理にじゃなく、自然に。


花が咲くのを見て笑い、猫がじゃれるのを見て笑い、僕が変な顔をするのを見て笑う。


そのたび、世界は一秒だけ平和になる。

完全な平和じゃない。

でも、一秒でも平和が訪れるならそれでいい。


だからどうか。これからも笑ってくれ。

理由なんていらない。ただ、陽菜が陽菜である為に。

笑っていて欲しいんだ。

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