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ハニートラップ作戦

「じゃあ、つけるぞ」


村崎のその言葉と同時に

再生ボタンが押された。


一瞬、画面が乱れる。

ノイズ混じりの、防犯カメラ映像。


固定された視点。

夜の路地裏だ。


街灯の光が途切れ途切れに地面を照らし、

影だけが不自然に伸びている。


画面の端を、ひとりの人影が駆け抜けた。


何度も背後を振り返りながら、

必死に、逃げている。


直後――

遅れて、もう一つの人影が映り込んだ。


白い。


正確には、白い仮面をつけた男。


無表情の仮面。

呼吸が荒れる様子もない。


一定の距離を保ったまま、

歩くような速度で追っている。


逃げる人間が、画面中央でつまずいた。


前のめりに倒れ、

手をつこうとして体勢を崩す。


次の瞬間。


白い仮面の男が、距離を詰めた。


腕が、一度だけ振られる。


短く、無駄のない動き。


刃が、街灯の光を反射した。


逃げていた人間の身体が、びくりと跳ねる。

そのまま、地面に倒れ込んだ。


動かない。


白い仮面の男は、しばらくその場に立っていた。


周囲を警戒する様子はない。

逃げる気配もない。


やがて、ゆっくりとしゃがみ込み、

倒れた身体のそばに手を伸ばす。


指先が、地面をなぞり始めた。


血。


被害者の血を使い、

地面に何かを書いている。


文字だ。


線は歪んでいる。

だが、意味のある形をしている。


画面が一瞬だけ安定し――

血文字の一部が、はっきりと映る。


「――天」


次の瞬間、再びノイズ。


書き終えると、

男は何事もなかったように立ち上がった。


血を踏み、

そのまま歩き出す。


足跡が、地面に残っていく。


白い仮面の男は、

一度も振り返らず、画面の外へと消えた。


映像は、そこで止まった。


村崎警視長が、静かに息を吐いた。


「……犯人は、特定班がすでに絞っている」


「前日未明。

 同一時間帯、同一エリア内の防犯カメラを洗い出した」


「エリアの絞り込み」

「行動の一致」

「文字の一致」


「三つが重なった」


「結果――」


「天城 恒一。

 三十八歳だと結論づけた」


「現在、特定班が内偵を進めて、逮捕に繋げる予定だ」


その瞬間だった。


「待って!」


シエラの声が、空気を裂いた。


全員の視線が、一斉に集まる。


「……逮捕は、ダメ」


はっきりと言い切る


拓磨が、眉をひそめた。


「……は?」

「捕まえられるなら、それでいいじゃねえか」


「内偵して、逮捕」

「普通に終わらせりゃいいだろ」


一瞬の沈黙。


その空気を切ったのは、りんだった。


「いや、違う」


短く、はっきり。


「捕まえたら、相手の思う壺」


拓磨が振り向く。


「は?」


りんは、モニターを見たまま言った。


「逮捕=ゴールって思ってるの、こっちだけ」


その言葉に――

シエラが、すぐに頷いた。


「そう」


一歩、前に出る。


「捕まえたら、爆死される」


室内の空気が、一気に冷える。


「本人ごと周囲を巻き込むかもしれない」


シエラは、きっぱりと言った。


「そうなったら、足取りが全部消える」


「思想も」

「目的も」


「全部、分からなくなる」


拳を、強く握る。


「それだと、ダメなの」


「この事件は――」

「捕まえて終わりじゃない」


それを破ったのは、拓磨だった。


「じゃあどうするんだよ!」


苛立ちを隠そうともしない。


「捕まえるな、でも放置もしない」

「じゃあ、どうやって止めるんだ!」


誰もすぐには答えない。


その沈黙の中で、

みゆきが、静かに口を開いた。


「……シエラ」


声は柔らかいが、視線は鋭い。


「あなた」

「何か策があるんでしょう?」


シエラは、一瞬だけ目を伏せた。


そして、顔を上げる。


「うん」


短く、はっきり。


「あたし的には――」

「これしかないと思ってる」


シエラは、口の端を少しだけ上げた。


「名付けて」


「ハニートラップ作戦」


空気が、凍った。


「……は?」


拓磨の間の抜けた声だけが、

オフィスに響いた。


        続く

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