歪む正義、加速する業
おつかれ〜!シエラだよ
今回はちょ〜っと空気が重ため。正義と復讐、どっちが正しいのかなんて、そう簡単に答えは出ないよね。
でもさ、どれだけドロドロしてても“本物”が来れば話は別! あたしが出れば全部ひっくり返してやるから、最後まで目ぇ離さないでよ
【午後22時45分 アルメス物流第七ビル・20階】
蛍光灯がちらつく薄暗いオフィス。その中心で、五十嵐真也はゆっくりと歩みを進めていた。
部屋の隅では五人の男女が縄で縛られ、震える声を漏らしている。全員、かつて彼と同じ会社に勤めていた元同僚たちだった。
「お、お願いだ五十嵐……俺たちは関係ない、巻き込まないでくれ……!」
その声に、五十嵐はゆっくりと顔を向ける。笑ってはいたが、その目は氷のように冷たい。
「関係ない? ずいぶん都合のいい言葉だな」
低い声が、静まり返った室内に響いた。
「上には逆らえずにペコペコして、裏じゃ“無能”“お荷物”って好き放題言ってたよな。
弱い奴には鬱憤晴らすみたいに仕事押しつけて、困ってた俺を笑ってただろ」
誰も反論できなかった。
五十嵐はゆっくりと、五人の前に歩み寄る。
「今さら命乞い? 安心しろ、お前らは“仲間”だ。今日からは俺と同じ――犯罪者として生きてもらう」
「ふ、ふざけるな……俺たちはやりたくて――」
「うるせぇ!」
怒声とともに、五十嵐の指先から圧縮空気弾が放たれた。
**ズガン!**という衝撃音とともに、男の足元の床が吹き飛び、悲鳴が響く。
「ここで逆らえば、地獄を見て死ぬだけだ。わかったら黙ってろ」
誰一人、もう声を出す者はいなかった。恐怖と絶望だけが、部屋を支配していた。
【同時刻 ビル前 警察封鎖線】
周囲は緊張に包まれていた。
警視庁・超越者対策課の車両が到着し、赤色灯が夜の街を赤く染めている。
車を降りたみゆきに、現場指揮の警官が駆け寄った。
「遠藤課長! すでに突入班は配置完了。
交渉は難航しており……犯人は“空気圧縮系”の能力者。警官十数名が負傷しています」
「……了解。人質の安全を最優先で」
その横で、1人の警官が拡声器を手に叫んだ。
「中の者に告ぐ! 今ならまだ遅くない! 武器を捨て、人質を解放して投降しろ!」
みゆきの隣――そこには、いつの間にか金髪の少女・シエラの姿があった。
突然の登場に、警官の一人が怪訝な顔をする。
「課長、この子は……?」
「付き添いよ。詳しい話は後で」
シエラは何も言わず、ただビルの上階を鋭い眼差しで見上げていた。
⸻
【同刻 ビル内】
拡声器の声を聞きながら、五十嵐はゆっくりと天を仰ぐ。
「投降? 誰がするかよ……!」
そう吐き捨て、両腕を大きく横に広げた――
「……ッ!!」
その瞬間、シエラの瞳が鋭く光る。
空気の“揺れ”――魔力の微細な波動が、確かに感じ取れた。
「みんな、伏せてぇぇぇッ!!」
彼女の叫びとほぼ同時、圧縮空気が四方へと弾け飛んだ。
シュババババッ――!!
窓ガラスが粉々に砕け、地面のコンクリートが抉れ、盾ごと警官たちが吹き飛ばされる。
「ぐっ……! くそっ、見えねぇ……!」
数人が地面に叩きつけられ、うめき声を上げた。
腕を押さえる者、脚を引きずる者――何人かはその場で動けなくなる。
混乱の中、みゆきは目を見開いた。
「今の……感じ取ったの?」
隣で風の残滓をじっと見つめる少女――ただの“付き添い”ではないことだけは、もう誰の目にも明らかだった。
【午後22時47分 アルメス物流第七ビル・20階】
破壊の衝撃が収まったオフィスは、まるで地獄の跡地のようだった。
砕け散った窓、えぐれた床、転がる警官たち。何人かは腕や脚を押さえ、呻き声を漏らしている。
その光景を、五十嵐真也は愉快そうに見下ろしていた。
「はははははッ! 見ろよ! “国家権力”とやらがこのザマだ! 銃も盾も、この力の前じゃ意味がねぇ!」
両手を広げ、狂気じみた笑い声を響かせる。
彼の背後では、
五十嵐に脅迫され、共犯させられてる元同僚5人が、恐怖に顔を歪めていた。
「な……なんなんだよ……」
「これ、本当に人間かよ……」
震える声の中、五十嵐はゆっくりと振り返る。
「なぁ、お前らもそう思うだろ? 俺が“最強”だってよ!」
応える声はない。
共犯者も、人質も、誰一人として言葉を返さなかった。
「……聞こえなかったのか?」
低く唸るような声を残し、五十嵐は指を鳴らす。
次の瞬間、天井へ向けて空気弾を一発――**バシュゥン!**という破裂音と共に、蛍光灯が爆ぜて破片が降り注いだ。
「“なぁ”って聞いてんだよ!!」
その怒号に、共犯者も人質も一斉に身を縮こませる。
誰もが心の底で理解していた――この男は、もう止まらない。
【同時刻 ビル前】
みゆきは深く息を吸い込み、手袋を締め直した。
彼女の戦闘モードは、すでに整っており、その周りには魔力が立ち込められていた。
「行くわよ、拓磨。人質優先、能力者は私が抑える!」
「了解っ!」
二人は突入班と共に一斉に駆け出す。
だが、数歩進んだところで、みゆきは違和感に気づいて振り返った。
「……あれ? シエラは?」
後方を見る。しかし、さっきまで隣にいた金髪の姿はどこにもない。
代わりに、拓磨が気まずそうに頭をかいた。
「あー……それなんですけどね。『風が動いた』とか言って、ビルの方に全力疾走していきました」
「はぁああああああああああ!?!?」
みゆきの絶叫が封鎖線を突き抜けた。
「なんで止めなかったのよ!!」
「いや、止める前にもう“消えた”って感じで……人間の速さじゃなかったっす……」
「っっっのバカ……ッ!!!」
封鎖線の内側――突入班やみゆきたちが待機するビルのすぐ手前、その緊張した空気の中に、すでにシエラの姿があった。
警官たちの間を抜けて前へと歩き出し、彼女は真上にそびえるビルを見上げる。
「わ〜、やっぱり実際に見ると結構高いね。
……でも、まぁ大丈夫か
地上を見下ろしながら、シエラは軽く腕を回す。
次の瞬間、彼女の脚が地面を蹴った。
ズンッ!
空気が震え、少女の身体が真上へと跳ね上がる。
一気に70メートルの高さまで到達すると、紫と金の二色の瞳が夜の光を反射し、鋭く輝いた。
「……行くよ」
ひと呼吸。
回し蹴りが放たれ、強化ガラスが**ガシャァァン!**と粉砕される。
破片が宙に舞い、夜風に散る中、シエラはふわりと静かに床へと着地した。
目の前には、騒然とする男たちの影――そして銃口が、5つ、一斉にこちらへと向けられる。
「……ふぅん、歓迎されてないみたいだね」
それでもシエラは、ひるまなかった。
むしろ、口の端をわずかに吊り上げ、静かに笑ってみせる。
ーーーーーーーー続くーーーーーーー
読んでくれてありがとう!!
今回はちょ〜っと重めだったけど、次回はあたしの本領発揮ってやつ
止まらない弾丸? そんなの全部まとめて遊んであげるから、覚悟しといてよね




