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誰が、善悪を決めるのか

SNSの評価って、

意外と「その人の基準」で語られてることが多いから、

全部を真に受けちゃだめなんだって。


「見なくていいものもある」って、

ばっちゃんが言ってました。


今回は、そんな話です。

新宿中央署の最上階。

普段は使われることのない大会議室に、重たい空気が満ちていた。


前方には大型モニター。

その横に、可動式のホワイトボードが二枚並んでいる。


椅子は、大学の大講義室のように段状に配置されていた。


そこに座る顔ぶれは、警視長、警視正、警視――

各部署の上層部が、無言のまま席を占めている。



会議室の前方に、村崎と超越対策課の皆が立つ。


その背後のモニターが、静かに点灯した。


村崎が一歩、脇へ下がる。


「……西園寺」


短く名を呼ばれ、

西園寺りんが、前に出た。


会議室の視線が、一斉に集まる。

上層部の無言の圧が、はっきりと肌に刺さる。


りんは一度、資料に目を落とし、顔を上げた。


「今回の事件について、報告します」


静かな声だったが、会議室の隅々まで届いた。


「本日、午前十時十五分。

新宿区内、とある廃工場にて殺人事件が発生しました」


モニターに、現場写真が映し出される。


イバラに磔にされた遺体。

胸を貫く棘。

シャッターに刻まれた、一文字。


「被害者は――」


りんが、わずかに言葉に詰まる。


「……た、たなか……」


その瞬間。


前列に座る一人の警視正が、わずかに眉を動かした。

別の席でも、視線が鋭くなる。


空気が、微かにざわつく。


その横で、シエラが小さく身を寄せた。


「……たちばな 真臣まさおみだよ」


囁くような声。


りんは一瞬だけ目を伏せ、

「こほん」と小さく咳払いをした。


「……失礼しました」


顔を上げ、はっきりと言い直す。


「被害者は、橘 真臣。

四十三歳。

俳優として活動している人物です」


その言葉が落ちた瞬間。


会議室の空気が、はっきりと変わった。


誰も声は出さない。

だが、

“一般人ではない”

という事実が、全員に伝わった。


りんは続ける。


「現場には、明確な異能力の痕跡が確認されています」


視線をモニターへ。


「能力は、イバラ状の物質を瞬時に生成・操作するタイプ。被害者の心臓を、直接貫通させていました」


「そして――」


りんは、シャッターに刻まれた文字を指し示す。


「現場に残されていたのは、この文字です」


モニターいっぱいに拡大される。


『天』


その瞬間――。


「……ついに、始まったというのか……」


前列に座っていた一人の警視長が、低く呟いた。


「神代祈音の……神罰が……」


ざわ、と会議室が揺れる。

囁き声。

視線の交錯。

七年前の記憶が、一斉に呼び起こされたようだった。


「静粛に」


村崎の声が、鋭く空気を切る。


ざわめきが、徐々に収まっていく。


りんは一歩前に出た。


「……しかし」


はっきりと、言葉を選ぶ。


「今回の事件は、七年前の新宿大災害と同一の犯行とは断定できません」


一瞬、空気が張り詰める。


「七年前は、複数箇所での同時爆破事故でした。

それに対し、今回の事件は――」


モニターを指し示す。


「イバラによる、明確な殺人です」


間を置いて、続ける。


「犯行手段、規模、目的。

いずれも一致していません」


会議室の奥から、低い声が飛んだ。


「……つまり、神代本人ではないと言いたいのか?」


発言したのは、別の警視だった。


「神代祈音が直接関与した可能性は、極めて低いと考えています」


りんは、即答した。


「犯人は、同じ思想を持つ模倣犯。

あるいは――」


「天文字事件を利用した、全く別の人物による愉快犯の可能性もあります」


「ふざけるな!」


声を荒げたのは、先ほどとは別の警視だった。


「神代でなければ、この『天』は何なんだ!

この文字こそが、確証だろう!」


りんは、視線を逸らさない。


「神代祈音は、非常に影響力の高い存在です」


静かに、だが強く言う。


「七年という時間があれば、

その思想に影響された人物が現れても不思議ではありません」


「愉快犯であれ、思想犯であれ――」


拳を軽く握る。


「こちらとしては、一刻も早く犯人を特定し、確保する所存です」


その言葉に、会議室が再びざわつく。


「……で?」


冷ややかな声。


「お前たち、超越対策課に何ができるというんだ」


別の上層部が、腕を組んだまま言い放つ。


「そもそも、お前たちがちんたらしているから、

またこんな事件が起きたんじゃないのか?」


空気が、ぴんと張り詰める。


りんは、拳を強く握りしめた。


爪が、掌に食い込む。


一度、深く息を吸う。

そして――ゆっくりと吐いた。


「……大変、申し訳ありません」


頭を下げる。


その姿をみて、前列の一人が、ぽつりと口を開いた。


「……結局、能力者は同じことを繰り返す」


誰に向けた言葉でもない。

だが、確実に――超越対策課に向けられていた。


さらに、別の席から続く。


「管理する側の苦労も、少しは考えてもらいたいものだな」


静かな声。

感情はこもっていない。


だからこそ、その言葉は重かった。


りんは、頭を下げたまま、動かなかった。


拳は、見えない位置で固く握られている。


「一刻も早く犯罪件数を減らせるよう、

全力で精進いたします」


会議室は、静まり返っていた。



          ◆



【新宿中央署・超越対策課】


「……ばっっかじゃないの!!」


廊下に響く、りんの怒声。


「何よ、何よ!!

あの態度は!!」


歩きながら、振り返って吐き捨てる。


「言いたいことだけ言って!

責任は全部こっちに押し付けて!」


小さい腕をぶんぶん振り回しながら、止まらない。


「だいたいね!

あんな態度取るから、髪の毛達も逃げていくのよ!!」


「……りん」


みゆきが、少し困ったように声をかける。


「落ち着きなさいって」


「落ち着けるわけないでしょ!!」


即答だった。


「こっちはちゃんと説明したのよ!?

理屈も、可能性も、全部!!」


「それなのに、あの言い草よ!

『能力者は同じことを繰り返す』ですって!?

じゃあ何!?

あたし達は、生まれた時点で犯罪者って言いたいわけ!?」


みゆきは、ため息をつきつつ肩をすくめる。


「……上の人たちはね。

“責任を取らない仕事”に慣れすぎてるの」


「だからって!」


りんは、ぎりっと歯を噛みしめる。


その横で、シエラが少し首を傾げた。


「……ねえ」


二人を見る。


「あたしも、なんか……

ちょーむかつく感じだったんだけど」


りんとみゆきが、同時にシエラを見る。


「なんで、みんなあんな態度取るわけ?」


素直な疑問。

責めるでもなく、怒るでもない。


「悪いこと、言ってないよね?

りんも、ちゃんと説明してたし」


一瞬、言葉が詰まる。


みゆきは、少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。


「……能力を持たない人たちはね」


視線を落とし、静かに続ける。


「能力を持つ人を、怖がるものなのよ」


シエラが、きょとんとする。


「怖がる……?」


「ええ」


みゆきは頷いた。


「いつ、自分がやられるか分からない。

自分には止める手段がない。

そう思うとね……」


一度、息を吐く。


「“危険因子を野放しにしてる”って感じる人もいるの」


シエラは、少し眉を寄せた。


「……でも」


みゆきは、さらに言葉を重ねる。


「それだけじゃないわ」


視線を上げ、りんとシエラを見る。


「私たちって、能力があるからここにいる部分もあるでしょ?」


「超越対策課っていう場所も、

ある意味――特別待遇みたいに見える」


りんが、黙ったまま聞いている。


「だからね」


みゆきは、苦笑する。


「妬みも、あると思う」


その言葉に、シエラの頬がふくらんだ。


「……だからって」


ぷくーっと、思いきり。


「だからって、あの態度はないでしょ!」


腕を組み、むっとする。


「……まあな」


振り向くと、村崎が立っていた。


「信頼を勝ち取るには――」


低い声。


「なんとしても、今回の事件を解決するしかない」


シエラの肩を、もう一度だけ軽く叩く。


「結果で示す。

それしか、方法はない」


りんが、小さく息を吐いた。


村崎は、すぐに視線を移す。


「西園寺」


「はい」


「SNSやニュースの動きは?」


りんは頷き、端末を操作する。


「……もう出てます」


画面を確認しながら、淡々と読み上げる。


「ネットニュースの見出しです」


一拍。


「――『人気俳優・橘真臣 死去』」


空気が、わずかに揺れる。


「続報では、事件性については伏せられてます。

現時点では“事故の可能性も含めて調査中”と」


りんは、スクロールを進めた。


「SNSの反応ですが……」


一瞬、言葉を選ぶ。


「かなり荒れてます」


画面を見ながら、読み上げる。


「『裏ではパワハラしてたらしいぞ』

『俺、昔ディレクターやってたけど、正直かなり感じ悪い人だった』」


眉をひそめる。


「『金で揉み消した噂、業界では有名だった』

『今まで表に出なかっただけだろ』」


さらに続ける。


「……印象が一気に変わった、という声が多いです」


りんは、端末を操作しながら続けた。


「……補足です」


画面を見つめたまま、言葉を選ぶ。


「橘真臣については、

業界内では以前から黒い噂があったのも事実です」


みゆきが、静かに頷く。


「パワハラ疑惑や、揉み消しの話ね」


「はい」


りんはスクロールを止める。


「ただし――」


少し間を置く。


「表向きのイメージは、かなり良かったみたいです」


再び、読み上げる。


「『信じられない……ずっといい人だと思ってた』

『ショックすぎて言葉が出ない』

『ドラマも全部見てたのに』」


別の投稿。


「『裏の噂は聞いてたけど、ここまでとは思わなかった』

『本当と嘘が混ざってそうで分からない』」


りんは、端末を閉じた。


「擁護と批判、半々くらいです」


「……評価が、割れてる」


みゆきが呟く。


シエラは、少し考え込むように眉を寄せた。


「……なんか」


ぽつりと。


「生きてる時は持ち上げられて、

死んだら勝手に中身を暴かれてる感じ」


誰も、すぐには返事をしなかった。


村崎が、低く言う。


「人は、都合のいい物語を欲しがる」


「善人だったか、悪人だったか――」


その言葉を、静かに遮るように。


みゆきが、ぽつりと口を開いた。


「……死人に、口なしね」


静まり返った超越対策課に、

不意に電子音が鳴り響いた。


――内線。


全員の視線が、一斉に音の方向へ向く。


「……はい」


拓磨が受話器を取る。


短いやり取り。

だが、その表情が、みるみる強張っていく。


「……分かりました」


一言だけ答え、受話器を置いた。


「……新たな事件です」


室内の空気が、ぴんと張り詰める。


拓磨は、全員を見渡した。


「被害者は――子供」


一瞬、誰も言葉を発せなかった。


「高層マンションから、飛び降りたとみられる遺体が発見されたそうです」


喉を鳴らし、続ける。


「……そして」


一拍。


「現場の地面に、例の文字が残されていました」


りんが、息を呑む。


シエラの表情が、凍りつく。


「――『天』です」


拓磨は、拳を握りしめた。



          続く

善悪って、

案外あとから決められるものなのかもしれません。


SNSを見ていると、

それを強く感じることがあります。


とはいえ、

考えている間にも事件は起きてしまうわけで。


次は、現場です。

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