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制圧 【第5章白い影完】

今回で、第6章は完結です。


書き始めたときは、

ここまで来るとは正直思っていませんでした。

気づけば40話を超えていて、自分でも驚いています。


ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。


この章で一つの「区切り」はつきますが、

物語はまだ続きます。


どうぞ、最後まで見届けてください。

 午前10:45

 西新宿・東都信用銀行 西新宿支店


 銀行内は、異様なほど静まり返っていた。


 悲鳴も、泣き声もない。

 息を潜めた人質たちが、ただ一方向を見つめている。


 入口に立つ――みゆきの方を。


 床には、白石結衣が倒れていた。

 仰向けのまま、胸を上下させ、荒い呼吸を繰り返している。


 意識はあるが、身体はほとんど動かない。


 その白石のすぐ前に、新田は立っていた。


 棒を肩に担いだまま、

 しかし視線は、もう白石には向いていない。


 ゆっくりと――

 みゆきの方へ、顔だけを向けている。


 みゆきは、銃を構えない。

 足も止めたまま。


 ただ、冷え切った視線だけを新田に向けていた。


 視線が交差する。


 その瞬間、空気が一段、沈んだ。


 ロビーの端で、加藤が小さく息を呑む。


(……あれが)


 目を離せない。


(超越対策課……)


 新田の口が、わずかに動いた。


「……超越対策課、だぁ?」


 次の瞬間――

 額に、血管が浮き出る。


 歯を噛みしめ、低く唸る。


「……くっ……」


 苛立ちを隠そうともしない。


「いつの間に、呼びやがった……」


 新田の視線が、ゆっくりと落ちる。


 床に倒れ、息を切らす白石へ。


 白石は、その視線を受け止めることもできず、

 ただ、荒く呼吸を繰り返していた。


 新田は、鼻で笑う。


「……やってくれるじゃねえか」


 怒りと、確信が混ざった目。


 ――理解したのだ。

 ここまでの時間が、すべて“繋ぐため”だったことを。


 みゆきの視線が、ふと横へ逸れた。


 床に倒れた白石結衣。

 荒い呼吸。動かない身体。


(……結衣)


 胸の奥で、名前だけを呼ぶ。

 声には出さない。


 次の瞬間、視線が戻る。


 真正面――新田へ。


 みゆきは一歩も動かないまま、淡々と告げた。


「東都信用銀行西新宿支店における立てこもり」

「警察官への殺傷行為」

「複数人に対する殺意の行使」

「異能力の不正使用」


 一つずつ、事務的に積み上げる。


「以上の罪状により――」


 みゆきの声に、感情はない。


「あなたを、逮捕します」


 新田の表情が、歪んだ。


「……ふざけるな!!」


 声を荒げ、一歩踏み出す。


「超越対策課だろうが!!」

「たった一人で……俺を止められると思ってんのか!!」


 唾を吐くように言い放つ。


「……俺の能力の恐ろしさを見てから、後悔しやがれ!!」


 新田の手が、ポケットへ伸びた。


 ――最後に残っていた、小さな石。


 それを掴み、みゆきに向かって振りかぶる。


「伏せ――!!」


 加藤の叫びは、最後まで言い切れなかった。


 新田は、投げた。


 ――速い。


 先ほど警官たちに投げつけた時とは、比べものにならない速度。空気を裂く音すら、後から追いかけてくる。


 だが。


 みゆきの目の前で――


 石は、粉々に砕け散った。


 破裂ではない。

 弾かれたわけでもない。


 潰されたのだ。


 その場で、圧し折られるように。


「……!?」


 新田が、目を見開く。


「お、おい……!!」

「お前……何しやがった……!!」


 みゆきは、指一本動かしていない。


 ただ、静かに告げる。


「……重力を、少しだけ操作しただけよ」


 床に落ちた石の粉が、音もなく転がる。


 新田は、折りたたみ式の棒を――

 ぎり、と音がするほど強く握り締めた。


「……これなら……どうだ」


 低く呟いた、その瞬間。


 ――世界が、歪んだ。


 みゆきが、手のひらを胸のあたりまで上げ、見る。

 相手を見る、ただそれだけの動作。


 だが。


 異様なほど、遅い。


 身体が、思うように動かない。


 そう気づいた瞬間。


「これで――死ねぇぇぇ!!」


 新田が、一気に距離を詰めた。


 速い。


 棒が、大きく振り抜かれる。


 ――だが。


 みゆきの目の前で、

 新田の身体が、急激に沈んだ。


「……がっ……!?」


 まるで、全身にとてつもなく重い重しを載せられたような感覚。


 新田は、抵抗する暇もなく――

 床へ叩き伏せられる。


 次の瞬間。


 ビキ、ビキ、と嫌な音が走った。


 床が、耐えきれずに悲鳴を上げる。


 ――砕けた。


 銀行の床が陥没し、

 新田の身体を中心に、大きな穴が空く。


「……っ……!!」


 呻き声だけが漏れる。


 その瞬間、みゆきの動きが――元に戻った。


 時間が、正常に流れ出す。


 みゆきは、懐から

 対異能力者用の手錠を取り出す。


 そして――


 ツカ、ツカ、と音を立てて歩く。


 逃げ場のない距離。


 穴の底で、動けずにいる新田の前に立つ。


 新田は、悔しさと混乱を滲ませた顔で、みゆきを睨み上げた。


「……なんなんだ……」

「……お前は……!!」


 みゆきは、何も答えない。


 ただ、無言で手首を取る。


 ――かちゃり。


 乾いた金属音が、ロビーに響いた。


         ◆


 午前11:00

 西新宿・東都信用銀行 西新宿支店 前


 サイレンの音が、遅れて現実を連れてきた。


 パトカーと救急車が次々と到着し、

 銀行前は一気に慌ただしさを取り戻す。


 手錠をかけられた新田恒一は、

 無言のままパトカーの後部座席へ押し込まれた。


 抵抗は、もうない。


 救急隊員たちが、白石結衣を担架に乗せる。


 身体を固定されながら、

 それでも白石は、周囲を探すように視線を動かした。


「……結衣!」


 みゆきの声が、はっきりと届く。


 担架の横に駆け寄り、

 白石の手を、強く握った。


 白石は、かすかに目を開く。


「……みゆき……」

「よかった……来てくれ……たのね……」


 その声に、みゆきの表情が一瞬だけ崩れる。


「……無茶、しすぎよ」


 言いかけて、言葉が詰まる。


 視線が震え、

 ぐっと堪えるように息を吸ってから、続けた。


「……でも……生きてて、よかった」


 目が、わずかに潤んでいた。


 加藤は、そのやり取りを、静かに見ていた。


 その時。


 みゆきの背後から、

 一人の男が静かに歩み寄ってくる。


 用務員姿の中年男性だった。


 男は、深く頭を下げる。


「……ありがとうございました」


 顔を上げ、穏やかに言う。


「あなたのおかげです」

「本当に……助かりました」


 そう言って、白石に手を差し出した。


 白石は一瞬きょとんとし、

 それから、力なく笑う。


「へへ……どういたしまして……」


 その手を、ぎゅっと握り返した。


 次の瞬間。


「お姉ちゃん!!」


 小さな男の子が、駆け寄ってくる。


「お兄ちゃんも!」

「ありがとう!!」


 続けて、ぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございました!!」


 人質にされていた人たちが深々とお辞儀をした。

 その光景を見て、

 白石は、ふっと微笑んだ。

 加藤も、胸の奥に溜まっていた息を、ゆっくりと吐き出した。


 担架が、ゆっくりと救急車へ運ばれていく。


 みゆきと加藤は、その背を見送った。


        ◆



【事件記録:暗号化保管対象】


「西新宿・東都信用銀行立てこもり事件」



発生日時


2025年6月13日午前9時12分〜午前11時00分


※ 午前9時12分

新宿中央署 第二課による初動対応開始

※ 午前10時30分

白石結衣巡査部長より「505」発信

※ 午前10時45分

警視庁 超越対策課 みゆき 現場介入

※ 午前11時00分

被疑者確保、事件終結



発生場所


東京都新宿区西新宿

東都信用銀行 西新宿支店



概要


被疑者 新田にった 恒一こういち は、

西新宿・東都信用銀行西新宿支店において立てこもり事件を発生させ、

来店客および行員を人質として長時間拘束。


現場に駆け付けた新宿中央署 第二課所属警察官および、第一課所属の白石結衣巡査部長、加藤優馬に対し異能力を用いた攻撃を実行。

25人の第二課の警察官が死亡、白石結衣巡査部長は重症となり、現場は一時制圧不能状態に陥った。


同日午前10時30分、

現場対応中の 白石 結衣 巡査部長 が

対異能者緊急コード「505」を発信。


これを受け、

警視庁 超越対策課 が正式介入。


午前10時45分、

超越対策課所属 みゆき が単独で現場に到着。


被疑者新田は異能力による抵抗を継続するも、

みゆきの制圧行動により短時間で無力化。


午前11時00分、

被疑者新田を現行犯逮捕、事件は終結した。



主犯


新田 恒一(30)



能力


物体運動操作(投擲強化・速度制御)


※ 覚醒型異能

※ 投擲物の初速・軌道・破壊力を任意に強化可能

※ 対象の行動速度を局所的に低下させる副次効果を確認


危険度:高

(即時殺傷能力・市街地被害拡大の恐れあり)



罪状


・強盗致傷

・監禁罪(人質立てこもり)

•警察官殺害(25名)

•警察官殺傷未遂(白石結衣)

・複数人に対する殺意の行使

・公共施設損壊

・異能力不正使用

 (対異能力犯罪取締法違反)

・凶器使用による殺人未遂


※ 上記は現時点判明分

※ 捜査進展により追加の可能性あり



被害者


・白石 結衣(巡査部長)

・新宿中央署 第二課 所属警察官 25名

・銀行職員・来店客(人質)多数


※警官25名は死亡

※ 白石巡査部長は、医療機関へ搬送済み



損害


・銀行ロビー床部の大規模損壊

・警察車両・装備品の一部破損

・精神的被害者多数(要継続ケア)



被疑者 新田の処遇


被疑者新田は、

覚醒型異能力を用いた反社会的行動を繰り返しており、

通常拘置での管理は不可能と判断。


Iridium -04(第4異能特別拘束区画) へ移送予定。


※ 長期隔離・能力抑制処置対象

※ 社会復帰の見込みなし


判決推定:無期懲役相当



特記事項


本件は

「西新宿・銀行立てこもり事件」として一般報道済み。


ただし、

異能力の存在および超越対策課の介入については

国家特級機密 として秘匿。


公開情報上では

「特殊部隊による制圧」として処理されている。



備考


本件は

能力悪用型凶悪犯罪の代表事例 として、

超越対策課内部教育資料に編入予定。


記録は暗号化の上、

Elysium本部データバンク に保管する。



         ◆


 午前11:20

 新宿通り


 事件の現場から、ほんの数分歩いただけ。


 通りは、いつも通りだった。


 信号待ちの人波。

 行き交う観光客。

 昼休みに入ったサラリーマンの笑い声。


 さっきまで、銀行で人が死んでいたとは思えないほど、

 新宿は――賑やかだった。


 その雑踏の中を、

 用務員姿の男が歩いている。


 手には何も持たず、足取りも軽い。


 隣に並ぶように、

 OL風の若い女性が歩調を合わせた。


 少しだけ声を落として、尋ねる。


「……どうでした?」


 用務員姿の男は、前を見たまま答える。


「ターゲットは見つけたよ」


 口調は、やけに軽い。

 どこか少年じみている。


「彼女ね。微力だけど、ちゃんと魔力を持ってた」


 女性は、わずかに眉をひそめる。


「……わざわざ、あんな危険なことしなくてもよかったのに」


 溜め息混じりの声。


 用務員姿の男は、くすっと笑った。


「いいじゃん」


 肩をすくめる。


「結構スリルあって、楽しかったよ」

「間近で見ると、やっぱり違うしさ」


 女性は、もう一度ため息をついた。


「……本当に、趣味が悪い」


 数歩、沈黙が流れる。


 雑踏の音が、その間を埋める。


 やがて、女性が言った。


「……では、プランBに移行されるんですね」


 用務員姿の男は、足を止めない。


「そうだね」


 一瞬、考えるように視線を上げてから――

 口角を、ゆっくりと吊り上げた。


「その前にさ」


 声が、ほんの少しだけ低くなる。


「……そろそろ、始まると思うよ」


 女性が、横目で見る。


「予告通り――」


 用務員姿の男は、楽しそうに続けた。


「新宿大災害から、ちょうど七年だし」


 その笑顔は、

 雑踏の中では、誰の目にも留まらない。


 けれど――

 ひどく、不気味だった。


      第5章白い影完


今回の章では、

人間と異能力者の間にある「決定的な壁」を、

しっかり描けたのではないかな、と思っています。


白石や加藤をはじめ、

人間たちは必死に抗い、時間を稼ぎ、

「どうやって超越対策課に繋げるか」という一点に、

すべてを賭けていました。


勝利そのものは異能力者による“制圧”でしたが、

そこへ辿り着くまでの道筋は、

間違いなく人間たちが作ったものです。


今回は、そのドラマを書けたことが、

個人的にもとても印象に残る章になりました。


次回は少し肩の力を抜いて、休憩回になります。


そして――

ついに、シエラが異世界にいた頃のパーティメンバーが登場……!?


この先も、よろしくお願いします。


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