表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/55

白い影

よく自分「家の鍵、ちゃんとかけたっけ?」って不安になる時ほど、だいたいちゃんとかけてるんです。

そして大丈夫か……って思った時ほど大体かけてなかった現象ってなんなんでしょうね。


それでは本編始まります!

 午前10:30

 新宿中央署・通信指令課の指令室


  指令室に、緊急無線の呼び出し音が鳴り響く。

 短く、鋭い電子音。

 反射的に、数人のオペレーターが顔を上げた。


 新人のオペレーターAも、その一人だった。


 視線が、無線端末の表示へ吸い寄せられる。

 通信番号の欄に、見慣れない数字が浮かんでいた。


「……この番号って……」


 思わず、声に出る。


 背後から、オペレーターBが覗き込み――次の瞬間、表情が凍りついた。


「おい……それ、505だぞ」


 Aが振り向く。


「え……?」


「対異能者用の緊急番号だ」


 空気が、一段重くなる。


 Bはすぐに通信先を確認し、息を呑んだ。


「発信元……白石巡査部長だ」


 一瞬の沈黙。

 そして、Bは即座に叫んだ。


「今すぐ超越対策課に繋げ!!」


 指令室が一気に動き出す。

 無線が切り替えられ、内線が掴まれ、室内は非常対応へと移行した。


 同刻 超越対策課


 超越課の執務室は、静けさに包まれていた。


 キーボードを叩く乾いた音。

 資料をめくる紙の擦れる音。

 

 その静寂を引き裂くように、机の上の専用回線の子機が、突然けたたましく鳴り出した。


 みゆきは一瞬だけ指を止め、すぐに子機を取る。


 受話口から流れ出したのは、感情の欠片もない、無機質な音声だった。


「異能力事件発生。異能力事件発生」


 淡々とした声が続く。


「直ちに出動せよ」

「場所は――西新宿」

「東都信用銀行・西新宿支店」


 みゆきの指先が、わずかに強張る。


 さらに一拍置いて、音声が続いた。


「連絡先……白石巡査部長」


 胸が、強く脈打った。

 心臓の音が、自分でもはっきり分かるほど大きくなる。


「……結衣……」


 小さく息を呑む、その声を、すぐそばでシエラが聞き取った。


「どうしたの?」


 みゆきは一瞬だけ迷い、それから短く答える。


「……異能力事件よ」


 シエラの眉が、わずかに動く。

 場の空気が、目に見えて引き締まった。


「それも……結衣からの連絡みたい」


 執務室の温度が、確かに下がる。


 シエラは一歩、前に出かけて――


「……私が、行こうか?」


 みゆきは即座に首を横に振った。


「いえ……」


 一拍。

 そして、はっきりと言い切る。


「私が、一人で行く」


 その瞬間、みゆきの表情から、いつもの柔らかさが消えた。

そこにあるのは、冷え切った、完全な業務用の顔。


 シエラは、それ以上何も言わない。

ただ、みゆきをじっと見つめてから――小さく頷いた。


「……わかった」


 ほんの少しだけ声を落とす。


「気をつけてね」


 みゆきは答えず、上着を手に取った。



 西新宿・東都信用銀行西新宿支店。


 ロビーは、すでに戦場の跡だった。


 血の匂いが、空気の奥にこびりついている。

床には倒れた警官たちが転がり、誰一人として動かない。


 静かすぎる空間だった。

銃声も悲鳴も消え去り、ただ結果だけが残されている。


 白石結衣は、その床に倒れていた。

身じろぎ一つできない。

目は半開きのまま、焦点が定まらない。


 それでも――意識だけは、かろうじて繋がっていた。


 その横に、加藤がしゃがみ込んでいる。

外から見れば、応急処置をしているようにしか見えない。


 だが、彼の視線は一度も、ロビー中央から離れなかった。


 そこに立つ男――新田。


 新田は、二人を見ている。

 隠そうともしない、値踏みするような視線で。


 白石の指先が、床を二度だけ叩いた。


 音は、ほとんど聞こえない。

 だが、加藤は一瞬だけ息を呑んだ。


 ――合図だ。


 白石は声を出さない。

 唇だけが、わずかに動く。


「……ごー……まる……ご……」


 加藤の表情が、はっきりと変わった。


 悟った顔だった。


 その時。


 新田が、ゆっくりと近づいてくる。


 床を踏む靴音が、やけに大きく響いた。

 静まり返ったロビーでは、それだけで威圧になる。


 新田は加藤を見下ろし、軽く笑う。


「何を話してる?」


 一瞬の沈黙。


 加藤は、白石をかばうように立ち上がった。

 震えを隠さないまま、正面から向き合う。


「……業務連絡です。あなたには関係ありません」


 

 新田は、肩をすくめ、鼻で笑った。


「……まぁ、どうでもいいか」


 その視線が、白石と加藤へ戻る。


「お前ら、今から死ぬんだしな」


 そこに迷いはなかった。

 脅しでも、虚勢でもない。

 ただ事実を告げているだけの声だった。


 加藤の背中を、冷たい汗が伝う。


(白石さん……)


 床に倒れた彼女から、視線を逸らさない。


(あなたが作った時間――)


 新田に悟られないよう、歯を食いしばる。


(必ず、俺が繋いでみせますから)


 拳が、無意識に強く握られていた。


 加藤は、喉を鳴らして唾を飲み込み、一歩前に出た。


 声は震えていた。

 だが、言葉だけは、はっきりと放つ。


「……一つだけ、聞かせてください」


 新田が、ほんの少しだけ眉を上げる。

 想定外の反応だったらしい。


「あ?」


 加藤は視線を逸らさない。


「さっき言ってましたよね」

「力をくれた“あの方”が現れたって」


 新田の口角が、わずかに上がった。

 それは警戒ではなく――誇示する側の笑みだった。


 加藤は、間を与えない。


「……あの方って、誰なんです?」



 新田は、少しだけ考える素振りを見せた。


「誰、ねぇ……」


 肩をすくめる。


「名前は知らねえよ」


 一拍置いて、思い出すように続ける。


「白い髪でさ」


 視線が、宙を彷徨う。


「肌も、服も……全部、白かった」


 口元が歪む。

 どこか楽しそうに。


「年齢? 分かんねえ」

「ガキみたいでもあったし、やけに整った顔でよ」


 指先で、自分の胸元を軽く置いた。


「ただ――近くにいるだけで、ぞっとした」


 加藤が、思わず息を呑む。


 新田は肩を落とし、吐き捨てるように言った。


「白いオーラ、って言えばいいのか……光ってるのに、あったかくねえんだ」


 ほんの一瞬、真顔になる。


「……神、って言葉が一番近いかもな」


 すぐに、また薄く笑った。


「少なくとも、人間じゃねえ」


 ふっと息を吐く。

 自嘲気味に、笑う。


「あの方を見てるとよ、何もかも見透かされてるみてえで、正直、薄気味悪かった」


 それでも、口角がわずかに上がる。


「でもよ……」


 指先が、無意識に震えた。


「不思議と、嫌じゃなかった」


 加藤は、言葉を失う。


 新田は低い声で、ゆっくりと続ける。


「むしろ……心地よかったんだ」


 自分でも理解できない、という風に首を振る。


「全部バレてるなら、もう隠さなくていい、そう思えた」


 最後に、ぽつりと。


「……楽だったよ」


 新田は棒を、ぶん、と振った。

 空気が唸る。


「……もういいだろ」


 冷めた声。


「この話、お前に言っても意味ねえ。どうせ、もうすぐ死ぬんだ」


 新田は、棒を肩に担ぎ直すと――

 トン、トン、と軽く叩いた。


加藤は、一瞬だけ息を飲んだ。


 それでも、声を出す。


「……待ってくれ、もう一つだけある」


 新田が、


「あ?」


と言いながら、面倒くさそうに視線を向ける。


 加藤は、言葉を選ぶように続けた。


「……明香里さんの件だ」


 その瞬間だった。


 新田の指先が、わずかに止まる。

表情が、ほんの一瞬だけ強張った。


 加藤は続けて、


「俺が、謝ることじゃないのは分かってる」


 新田は無言だった。


 加藤は視線を逸らさず、続ける。


「警察としてじゃない…事件の当事者でもない」


 声が、わずかに震れる。


「……ただ、個人的に、謝らせてくれ」


 深く頭は下げない。

 ただ、言葉だけを落とす。


「……すまなかった」



 新田の感情が、弾けた。


「……ふざけるな!!」


 棒がぶんっと風を強く切る。


「お前に謝られたってなぁ!明香里は、帰ってこねえんだよ!!」


 声が荒れる。


「警備を強化してくれてたら!」


「一度でも、真剣に話を聞いてくれてたら!」


 指先が震える。

 怒りと悲しみが、混ざり合って溢れ出す。


「毎日だぞ!毎日、明香里は……怯えてたんだ!」


 喉が詰まったように、声が掠れた。


「それを……事件性がない、で突き放して……」


 顔を歪め、吐き捨てる。


「今さら……すまなかっただと……?」


 最後は叫びではない。

 低く、底に沈んだ声。


「……冗談じゃねえ」


 怒鳴り終えたあと、新田は、しばらく何も言わなかった。


 荒れていた呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


「……あの方が言ってた」


「この件はな、表じゃ生活安全だが、裏で切ったのは、二課だって」


 加藤が、思わず息を呑む。


「だから、ここを狙って犯行しろってよ……二課が来るってな」


 そして、最後に一言。


「……そしたら、本当に来たじゃねえか」


 新田は、ふっと息を吐いた。

 棒を肩に担ぎ直す。


「……もう、いいだろ」


 加藤を見る。

 そこに、怒りも悲しみもない。


 ただ――処理する対象を見る目だった。


「今日ここで、警察と、人質全員、ここで殺す。」


 加藤の喉が、無意識に鳴った。


「それから、明香里を殺した犯人を殺してから、俺も死ぬ!」


 新田は棒を上げる


「じゃあな……」


 そう言い、加藤の頭を狙って、棒が振り抜かれた。


 その瞬間――

 視界に、影が割り込んだ。


 新田の腕が、止まる。


 加藤の目の前になっていたのは、白石だった。


 俯いたまま、立っている。

 顔色は悪く、呼吸も乱れている。

 今にも崩れ落ちそうな姿なのに。


 それでも――


 白石は、新田の腕を、両手で掴んでいた。


 新田が、眉をひそめる。


「……おいおい」


 腕を振り払おうとする。

 だが、動かない。


 もう一度、力を込める。

 それでも、外れない。


 新田は、思わず笑った。


「なんだよ、これ」

「馬鹿力か?」


 白石は、震える声で


「……加藤くんを……」


「……殺させない……」


 息が詰まり、言葉が途切れる。

 それでも、必死に続ける。


「あ……な……たを……」

「……つか……まえる……」


 新田の表情が、歪んだ。


「……うるせぇ!!」


 力任せに振り払われ、白石の身体が床に叩きつけられる。

鈍い音が、ロビーに響いた。


「いい度胸じゃねえか」


吐き捨てるように言い、棒を構え直す。


「じゃあ――

お前から、やってやるよ!!」


 白石に向けて、棒が振り下ろされる――その瞬間。


 新田の背筋に、説明できない悪寒が走った。


 心臓が、ひくりと跳ねる。


 理由は分からない。

ただ――嫌な、感じだった。


 その時だった。


 自動ドアが――静かに、開く。


 先ほどまでの地獄のような空気が、

新田の腕をわずかに止めた。


 白石に向けた棒が、半端な位置で静止したまま。


 新田は、ゆっくりと振り返った。


 ロビーの入口。

逆光の中から、一人の女が歩いてくる。


 足取りは速くない。

迷いもない。

ただ、まっすぐ前を見ている。


 みゆきの冷え切った眼差しが、新田だけを捉える。


 銃は構えない。

 走りもしない。


 それでも、場の主導権が、一瞬で移った。


 新田の背中を、さっきとは比べものにならない悪寒が這い上がる。


 みゆきは歩みを止め、淡々と告げた。


「超越対策課……あなたを――

捕まえに来たわ」


 ロビーが、完全に静まり返る。


 聞こえるのは、新田の呼吸音だけだった。


         続く

ついに、みゆきが現場に到着しました。

果たして彼女は、新田を“捕まえる”ことができるのか。


そして――

新田が語った“あの方”とは、一体何者なのか。

少しずつ、その輪郭が見え始めてきました。


次回で第5章は完結となります。

その後は少しだけ休憩回を挟む予定です。


ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

引き続き、お付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ