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崩れた秩序と、紫金の双瞳

 ねぇ、力ってさ――人を救うもののはずでしょ?

 でも、現実はそんな甘くない。

 恨みと憎しみで歪んだ“力”は、簡単に世界を壊すの。


 誰も止められないって? ――なら、あたしが止めてやる。

 暴走する人間も、崩れゆく秩序も、全部この“紫金の瞳”で見据えてさ。

【午後22時 アルメス物流第七ビル・20階】


 蛍光灯がちらつく薄暗いオフィスで、五十嵐真也はゆっくりと歩みを進めていた。

 震える人質たちの中でも、元上司の斎藤だけは、怯えた目で必死に言葉を絞り出す。


「や、やめろ五十嵐! こんなことしても、何にもならな――」


「黙れよ、“係長”さんよ」


 五十嵐の声は、ひどく静かで、しかし底冷えするような怒気を帯びていた。

 次の瞬間、机を蹴り飛ばす。

 重い鉄脚のデスクはまるで紙切れのように吹っ飛び、奥の壁へ**ドガァン!**と激突して砕け散る。


「俺を切り捨てた会社が……。なぁ、斎藤係長。壊れていく音って、こんなに気持ちいいんだな」


 ゆっくりと斎藤へ歩み寄り、こめかみに指先を突きつける。

 その目は、瞳孔が開き、異様な光を放っていた。


「……ここだ。ほんの1センチ動かせば、お前の脳みそは壁のシミだ」


 冷や汗が斎藤の頬を伝う。

 五十嵐は口元を歪め、楽しそうに笑った。


「試しに見せてやろうか。――こんなふうにな!!」


 バシュゥッ!

 指先から放たれた圧縮空気弾が、壁際のロッカーを直撃。

 **ズガァァン!**という轟音とともに、分厚い鉄板が粉々に砕け散った。


 誰もが息を呑む中、五十嵐はゆっくりと斎藤を見下ろす。


「次は……お前の番だ」


 その瞬間、廊下の奥から怒号が響いた。


「警察だ! 無駄な抵抗はやめろ! 今すぐ人質を解放しろ!!」


 重装備の突入班が盾を構えて雪崩れ込む。分厚い防弾シールドが前列に並び、銃口が一斉に五十嵐へと向けられた。


「動くなッ! 次に手を出せば――」


「うるせぇんだよ……雑魚が」


 五十嵐が冷たく吐き捨て、指先をわずかに動かす。


 バシュゥゥゥッ!!!!


 凄まじい空気の奔流が炸裂し、突入班のシールドごと警官たちを吹き飛ばした。

 数十キロはあろう重装シールドが宙を舞い、壁に叩きつけられて**ドガァァン!**と砕け散る。


「ぐっ……! 全員後退だ! これ以上は危険だ!」


 隊長の怒鳴り声と共に、突入班は一時撤退を余儀なくされた。

 床には吹き飛ばされた警官がうめき声を上げ、壁は衝撃でひび割れている。


「ハァ……ハァ……」

 肩で息をしながらも、五十嵐の表情は恐怖ではなく“恍惚”だった。

 その瞳は完全に狂気に染まり、瞳孔は開ききっている。


「見たか……! これが力だ!!」

 両手を広げ、五十嵐は天を仰いで笑い声を上げた。


「俺はもう、誰にも止められねぇ! この力さえあれば、会社も、街も、国すらも――全部、俺のものだッ!!」


 その狂気じみた笑いが、夜のビル全体に響き渡った。


【午後22時40分 東京都・新宿区内】


 赤色灯がビルのガラスを赤く染め、サイレンが夜の街を切り裂いていく。

 警視庁・超越者対策課のパトカーが、車線を縫うようにして疾走していた。


 ハンドルを握るのは青木拓磨。

 助手席のみゆきは、無線端末を耳に当てたまま、短く息を吐く。


「――こちら遠藤。現場の状況を」


『【アルメス物流第七ビル】五階。立てこもり犯は“空気圧縮系”の超越者、Cランクと確認されています』


「被害は?」


『警官十名が負傷、うち三名が重傷。攻撃は不可視で、防御も回避も困難とのことです。現場部隊では対応不能、早急な介入を要請しています!』


 みゆきの眉がわずかに動いた。

 「Cランク――現場の連中じゃ、まず太刀打ちできないわね」


「……やっかいな相手ね。“見えない弾丸”なんて、下手すれば即死よ」


 ぼそりとつぶやく声に、ハンドルを握る拓磨が前を見据えたまま言った。


「課長、現場は修羅場らしいですよ。もう俺らが行くしかないっす」

「ええ、わかってる。――止めるわよ、必ず」


 パトカーはさらに速度を上げる。

 夜の新宿、その光と影の狭間を裂くように、赤い警光が疾走していった。


 車内に一瞬、静けさが落ちる。

 そして、拓磨が少し言いづらそうな声で口を開いた。


「……課長、一つ聞いていいっすか?」

「なによ?」


「――なんで“金髪の少女”を連れてきてるんすか?」


「……は?」


 思わず間の抜けた声を出し、みゆきはゆっくりと後ろを振り返る。


 するとそこには、後部座席にちゃっかり座り、窓の外を眺めながらつぶやく金髪の少女――シエラの姿があった。


「……能力って、便利だけど……怖いことにも使えるんだねぇ〜」


「なんでいるのよあんたぁぁぁ!!!」


 みゆきの絶叫が車内に響き渡る。


「やっほ〜〜♪ 来ちゃった☆ てへっ」


「“てへっ”じゃないわよぉぉぉ!!!」


 みゆきは慌ててシートベルトを外し、運転席へと身を乗り出す。


「拓磨! 戻るのよ!! すぐ署に戻って!!」

「ちょ、課長っ!? ハンドル握らないでくださいって!! 前!前ぇぇぇ!!!」


 みゆきが暴れるたびにハンドルがブンブン揺れ、パトカーは蛇行運転を始めた。

 クラクションが鳴り響き、後続車が一斉に避けていく。


「うひゃ〜〜!遊園地みたいでたのし〜〜♪」


 シエラが楽しげに笑い声を上げる一方で、みゆきは顔を真っ赤にして叫んだ。


「楽しくないわよ!!」


 数分後――。


 蛇行運転の末、どうにか体勢を立て直したパトカーの中には、さっきまでの大混乱が嘘のような静けさが戻っていた。 


バックミラーの向こう――後部座席のシエラは、さっきまでの調子とは打って変わって、どこか遠くを見るような目をしていた。


「……放っておけない性格なの、昔からね〜」


 その横顔は、どこか昔を思い出しているようだった。


 みゆきはその姿をミラー越しにじっと見つめ、静かにため息をついた。


「……もう、わかったわよ」


 そして改めて、真剣な表情でシエラを見つめる。


「いい? 来ちゃったものはもう仕方ないわ。でも、現場は本当に危険よ。絶対に近づいちゃダメ。これは約束」


「うん! わかった!」


 満面の笑顔でサムズアップするシエラ。

 その様子を横目で見ながら、みゆきと拓磨は同時に同じことを思った。


((……はい、行く気満々ね))



 ――そして、この予感は、嫌なほど的中する。

……というか、約束を守る気なんて、最初から一ミリもなかったらしい。




ーーーーーーーー続くーーーーーーーー

は〜〜……やっぱり人間って、力よりも“心”のほうがよっぽど怖いよね。

 五十嵐って人、ただ暴れてるだけじゃない。あの人の中には、ちゃんと“理由”があるんだと思う。

 でもさ、それでも許されることと、越えちゃいけない一線ってのはあるんだよ。


 ……さて、次はもっと面倒な展開になりそう。

 あたしの出番、まだまだこれからだから――ちゃんと見ててよ?

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