「零距離(ゼロレンジ)」
エレベーターの「閉」ボタンって、
押しても意味ないことがあるらしいですね。
もう閉まる時間が決まってたり、
ドアが動き出した後だったりすると、
押しても実は何も変わってないとか。
それでも、つい押しちゃう。
早く閉まれ、というより、
何もしないで待つのが、
なんとなく落ち着かないから。
結果が変わらなくても、
「自分は何かした」って思えると、
少し落ち着きますよね(笑)
では今回も本編始まりますよ!
自動ドアの前。
新田は、ピストルを天井へ向けたまま立っていた。
銃口の先から、細い煙がまだ消えきらずに漂っている。
それを挟むように、警官たちが銃を構えた。
引き金に指はかかっている。
距離も、角度も、問題ない――はずだった。
それでも、誰も撃たない。
微かに、銃口が揺れている。
呼吸が乱れ、指先が震える。
撃てない理由は、誰にも説明できなかった。
新田は、その様子を一人ずつ眺めてから、口の端を歪めた。
「……やっぱりな」
小さく笑い、銃を下ろすことなく言う。
「十分ごとに、一人ずつだ。
中にいる連中を、順番にな」
ゆっくりと視線を店内へ向ける。
「せいぜい――
助けられなかったことを後悔しながら、眺めてろ」
新田はもう警官たちを見ず、銃を下げたまま踵を返した。
銃を構えたまま、若い警官が視線を外さずに言った。
「……警部、どうしますか」
一瞬の沈黙。
警部は無線を握りしめ、額に滲んだ汗を拭う。
「白石巡査部長を待つ」
低い声で、はっきりと言った。
「今踏み込めば、人質が死ぬだけだ。
……全員、動くな」
その言葉に、誰も反論できなかった。
銀行の中。
新田は、カウンターを越えて歩きながら、仲間の視線を受けた。
「……どうですか」
新田は鼻で笑った。
「来ねえよ。
あいつらはもう、震えてる」
仲間の一人が、入口の方を気にしながら言う。
「じゃあ、裏口から――」
「いや」
即答だった。
「人質で遊ぶ」
新田は、床に座らされた客たちを見下ろす。
怯えた目。
祈るように組まれた手。
「ほらな」
ぽつりと呟く。
「結局、あいつらは動かねえ。
命より、損得だ」
「だから――
彼女は、殺された」
新田は目を横に流しながらいう。
そして、新田はポッケから石を出して、指で弄りながら
「今度は、俺が奴らに地獄を見せる」
石が、指の上で静かに止まった。
「あの方にもらった、この力でな」
10:15
サイレンが短く鳴り、
一台のパトカーが現場前で止まった。
ドアが開き、白石結衣と加藤が同時に降りる。
「お疲れ様です!」
周囲にいた警官たちが、反射的に敬礼した。
白石と加藤も、軽く頷くように敬礼を返す。
「状況は?」
白石が、即座に問いかける。
警官が簡潔に経緯をまとめる。
発砲。
人質。
犯人が十分ごとに一人ずつ殺すという宣言。
撃てなかった理由は、誰にも分からないこと。
話を聞き終え、白石は小さく息を吐いた。
「……やばいわね」
そこへ、2課の警部が近づいてくる。
「白石巡査部長。
来てからで申し訳ないが……どうしますか」
白石は迷わなかった。
「私と加藤、二人で裏から行きます」
警部の眉が跳ね上がる。
「待ってください、それは――
さすがに無茶です」
白石は首を横に振る。
「大勢で行ったら、奇襲にならないでしょ」
一拍置いて、少しだけ肩をすくめる。
「それに私、生まれつき体、頑丈だから」
そう言って、胸を張る。
警部は一瞬言葉に詰まり、
現場と銀行の入口を見比べた。
「……分かりました」
白石はすぐに続ける。
「突入の合図は、私がやるわ」
腰のホルスターに視線を落とす。
「中で、上に向けて一発撃つ。
その音が聞こえたら、突撃して」
警部は短く頷いた。
「了解しました」
白石は加藤を見る。
「行くわよ」
「了解っす」
二人は並び、
人目を避けるようにして銀行の裏口へ向かっていった。
銀行の裏口。
非常灯だけが点いた通路は、昼間だというのに薄暗い。
床には、清掃用のバケツとモップが寄せられ、
奥からは機械音と、かすかな人の気配が漏れてくる。
白石と加藤は、ピストルを構えたまま、壁伝いに近づいていた。
足音を殺し、呼吸のリズムだけを合わせる。
二人は、視線だけで合図を交わす。
――行く。
白石が一歩、前に出た。
ピストルの照準をドアへ向け、
一度、深く息を整える。
取っ手に指をかけ、
軋まぬよう、ゆっくりと引いた。
わずかに開いた隙間から、白石は中を覗く。
ロビーの中央に、新田が立っていた。
その周囲には仲間が五人。
二人は新田のすぐ近くに。
一人は人質の側で目を光らせ、
残りの二人は受付側――
パソコンや書類が並ぶ業務スペースに陣取っている。
人質たちは、床に座らされ、身を寄せ合っていた。
白石は、そっと視線を戻す。
「……私が行く」
低い声。
加藤が一瞬、眉をひそめる。
「でも――」
「大丈夫」
白石は、ほんのわずかに口角を上げた。
「加藤くんは、援護。
私が合図出すまで、動かないで」
言い切る口調だった。
白石は壁に身を沿わせ、
ロビーの陰へと静かに入り込む。
一歩。
また一歩。
距離が、少しずつ縮まっていく。
新田の背中が、視界の端に入った、その瞬間。
白石は、躊躇なく踏み込んだ。
一気に床を蹴り、
ロビーへ飛び出す。
その動きは、あまりにも速かった。
最初の一撃。
新田の近くにいた仲間を掴み、勢いのまま投げ飛ばす。
同時に、受付側にいた二人へ。
動く前に間合いを詰め、連続で叩き込む。
二人は声を上げる間もなく、その場に崩れ落ちた。
「……っ!?」
異変に気づいた新田と残りの仲間が、振り向く。
「加藤くん、今!」
白石の声。
加藤が引き金を引いた。
狙いは新田ではない。
乾いた発砲音。
仲間の手から、ピストルが弾き飛ばされる。
白石はすでに動いていた。
人質のそばにいた男の懐へ踏み込み、腹部に一撃。
男は息を詰まらせ、その場に崩れる。
残った仲間は、完全に混乱していた。
白石の動きが速すぎて、目が追いつかない。
パニックの中——
新田だけが、静かに状況を見ていた。
一瞬だけ目を見開き、
次の瞬間、口元を歪める。
白石は間髪入れず、残る二人の腹部を叩き、気絶させる。
そして、ピストルを新田へ向けた。
新田は両手を上げ、軽く口笛を吹く。
「ヒュー……」
背後から、加藤も新田に銃口を向け、ゆっくり近づく。
新田は、加藤にも視線を向けた。
その瞬間。
白石は銃を上へ向け――
発砲。
「突撃!」
警部の号令。
次の瞬間、何十人もの警官がなだれ込む。
新田は完全に包囲された。
白石が低く告げる。
「……さあ。
大人しく自首しなさい」
新田は一度、息を吐き――
「……ハハ」
そして、
狂ったように笑い出した。
「何がおかしい……?」
白石の額を、冷たい汗が伝う。
新田は笑みを残したまま、言った。
「ここまで、見事に騙されるとはな。
……やはり、あの方は間違っていなかった」
そう言って、ポケットに手を入れる。
取り出したのは――
小さな石ころを、五つ。
新田はそれを軽く放り投げた。
「零距離投擲」
そう言った瞬間、白石の近くにいた警官の身体が、糸を切られたように落ちた。
「……は?」
倒れた警官に視線を落とした瞬間、
白石は息を呑んだ。
頭部から、血がトクトクと音を立てて、床に落ちていた。
その空気を切り裂くように、新田が口角を上げた。
「さあ――
ここからが、地獄の始まりだ」
その瞬間、男の瞳が、異様な光を帯びる。
続く
今回は、ついに新田が動き出しました。
それにしても、
新田の能力って一体……?
そして、あの方とは誰なんでしょうか。
次回も、ぜひお楽しみください。




