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友達だよ

6月4日 19時30分。

新宿・居酒屋。


店内は騒がしかった。

仕事終わりの会社員、学生のグループ、観光客。

注文の声と笑い声が重なり、空気は熱を帯びている。


白石は、すでに少し出来上がっていた。


グラスを片手に、身を乗り出す。


「ねぇ、みゆき〜。聞いてよ〜」


声が、普段より一段高い。


「この前さ、また婚活行ったんだけどさぁ〜

 全然いい男いなかったんだよ!!」


みゆきはジョッキを置き、苦笑する。


「また行ってたの?」


「行くでしょ!真剣なんだから!」


白石はぷんすかしながら言った。


「ねぇ、誰かいないの?

 いい男!紹介してよ!!」


「いい男ねぇ……」


みゆきは視線を宙に泳がせる。


――まず浮かんだのは、拓磨。


「……あっ、俺は無理っす」


なぜか即座に脳内で断られる。

筋肉以外は基本気だるげ。


「うん、ないな」


次。


――村崎警視長。


「……あの人、奥さんいるし」


論外。


最後に一瞬だけ浮かんだのが――

つきみやあおい。


「……うん、ニートだし……ないな」


拓磨より酷い。

むしろ最悪。


みゆきは、結論を出した。


「……ごめん。いないわ」


「えぇ〜!!」


白石は大げさに声を上げる。


「嘘でしょ!?

 警察関係者、もっといるでしょ!?」


みゆきはジョッキを置き、白石を見る。


「で、結衣の言う“いい男”って、どんなのよ」


白石は待ってましたとばかりに身を乗り出した。


「え、だからさ――

 高身長で、高収入で、顔ちゃんとしてて、

 清潔感あって、優しくて、浮気しなくて!」


ほとんど息継ぎなしだった。


「……あと束縛しなくて、家事できて、将来の話もちゃんと――」


「待った待った待った」


みゆきが即座に遮る。


「厳しすぎ。

 それ、いるわけないじゃない」


「ひどい!!」


白石はグラスを傾け、ぶーっと頬を膨らませた。


「普通の条件言ってるだけなのに……」


みゆきは苦笑しながら、ジョッキを口に運んだ。


店の奥、ひとつの席だけ空気が違っていた。


男性客の輪ができている。

中心にいるのは、シエラとりんだった。


「え、それマジで言ってるの?

 ウケるんだけど〜!」


シエラが腹を抱えて笑う。


「だろ!?

 “これは君のためを思って言ってる”とか言われてさ!」


ネクタイを緩めた男性が、上司の口調を誇張して真似る。


「『君はまだ若いから分からないだろうがね』って!」


「うわ〜出たそれ!」


シエラが即座に食いつく。


「あるあるすぎ!」


「だろ!?」

男が勢いづく。


「なぁ姉ちゃん、俺の話も聞いてよ」


「いいよ〜」


シエラは軽く頷く。


その横で、りんが小声で言った。


「……ちょっとシエラ。

 なんか、みんな集まって来ちゃってるじゃない」


シエラはグラスを持ち上げる。

中身はジュースだ。


「いいじゃん。

 みんな楽しく話そうよ」


りんも同じく、ジュースを一口。


「……もう」


そう言いながらも、止めはしなかった。


店の視線は、自然とその席に集まっていた。


その中で、シエラがふと顔を上げる。


「あ」


次の瞬間、ぱっと表情が明るくなった。


「みゆき〜!」


場違いなほど元気な声が飛ぶ。


みゆきは、思わず眉をひそめた。


――今の声。

どこかで聞いたような。


振り返った、その先。


男性客に囲まれたまま、

シエラが大きく手を振っていた。


「……ぶっ」


みゆきは思わず吹き出した。


「シエラ!りん!あなた達何してんのよ!」


そのまま何事もなかったように立ち上がり、

りんを連れて席を移動しながら、


「いやぁ……今日、りんと買い物行っててさ。

 プリクラ撮ったあと、ご飯行きたいねって話になって。気づいたらここ!」


「……助かった」


りんは小さく息を吐き、どこかほっとした表情を見せた。


シエラは白石を見て、首を傾げる。


「ねぇ、みゆき。

 隣にいる人、誰?」


「白石結衣。

 うちの一課の巡査部長よ」


「へぇ〜」


白石はその視線に、少しだけきょとんとした顔になった。


「……?」


それを見て、みゆきが苦笑する。


「ほら、結衣。

 こっちはうちの部下よ」


そう言って、軽く手を向けた。


「シエラと、西園寺りん」


「白石結衣です。

 よろしくお願いします」


「よろしく〜!」


シエラはにこっと笑い、軽く手を振る。


「……よろしくお願いします」


りんは小さく頭を下げた。


四人の視線が、一瞬だけ交わる。

それから、居酒屋の喧騒がまた間に入り込んだ。


――からん、と。

どこかの席でグラスが触れ合う音。


すぐに、居酒屋の喧騒が戻ってくる。


不意に、シエラがテーブルの中央を指差した。


「これ、からあげ?って言うんだよね」


「そうそう」


りんが、少しだけ嬉しそうに頷く。


「これ本当美味しいよね!何個でも食べれちゃう」

シエラは目を輝かせながら、箸を取った。


一口。


「……!」


次の瞬間、ぱっと顔が綻ぶ。


「ん〜!やっぱおいしっ!」


思わず声が出た、という感じだった。


「外カリッとしてるのに、中すごく柔らかい!」


「でしょ〜」


りんは胸を張る。


「初めて来たときから、ずっと頼んでるの」


「日本のからあげ、すごいね……」


シエラは感心したように頷きながら、もう一つ口に運ぶ。


その様子を、白石がちらりと眺めてから、みゆきに小声で言った。


「ねぇ……」


「ん?」


「シエラちゃんって……

 どこの国の人なの?」


「えっと……」


みゆきが言い淀んだ、その隙に。


「レヴァルティア大国だよ」


「……レヴァ?」


白石が首を傾げる。


「ちょっと、シエラ」


みゆきが小声で止めると、

シエラはきょとんとして笑った。


「え?いいじゃん。

 別に秘密じゃないし」


そう言って、からあげを一つ口に放り込む。


「結衣、いい人そうだし。

 大丈夫でしょ」


みゆきは、小さくため息をついた。


「……結衣。

 落ち着いて聞いてね」


店内の笑い声や注文の声が重なり、しばらく会話が途切れたあと、

結衣がぽつりと口を開いた。


「……異世界から、やってきたの?」


白石が、半信半疑で言った。


「信じられないと思うけど、本当」


「なにそれ。

 よくある漫画的なやつ?」


「……マン、ガ?」


シエラが首を傾げる。


「まぁ……そんなとこね」


みゆきが曖昧に頷いた瞬間、


「えっ!?

 じゃあさ、もっと異世界のこと聞かせてよ!!」


白石が一気に身を乗り出す。


「いい男いる!?

 王子様とか!教えて!!」


「え、えっと……」


シエラは完全にたじろいだ。


「やめんか」


みゆきが即座に突っ込んだ。




22時。


店を出ると、夜風がひんやりと頬を撫でた。


みゆきは、白石を背負って歩いている。

腕の力はすっかり抜けていて、完全に出来上がっていた。


「……けっこん……」


小さな寝言が、背中越しに聞こえる。


「寝言でも言うか」


みゆきは、ため息混じりに呟いた。


その横を

シエラとりんが並んで歩いている。


少しだけ、間が空いた。


「……今日は、楽しかったよ」


みゆきが前を向いたまま、ぽつりと言った。


「まさか、二人に居酒屋で会えるなんて思ってなかったし」


「私も」


シエラが、歩調を合わせて答える。


「みゆきに、こんな場所で会えるなんて思ってなかったから。なんか、嬉しかった」


りんが小さく頷きながら、


「課長と、久しぶりにこんなふうに話せて……

 すごく楽しかったです」


と言った。


みゆきは、ふっと笑う。


そして前を向いたまま、続ける。


「シエラ。りん。結衣は……ああ見えて、仕事の時は本当にかっこいいし、優しくて、いい子だから」


少しだけ、言葉を探す間。


「……仲良くしてあげてね。

 ……って、私が言うのも変か」


その瞬間。


シエラが、みゆきの方を見て、にこっと笑った。


「当たり前じゃん。

 結衣とは、もう友達だよ!」


「あたしも!」


りんが、即座に続いた。


その言葉に、

みゆきは少しだけ目を細めた。


夜道に、四人の影が並んで伸びていった。


       続く

最後まで読んでいただきありがとうございました!


結衣の可愛い面が書けたなと思います。

にしても相手の条件が厳しい(笑)果たしてお目当ての相手が見つかるのでしょうか?


次回は一課が活躍する回になると思います。

次回も応援していただけると嬉しいです。

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