食後に軽く、動いてみますか?
今日は、シエラと拓磨のちょっとしたほのぼの回です!
トレーニング施設がある、ちょっと変わった喫茶店に潜入のつもりが──
ふたりのいつもと違う日常を、ゆっくり楽しんでもらえたら嬉しいです
木製の引き戸に手をかけ、シエラはゆっくりと横へ滑らせた。
カラン、コロン。
澄んだ音色が、店内の空気に溶け込む。
ふわりとコーヒーの香りが漂い、胸の奥で静かに熱が膨らむ。
古民家を生かした店内は、梁がむき出しになっており、
柔らかい灯りが木目をほんのりと照らしていた。
窓際では若い女性が、パフェを前にスマホを構え、
その奥の席には、スポーツバッグを置いた男女が
疲れを癒すようにカップを手にしている。
すべてが自然で、作り込みすぎていない。
けれど洒落ている。
シエラは小さく息を吸い込んだ。
声に出す必要もなく、目の奥が静かに輝く。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
穏やかな声が迎え入れた。
拓磨は店内を見渡すたび、そわそわと落ち着かない様子だった。
シエラは奥の二人席に向かい、静かに腰を下ろした。
拓磨も慌てて向かいに座る。
少しして、店長が水を運んでくる。
木のテーブルにコースターとグラスが置かれ、
その横にメニューが静かに並べられた。
「お好きなタイミングでどうぞ」
軽い笑みと共に、店長はカウンターへ戻っていく。
二人は同時にメニューを開いた。
ページをめくった瞬間、
シエラの目がほんの少しだけ見開かれる。
色とりどりのスイーツ。
盛り付けも写真映えを狙いすぎない、自然な可愛さ。
パフェの写真に視線が止まり、
次にスフレパンケーキの文字が目に触れる。
内心で「本格的じゃん」と思いながら、
少し唇の端が上がった。
向かいでは拓磨がメニューを追いかけている。
プロテインブリュレ、スタミナチキンステーキ。
文字を見つけるたび、目が嬉しそうに細くなっていた。
子供みたいに嬉しそうなその顔に、
シエラは小さく息をついた。……ほんと単純。
そう思いながら次のページをめくると、
アサイーベリースムージーの写真が目に入った。
これにしよう。色が綺麗で、今の気分に合う。
やがて店長が戻り、二人の注文を確認する。
「アサイーベリースムージーを」
「スタミナチキンステーキで」
「かしこまりました」
そう言って、店長はキッチンへと向かっていった。
注文を終えて一息ついた頃。
カウンターの方から、朗らかな声が飛んできた。
「お嬢ちゃんたち、初めてかい?」
シエラと拓磨がそちらを見ると、
体格のいい男性が二人、椅子にもたれていた。
上背と胸板はしっかりしているが、
雰囲気はあくまで穏やか。
湯気の立つマグを片手に、リラックスしている。
「うん、初めて!」
シエラが軽く返すと、二人の顔がほころんだ。
「ここ、本格的で人気なんだぜ」
「店長さんも優しくてな」
どれも言い慣れている感じ。
よく来ている常連客らしい。
拓磨は椅子に座りながらも、
目だけがそちらへぐっと向いていた。
キラッと光っている。
「簡易的だけど、筋トレできる喫茶店って聞いたことなくて……来たかったんすよ」
前のめり気味の声。
興奮を抑えきれていないのがわかる。
「だろ? ここは軽くトレーニングもできるしな」
「ちょっとやってみたいって人もよく来るんだ」
「それでいてメニューも本格的、最高なんだよ」
褒め方に迷いがない。
居心地がいい場所なのだと伝わってくる。
「ほんとジムの近くにできて変わったよな!」
「だよな!」
そう言いながら、二人とも自然と店内へ視線を向けていった。
その瞬間、奥から軽く笑う声が聞こえた。
「やめてくださいよ、そんな大げさに〜!」
カウンターの奥から、店長が料理を持ってきながら笑顔でシエラたちの席に向かい、
手際よく皿とグラスをテーブルに置いていった。
「お待たせしました。アサイーベリースムージーです。」
「スタミナチキンステーキもどうぞ」
紫がかったスムージーの上には、薄くミントの葉。
シエラはグラスを包むように引き寄せる。
拓磨の前には、香ばしい匂いを放つ皿。
鉄板に近い熱が、まだ立ち上っていた。
「あなた達、うち来るの初めてですよね」
店長が穏やかに声をかけてくる。
落ち着いた雰囲気だが、どこか親しみやすい。
「私、店長の小田切哲也と言います」
軽い会釈と共に名乗る。
「以前はジムのトレーナーをしてたんですが──
ちょっと、方向性が合わなくて」
「もっと楽しく、気軽に筋トレできたらいいなって。
だから、この店を作ったんです」
カウンターの常連二人も静かに頷く。
「すげぇっす。店長と、話合いそうっす」
拓磨は目をキラキラさせながら言った。
「そんなに褒められても、何も出ませんよ」
店長は冗談めかしながら笑い、
その場の空気がさらに柔らかくなる。
店長はふと、拓磨の腕の方へ視線を向けた。
「あなた、かなり鍛えてますね。
体の作りがとても上手い」
思いがけない言葉に、拓磨の肩がびくりと揺れる。
照れくさそうに笑いながら、視線を逸らした。
店長は拓磨の席の椅子の横に置かれた、やたらパンパンなリュックをみながら、
「せっかくですし、食後少し時間があれば、軽くトレーニングしてみますか?
……その、ご自身で持ってきた物でも、構いませんよ」
常連のおっちゃん達が吹き出した。
拓磨は照れて、耳の先だけ赤くなる。
今度はシエラに、店長の穏やかな目が向いた。
「あなたもどうです?
少し体を動かすくらいなら」
「え、あたしも?」
「はい。細いですが、無駄がなくて綺麗な筋肉ですよ」
その言い方が妙に真っ直ぐで、
シエラはちょこんと視線を落としながら笑う。
「……へへ」
ほんの少し肩がすくむ。
褒められ慣れていないのが丸わかりだった。
「それでは食事終られましたら、教えてください」
そういい店長は、キッチンへと戻っていった。
食事を終え、グラスに残った氷が静かに音を立てた頃。
店長・小田切が軽く手招きした。
「それではこちらへどうぞ」
その声に導かれ、シエラと拓磨は席を立つ。
カフェ奥にある引き戸を抜けた瞬間、
空気がわずかに変わった。
古民家の木の梁がむき出しのまま残る、広いスペース。
フローリングにはヨガマットがいくつか並べられ、
壁際には可変式のダンベルと、
色とりどりのトレーニングチューブ。
バランスボールが無造作に置かれ、
天井近くの梁には、簡易的な懸垂バーが取り付けられている。
「おい……ここ、めっちゃいいじゃん……」
拓磨の声に抑えが効かない。
シエラも瞳を丸くし、息を小さく弾ませた。
「なにここ……おしゃれ……」
外観からは想像もつかない設備。
カフェの延長なのに、本気でトレーニングできる空間。
そのギャップが、自然と胸を高鳴らせる。
店長は優しく微笑む。
「どうぞ。好きなものを試してみてください。」
にじむ“楽しませたい”雰囲気。
その言葉に反応するように、
拓磨は背中のリュックを思い出し——ごそごそと取り出した。
「見てくださいよ!俺これ、持ってきたんすよ!」
誇らしげに掲げたのは、
10キロ弱の、やたら黒光りしたダンベル。
シエラは半目になる。
「店のあるの使いなさいよ……」
店長は苦笑を漏らした。
「まさかそれを持参してくるとは……驚きました。」
拓磨は照れくさそうに鼻をかく。
シエラが周囲を眺めながら、ぽつりと聞いた。
「……あたしは、何すればいい?」
店長は壁のチューブに目を向けて、ひとつ手に取った。
「では、これを少し試してみましょうか」
シエラは興味深そうにうなずく。
店長は姿勢を整えながら、優しく背中に声をかけた。
「肩がすくまないように。
はい、そのまま引いて」
動きは自然。素直で綺麗。
シエラは次第に背中に熱がこもるのを感じる。
「……結構効くね、これ」
漏れた感想に、店長は嬉しそうに頷く。
「それは、上手い証拠ですよ」
「へへ……」
シエラが少し照れたように笑う。
そのタイミングで、店長が手を打つ。
「そうでした。うち、実は——宿泊型のジムもあるんです」
「え?」
二人の視線が同時に向いた。
「ここはカフェとして開放してますが……
地下は、本格的なトレーニング施設になってまして。
時間を気にせず、思いっきり鍛えることができるんです」
「マジっすか!!?」
拓磨の声が弾む。抑えが効かない。
「ここ、最高じゃん!
泊まりで筋トレとか、夢すぎる!行くっす!」
シエラは苦笑しつつも、興味が隠せない。
「……ちょっと、やってみたいかも」
店長は深くは頷かず、柔らかく微笑む。
「では——三日後の同じ時間に。
またここへ来てください。ご案内します」
「はい!」
シエラと拓磨は大きく頷いた。
店長はその言葉を聞いて、
目を細めたまま、静かに微笑んだ。
続く
ここまで読んでいただきありがとうございました!
シエラたちの、ちょっと新鮮な日常回でした
たまにはこんな回もいいよね。
拓磨が完全に子どもみたいで、書いてて笑っちゃいました(笑)
「このカフェ行きたい!」って少しでも思ってもらえたら嬉しいです
感想や、好きなメニューをコメントで教えてくれたら励みになります!
次回は、宿泊型のトレーニングジムに行く二人、そこで待ち受けてたものとは……
次回もお楽しみに




