「言葉は通じて世界は交わらない ――異世界少女と警視庁の取調室」
ちょっとちょっと〜!前回の“カツドン”ってやつ、あれマジでやばくない!?
衣サクサクで、卵ふわっふわで、上から甘じょっぱいタレがかかっててさ……あたしの世界じゃ王様の晩餐級よ!?
それを「叱られるとき用」って、どんな世界線なのよホント!
……で、そんなおいしいものでテンション上がってたのに、
いざ取り調べ再開したら――
「全然話、通じないんだけど!? “レヴァルティア”も“邪龍”も知らないって、どゆこと!?」
というわけで、世界の“常識”がすれ違いまくる第3話、いってみよ〜〜
取調室の空気は、どこか妙な緊張と困惑に包まれていた。
向かい合って座る警官が、書類を見下ろしながら慎重に口を開く。
「……で、君はどこから来たの?」
シエラは両手をぶんぶんと振りながら、机に身を乗り出した。
「だ!か!ら! レヴァルティア王国の近くのルーメリア草原で、滅世の邪龍を倒したら――ここに飛ばされちゃったんだってば!!」
警官はペンを止め、ぽかんと口を開ける。
「……レヴァ? ルメ? ジャ、ジャリュウ……?」
「も〜〜〜〜〜! 説明してんのに全然伝わってないじゃん!!」
――このあと、かみ合わない“質疑応答”が一時間ほど続くことになる。
【午後22時 新宿中央署・超越対策課】
静まり返った課内に、魂の抜けたため息が響く。
「……今日こそ“ルミナス・ハート”の新フォーム回だったのに……」
デスクに突っ伏すみゆきの背後で、にやついた声が響いた。
「――課長、ちょっと見てくださいよ」
夜勤担当の青木拓磨が、スマホを突き出してくる。
「“路上で魔法少女ソング熱唱する謎の女”って、SNSでバズってます〜」
画面には、歌舞伎町で熱唱する自分の姿。
コメント欄は「現実に魔法少女いたw」「テンション高すぎ」と大盛り上がりだ。
「うわぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉ!!」
「“泣きながら女子高生を抱きしめる女”ってタグもありますけど、心当たりは?」
「ぎゃあああ!! 見るなぁぁぁ!!」
「いや〜課長、“路上ライバー課長”って呼ばれてますよ」
「………………………………」
完全に魂の抜けたみゆきを見て、拓磨は気まずそうに頭をかいた。
「……そういえば、例の金髪少女。取調室で“ジャリュウが〜”とか“ルーメ〜”とか言ってて、誰も意味わかってないらしいですよ」
「……ちょっと行ってくる。面白そうだし」
沈んだ顔に光が戻ると同時に、みゆきは立ち上がった。
【午後22時30分 新宿中央署・取調室】
白い蛍光灯の下、取調室には“気まずさ”だけが満ちていた。
腕を組んでため息をつく警官と、椅子の上でふてくされて足をぶらぶらさせる金髪の少女。
「……で、“ジャリュウ”ってやつはどこに?」
「だから倒したってば! 何回言わせんのよ!!」
取調べはすでに30分以上続いていたが、進展はゼロだ。
そんな中――
「お疲れさま。楽しそうなことしてるじゃない」
静かにドアが開き、スーツ姿のみゆきが現れた。
「……あ、カツ丼ぐすん先輩じゃん」
「誰が“カツ丼ぐすん先輩”よ!」
「え? カツ丼置いてた人でしょ? あと、泣いてたし」
「……否定はしないけど!」
軽口を交わすうち、みゆきの表情は一転して真剣なものへと変わる。
「――遠藤みゆき。警視庁・超越者対策課。詳しく話を聞かせてもらえる?」
机に資料を並べ、丁寧な口調で質問を始めるみゆき。
その姿は、先ほどまで“路上ライバー”と呼ばれていた人物とはまるで別人だった。
「えっとね、あたしの世界じゃ今、邪龍って呼ばれる存在が暴れてて……。
炎一つで大陸ひとつ消し飛ぶって言われる、千年前からの“災厄”よ」
みゆきはペンの動きを止めた。「邪龍」――聞いたこともない単語だった。
「……じゃりゅう? そんな生物、どこの研究機関の記録にも出てこないけど」
「研究機関? なにそれ。あんた、レヴァルティア大陸の地図も知らないの?」
シエラが目を丸くする。
みゆきも同じように目を細めて、少し不思議そうな顔をした。
「こっちじゃ“日本”とか、ユーラシア とかならあるけど……」
「……は? “ユーラシア”ってどこよ? 五柱国家も知らないの? “神暦戦争”も? 本気で?」
沈黙が落ちた。
同じ言語で会話しているのに、どちらも相手の話を理解できない。
そのとき、シエラはふと心の奥でざらつくような違和感を覚えた。
(……言葉は通じる。でも、なんで“話”が通じないの?)
シエラは違和感を覚えた。同じ言語のはずなのに、文化も常識もまるで違う。
見たことのない髪色、知らない道具――ここは本当に、自分のいた世界なのか?
(……もしかして、どこか別の世界に飛ばされた?)
そして、もうひとつの確信が胸をよぎる。
(……この人、“魔力”を持ってる)
さっきまでの警官とは違う。目の前の女からは、懐かしい力の気配が滲み出ていた。
その時、みゆきのポケットが震えた。
「……なに?」
『課長! 出動要請です!』
緊張した声がスピーカー越しに響く。
『【アルメス物流第七ビル】二十階。元社員が立てこもり、人質五名を拘束。
能力は空気圧縮系、警官十名が負傷、うち三名が重傷です!』
「……了解、すぐ行くわ」
通話を切ると、みゆきはすぐ立ち上がった。
その動きを、シエラが興味津々とした目で追う。
「なになに? なんかおもしろそうなこと始まるの?」
「“おもしろい”じゃないわ。危険な現場よ」
「ふ〜ん……でも人が困ってるんでしょ? だったら、あたし行ったほうがよくない?」
「ダメ。絶対来ちゃダメ。命がかかってるの」
強い口調で言い切り、みゆきは取調室を後にした。
ドアが閉まった後も、シエラの瞳には小さな光が宿っている。
「命がかかってる……ねぇ。聞き捨てならない言葉じゃん」
ぽつりと呟いたあと、彼女はふっと口元をゆるめた。
――遊び半分の好奇心が、やがて“運命”へと変わることを、シエラはまだ知らない。
ーーーーーーーーー続くーーーーーー
ふぅ〜〜、なんか今日ず〜〜っと話が噛み合わなかったんだけど!?
「邪龍」も「レヴァルティア」も「神暦戦争」も通じないって、マジで別の星に来た気分よ……!
でもさ、逆に言えば――“違う常識”の中で生きてる人たちがいるってことだよね。
それってちょっと、ワクワクしない?
そして次回――ついに“異能事件”が本格的に動き出すよ。
あたしの放っておけない性格、止まらなくなりそうな予感……!




