『ギャル、喫茶店へ潜入す』
今日のお話は、超越課のお仕事で、ちょっとオシャレな喫茶店に潜入することになった、シエラと拓磨の珍コンビの回です!
楽しんでください!
【10時 所沢駅前】
午前十時。薄い雲を透かした朝の光が、所沢駅前のロータリーを淡く照らす。
人の流れの中、ギャル全開の私服で立つ少女がひとり。柱にもたれ、スマホで自分の姿をチェックしていた。
(よし。今日も可愛くできてる)
満足げに唇のグロスを軽く塗り直す。
鏡代わりの画面に映る自分へ、にっこりと笑いかける余裕すらある。
ロータリーに回送列車のアナウンスが響き、風が吹き抜けた。
その一瞬の揺らぎが、昨日の出来事を思い出させる。
【前日16:00:超越対策課オフィス】
夕方。業務終了間際のオフィスで、村崎が書類を閉じ、二人へ視線を向けた。
「明日、Athlizeを潜入する時、私服で行け!いいな?」
その一言に、シエラは勢いよく振り返る。
「なんで!?制服かっこよくない?」
「その格好で行ったら閉店される」
「なるほど〜」
全く悪びれる様子はない。
一方、横で拓磨が拳を握っていた。
「俺、明日筋トレグッズ持って行きます!!」
「……一応言うが、仕事で行くんだぞ?」
「わかってるッス!」
まるで聞いていない。
村崎は深く息を吐き、短くまとめた。
「…….とにかくだ、一般客として入れ。いいな!」
村崎の言葉が耳に残る。
回送列車が通過し、風がふっと吹き抜けた。
シエラの髪が揺れ、意識が現実へ引き戻される。
「拓磨遅い〜〜」
スマホの時計を何度も確認しながら、つま先で地面を小さく蹴る。
任務とはいえ、潜入のワクワクが勝っている。
けれど待たされる時間が長いほど、イラつきはじわじわ膨らむ。
その瞬間だった。遠くからやけに元気な声が飛ぶ。
「お〜〜い!!」
シエラが振り返る
手を振りながら、拓磨が全力疾走していた。
タンクトップに短パン。
背中の巨大なリュックは「ゴトッ、ゴトッ」と鈍く揺れる。
「はぁっ……!はぁっ……!」
笑顔は貼りついたままなのに、息は完全に上がっている。
シエラのこめかみがピクつく。
「……あんた、そのリュック何背負ってんのよ」
その問いに、拓磨は肩で息しながら親指を立てた。
「き……筋トレグッズ!」
拓磨はリュックを地面に下ろし、中身を取り出して並べ始めた。
息はまだ少し荒い。
「今日これ持ってきたのはなぁ……
・ダンベル!
・腹筋ローラー!
・トレ用チューブ!
・プロテイン3種類!
・シェイカー2本!
・あと筋膜ローラー!」
嬉しそうに、ひとつずつ指さす。
シエラは腰に手を当て、眉をひそめて見ている。
「いや……あんた、一応“捜査”に来てるんだけど?」
呆れた声。
拓磨は全く堪えた様子がない。
軽く肩をすくめて答える。
「わかってるって〜!
でもせっかく聖地行くんだから準備は大事だろ?」
その態度に、シエラは短くため息をついた。
拓磨は満足げにリュックを再び背負い直す。
【10:10 埼玉県所沢市住宅街】
シエラは商店街の一角で立ち止まり、周囲をきょろきょろと見回す。
ヒールのつま先で地面をトントン叩きながら、スマホの地図を確認した。
「……この辺のはずなんだけどなぁ〜……」
口調は軽いが、視線は少し焦れている。
その時、背後の遠くから荒い声。
「お〜〜いっ……ちょ、ちょっと待ってくれ〜〜……!」
聞いただけで息切れが伝わる。
シエラは眉をひそめ、ゆっくりと振り返った。
視界に入ってきたのは、巨大なリュックを上下に揺らしながら、
限界の顔で走ってくる拓磨だった。
「ゼェ……ゼェ……」
呼吸が完全に追いついていない。
「あんた遅すぎ!……絶対リュック重いんでしょ?」
シエラは腰に手を当て、呆れを隠そうともしない。
拓磨は膝に手をつき、必死に肩を上下させていた。
足元はガクガクと震えている。
「そ、そんな……こと……ない……」
シエラは半眼のまま一瞥。
「……もういい。行くよ!!」
くるりと向きを変え、そのまま歩き出す。
拓磨が慌てて手を伸ばす。
「ま、待ってくれ〜〜!!」
走るたびに、リュックが「ゴトッ、ゴトッ」と重い音を立てた。
そのまま少し歩いた頃。
シエラの足がふと止まった。
「あっ……ここだ」
目の前には、古民家を改装した落ち着いた雰囲気の喫茶店。
外壁は木の温かみを残し、窓からは柔らかな灯りが漏れていた。
入口には手入れされた観葉植物。
雑踏の中で、そこだけ空気の層が違う。
(……めっちゃオシャレ……)
シエラの心が少し緩む。
拓磨がようやく追いついてきた。
膝に手をつき、肩で大きく息をする。
リュックが「ゴトッ……」と鈍い音を立てた。
「はぁっ……! はぁっ……! し、シエラぁ……!」
シエラはじっと見下ろすだけ。
溜め息の気配。
「遅い!……入るよ?」
「ま、待って、オレ……心の準備が……!」
「ただの喫茶店でしょ?」
「緊張すんだって……」
軽く会話を交わし、
シエラは木の引き戸に手をかける。
並んだ二人の横顔。
ほんの一瞬、視線が合った。
「じゃ、行くよ」
引き戸が横へ滑る。
スッ……
カラン……コロン……
柔らかなチャイムの音。
暖色の光が二人の頬にふわりと落ちる。
「——いらっしゃいませぇ」
奥から届いた声は、優しい。
けれど、少しだけ静かすぎた。
光が強くなり、白が滲む。
輪郭が淡く溶けていく。
続く
今日の二人めっちゃ可愛いと思いながら書きました笑
なんで拓磨はあんな重いの背負ってんのか謎ですよね!
次回、あの店で美味しいスイーツ食べちゃうかも!
また読んでね!




