E-47
いつも『異世界最強ギャル!!でも日本ムズくない?』を読んでくださってありがとうございます。
りんの日常は、いつもと同じ夜から始まります。
でもその夜、一本の電話が、彼女の世界を変えてしまいます。
それではお楽しみください
19時30分。
りんはベッドに寝転び、スマホをいじっていた。
画面にはスイーツの特集動画。
「ここのスイーツ美味しそう〜」
と頬を緩めながら、何気なくスクロールする。
部屋にはカーテン越しの街灯が差し込み、柔らかな橙が壁を染めていた。
のどかな空気。
その笑い声が途切れた瞬間、着信音が鳴った。
画面には「不明な番号」。
少しだけ迷ったあと、りんは通話ボタンを押す。
耳に届いたのは、低く湿った女の声だった。
「りんちゃん……だよね? ほのかちゃんは預かったよ」
「場所は――地図番号E-47」
「一時間後、“来なかったら”どうなると思う?」
プツリと音が途切れた。
沈黙の中、りんは目を細め、スマホを握りしめる。
胸の奥がざわつく。
その“場所”の名を聞いた瞬間、脳裏に一枚の地図が浮かんだ。
八王子郊外――廃病院跡。
「……ほのかちゃん」
息を吸い込むと同時に、ベッドを蹴って立ち上がる。
上着を掴み、玄関のドアを勢いよく閉めた。
冷たい夜風が頬を打つ。
夜を切り裂くように、りんは街へ飛び出した。
【19時半 八王子郊外・廃診療所跡】
「……ん……ぅ……」
目を開けると、古い蛍光灯がジジ……と音を立てていた。
冷たい空気。
消毒液みたいな匂いがして、息を吸うと喉が痛い。
見たことない部屋。白くて、静かで、怖い。
胸が苦しい。
どくどく音がする。
(ここ……どこ……?)
白い壁。黒いシミ。
誰もいない。
なのに、誰かがいる気がした。
手を動かそうとして――引っ張られた。
痛い。
見下ろすと、手首にロープ。
身じろぎするたび、古びたロープが軋んだ。
「んーっ……んーっ……!」
誰の声も返ってこない。
その静寂を裂くように、空気がふっと歪む。
女が“何もない場所”から現れた。
革のブーツが床を鳴らす。整った輪郭に、冷たい微笑。
女はしゃがみこみ、ほのかの頬を指先でなぞる。
ガムテープをゆっくりと剥がした。
「……りんおねぇちゃ──」
ほのかの声が途中で止まった。
天井の蛍光灯がジジ……と不気味な音を立て、白い光が女の髪を照らす。
その髪は淡いピンク色で、左右におさげに結ばれていた。
瞳まで同じピンクに揺れていて――
りんおねぇちゃんと、そっくりだった。
でも、違う。
笑っているのに、目が冷たかった。
「おねぇさん……誰なの……?」
女はゆっくりと微笑み、ほのかを見つめる。
「あたしは――一ノ瀬千草。
りんと同級生で……あの子は、私にとって憧れの存在だったの。」
その声はやさしいのに、どこか壊れた音が混じっていた。
まるで“誰かの言葉”をそのまま借りて話しているみたいに。
千草は頬に手を添え、遠い記憶を撫でるように微笑む。
ほのかの表情がこわばる。
「な、なにが目的なの?」
女がナイフを取り出した。
刃が月光を弾き、冷たく光る。
ほのかの首筋にその先端が触れた瞬間――
「ひっ……!」
短い悲鳴が漏れる。
女の唇がゆっくりと歪んだ。
「そう。その顔が見たかったの」
刃がわずかに沈む。ほのかの身体がびくりと震えた。
「りんが……あなたなんかと楽しそうにしてるから……全部、壊すのよ。」
ほのかの瞳に涙が浮かぶ。
名前を呼ぼうと口が動いた瞬間、白い布が口元を覆う。
甘い匂いが肺を満たし、世界が遠ざかっていく。
夜が、音もなく閉じていった。
20時。
オフィス街の灯が少しずつ落ち、夜風がビルの隙間を抜けていく。
シエラと拓磨は並んで歩いていた。
「ふぅ〜……結局、遅くなったね〜」
シエラが肩を回しながら言う。
拓磨が苦笑し、書類バッグを持ち直した。
「まぁな。書類整理とか報告書の確認でバタついたからな」
シエラはお腹をさすり、にやりと笑った。
「お腹すいた〜! ねぇ、今日は拓磨の奢りでどっか行こう!」
「は? なんでだよ」
「いいじゃん、今日頑張ったし〜」
「……お前、喋ってただけだろ」
くだらない言い合いに、夜風が混じる。
そのとき――
シエラの視線がふと、反対側の歩道に向いた。
街灯の下を、ひとりの女性が全力で走っていく。
「……あれ、りん?」
口を開きかけたシエラの声が止まる。
りんの表情が、いつもの明るさとはまるで違っていた。
真剣で、焦りと怒りが混ざったような顔。
「拓磨……なんか、りんが真剣な顔で走ってる……なんかあったのかな……」
拓磨が眉を上げる。
「忘れもんじゃないのか?」
「……ううん、なんか違う気がする」
風が通り抜ける。
シエラの髪が揺れ、彼女の瞳に街灯の光が映る。
その奥に、小さな不安の色が宿っていた。
りんの姿は、夜の街の光に溶けていった。
続く
読んでくださってありがとうございます。
りんの動き、どうでしたか?
あの夜の緊張感が少しでも伝わっていたら嬉しいです。
次の話では、あの“女”の正体に少しずつ近づいていきます。
感想などで、今回の印象をぜひ教えてください。




