『滅世の邪龍葬歌〈ラグナレクイエム〉――終焉は歌われ、世界は再び廻る』
王国歴1227年、世界は“滅世の邪龍”の脅威にさらされていた。
その災厄に立ち向かうのは、堕天使であり元魔王、水の精霊――そして、ギャル!?
異世界で最強と呼ばれた少女・シエラ・ヴァルキュリアは、戦いの果てに“知らない街”へと迷い込む。
魔法も通じず、常識すら通じないこの場所で、彼女は“異能力”という新たな戦場と出会う――。
すべては――ひとりのギャルが、世界の運命に踏み込んだ瞬間から動き出した。
【レヴァルティア大国 ルーメリア草原】
王国暦1227年――。
かつて豊穣と風がめぐる大地として知られたこの地は、今や崩壊の淵にあった。
地は裂け、空は赤黒く染まり、生命の気配は遠い昔の記憶のように消え去っている。
原因はただひとつ、人々が“滅世の災厄”と呼ぶ存在――
滅世の邪龍《ザ=アザロス》。
その巨体が咆哮を上げるたび、空は軋み、星の軌道すら歪む。
次元の膜が揺らぎ、世界は崩壊へと一歩ずつ引きずり込まれていた。
漆黒の鱗は太陽を呑み込み、翼の一振りで大陸が割れる。
そして口から放たれるそれは、ただの炎ではない。
存在の構造そのものを焼き崩し、触れたものすべての「理」を喰らい尽くす、“黒き消滅”――。
だが、その絶望の空に立ち向かう三つの影があった。
かつて堕天の果てに魔王へと至り、いまは闇をもって闇を討つ堕天の王。
水の理を司る上位精霊にして、命の奔流を癒やす巫女。
そして――紫と金、二つの瞳を宿す“双瞳の戦姫”《シエラ》。
“最強”のパーティが、滅びゆく世界の前に立ちはだかっていた。
⸻
空を裂く咆哮が、大地の骨格ごと震わせた。
「グァァァァァァァァッ!!!」
滅世の邪龍《ザ=アザロス》が翼を広げた瞬間、大気が悲鳴を上げる。
空間が軋み、星の光さえ飲み込まれていく。
次の刹那――天そのものを焼き尽くす“消滅の業火”が降り注いだ。
それは炎などという生易しいものではない。
存在の理そのものを喰らい、形も記憶も概念すら焼き崩す“世界殺し”の黒炎だった。
「……くっ、この我が──!」
堕天の王の片翼が一瞬で焼き裂かれ、漆黒の衣が灰のように崩れ落ちる。
かつて魔王として恐れられた彼女が膝をつくなど、誰が想像しただろうか。
しかし、その瞬間を見逃す者はいなかった。
「──ゼルフォス・サンクティア・キュア」
マリンの声が静かに響く。
水の上位精霊としての祝福が花弁のように広がり、淡い輝きがクロムの傷を包み込んだ。
砕けた骨が音もなく繋がり、焼け爛れた肌が瞬く間に再生していく。
「……助かったぞ、マリン」
「礼は要らないわ。あなたが倒れたら、この世界は終わってしまうんだから」
立ち上がったクロムの黄金の双眸が、闇と雷の魔力を宿して煌めく。
「ならば……我も容赦はしない」
大地が軋み、空間が震えた。漆黒の魔力と白紫の雷が絡み合い、渦となって彼女の両腕へと収束していく。
「──ゼルフォス・アズダルク・ラグナ=ゼルナ!!」
放たれた一撃は、滅びそのものだった。
闇は空気を腐食させ、雷は魂を焼き砕く。
その一閃に触れたものは二度と再生することも癒やされることもない。
“存在の死”を刻む、神すら恐れた断罪の力。
だが――。
ザ=アザロスの外殻は、まるで嘲笑うかのようにゆっくりと再構築を始めた。
「くっ……これでも通じぬか……」
クロムの声が震える。
「この力が届かないなんて……まるで、神そのものじゃな」
邪龍の瞳が不気味に輝き、空が再び歪んだ。
その喉奥で新たな黒炎が渦を巻く。
存在そのものを焼き払う“滅び”が、再び世界へと向けられようとしていた。
「──二人とも、下がって!」
その声は風を切るより早く響いた。
クロムとマリンが目を見開く間もなく、シエラは一人、黒炎の奔流へと飛び込んでいく。
触れた瞬間、世界が消えるはずだった。
しかし――。
「零壊障壁《ニヒラン=グァ》」
囁くような詠唱とともに、彼女の周囲に淡い紫の光が広がる。
黒炎が触れた。
存在を焼き崩す“滅び”が襲いかかる。
だが、その炎は“なかったこと”になった。
燃焼も、損傷も、熱すら存在しない。
シエラの周囲では、世界の理そのものが書き換えられていた。
「な、何をしているの……!?」
マリンが息を呑む。
「“破壊”よ」
シエラの声は静かだった。
「壊すのは敵だけじゃない。“傷”も、“攻撃”も、ここでは全部――存在しない」
虚無の障壁を身にまとい、シエラはまっすぐに黒炎を突き抜けた。
数瞬後、彼女の姿は邪龍の眼前にあった。
その双瞳がまっすぐに、神すら恐れた災厄を射抜く。
「じゃあ、今度は――あたしの番ね」
剣が抜き放たれた瞬間、空間が震える。
紫の光が刃に集い、世界の輪郭が滲み始める。
「完全虚無嵐《ニヒル=グァ》」
破壊の奔流が炸裂した。
触れた鱗が“傷つく”のではない――“消える”のだ。
物質としての形も、構造も、概念すらもこの世から削ぎ落とされる。
ザ=アザロスの咆哮が空を割った。
「ガアアアアアアアアアッ!!!」
巨体がよろめき、数百メートルもの体躯が崩れ落ちる。
「嘘……通った……!」
マリンの声が震える。
クロムも目を見開いていた。
「“あれ”に傷を刻んだじゃと……!?」
だが、シエラは止まらない。
「終わらせる」
剣先にさらに力を込める。
紫の破壊が刃を包み込み、その輝きは次第に“世界そのもの”の輪郭すら呑み込み始める。
一閃――。
剣が振り抜かれた軌跡の先で、邪龍の肉体がごっそりと**“存在ごと”消え失せた**。
血も、骨も、再生すらも、そこにはもう「なかった」。
初めて、災厄の名を冠する存在が、明確な“痛み”を知った瞬間だった。
⸻
“それ”は、滅世の災厄にとって初めての感覚だった。
肉体が、消えている。
再生の理が、一瞬だけ“止まった”――。
ザ=アザロスの瞳が、ゆらりと揺れた。
膨大な魔力が一瞬だけ滞留し、思考がほんの刹那、空白になる。
――その隙を、堕天の王は見逃さない。
「……今じゃ」
クロムの黄金の双眸が妖しく輝いた瞬間、大地が鳴動した。
漆黒の魔力が地の底から噴き上がり、天を突くほどの闇の柱が形成される。
それは無数の鎖となって姿を変え、蛇のように蠢きながら空を切り裂いた。
「──ゼルフォス・ケルバ・フェトラ!!」
鎖が四方八方から襲いかかる。
一本、二本――やがて数百もの“闇の鎖”が邪龍の四肢に絡みつき、その翼を引き裂き、巨大な胴を地に縫いつけた。
鎖の表面を這うのはただの魔力ではない。
絡みついた瞬間から、“存在”そのものを蝕み始める暗黒の腐蝕だ。
「ゴオオオオオオ!!!」
邪龍の咆哮が大気を震わせる。暴れ、捻じり、引き千切ろうとする。
しかし鎖は千切れない。
もがけばもがくほど、深く、重く、深淵の底へと引きずり込まれるように締めつけていく。
その様子を空中で見下ろしながら、
紫と金の双瞳が細められた彼女は、唇の端がゆっくりと吊り上がった。
「……あの日、村を焼き尽くした存在が、今はこのざまってわけ?」
それは怒鳴り声でも、復讐の叫びでもなかった。
氷のように冷たい、しかし底の見えない“怒り”が滲んでいた。
その声が届いた瞬間、ザ=アザロスの瞳がぎょろりと見開かれる。
「……ッ、小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
地を裂くような咆哮が空を震わせた。
邪龍の全身から黒炎が噴き上がり、拘束を引き千切らんと暴れ狂う。
その双眸には、言葉では説明できぬ“何か”がよぎっていた――それが怒りなのか、それとも別の感情なのか、誰にもわからない。
「貴様ごときが、この我を見下ろすだと……! その舌、すぐに引き裂いてやるッ!!」
咆哮と共に、ザ=アザロスの喉奥が脈動した。
次の瞬間――空間そのものが“燃えた”。
世界が悲鳴を上げ、時間が歪む。
それはただの炎ではない。
存在そのものを飲み込み、理ごと焼き尽くす“滅世の息吹”だった。
漆黒の奔流が大地を割り、空を裂き、あらゆる命の痕跡を灰に還していく。
それは、大陸ひとつを消し飛ばすにも足りぬほどの破壊。
「消えろォォォォォォォォッ!!!!」
黒い嵐が戦場を飲み込み、災厄そのものが形を持ったかのような絶望が世界を覆う。
だが――その嵐が晴れた先に、“あり得ない光景”があった。
空中。
黒炎の爆心地を突き抜け、静かに浮かぶ少女がひとり。
紫と金、異なる色を湛えた双瞳が、まっすぐに“滅世”を見下ろしている。
金の髪が熱風に揺れ、纏うオーラが空間そのものを軋ませていた。
「…………な……に?」
ザ=アザロスの瞳が、大きく揺れる。
どれほどの命を奪い、どれほどの大地を焼き尽くしてきた力か――誰よりも自分が知っている。
それなのに――その力が、届かない。
「なぜだ……なぜ我の息吹が……効かぬッ!?」
声が、震えていた。
怒りではない。
それは“恐れ”という名の感情だった。
双瞳の戦姫は、静かに手を掲げたまま、ただ見下ろす。
滅世の息吹をも無に還すその存在が、今――絶望そのものを支配し始めていた。
「シエラァァァァァァッ!!!!」
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
マリンとクロムの叫びが、焦燥と祈りを帯びて戦場に響き渡る。
だが、双瞳の戦姫は静かに微笑んだ。
「……バイバイ、邪龍」
その瞬間――。
右の金の瞳が、ゆっくりと紫に染まっていく。
ふたつの瞳が完全に“同じ色”へと溶け合った時、空気が凍りついた。
次元が軋む。
空間が悲鳴を上げる。
それはただの魔力ではない。
「──《虚滅葬界〈ニヒル=エンシス〉》」
紫の光が刃のように収束し、シエラの剣へと吸い込まれていく。
刹那、光が閃く。
一閃。
世界が静止したかのような沈黙の中で、ザ=アザロスは声も出せず、ただ崩れ落ちた。
肉も、骨も、魂すらも――跡形もなく、消えた。
「……終わった」
シエラがそう呟いた瞬間、戦場が淡く光に包まれた。
地面が震え、空が裂け、巨大な魔法陣がシエラたちの足元に展開される。
「なに……? この魔法陣……!」
「まさか、これは――」
クロムとマリンが驚愕の声を上げる。
しかし、もう止めることはできなかった。
「ちょ、ちょっと待って!今ここでってマジ!?!?」
眩い光が一気に広がり、三人の姿を飲み込んでいく。
世界が白に染まり、音も、熱も、すべてが遠ざかっていった。
――そして。
――光の果てに広がっていたのは、理不尽と欲望が絡み合う、“人”という果てなき迷宮だった。
ーーーーーーーーー続くーーーーーーーー
いや〜〜マジで大変だったんだけど?
あの滅世の邪龍とか、ほんと“世界終わるじゃん”レベルでさ、クロムもマリンも本気出してんのに全然効かないし、こっちもガチで行くしかなかったってわけ。
てかさ、あたしが本気出したら“存在ごと”消えちゃうとか、我ながらエグすぎてちょっと引いたわ……
でもまぁ、それで全部終わったと思ったら――
足元に変な魔法陣出てきて、気づいたら別の世界っぽいとこに飛ばされてて……って、は???ってなるじゃん普通に!
どこに来たのかも、なにが起きたのかも全然わかんないけど……
まぁ、面白そうだし、ちょっとこの世界でも暴れてみよっかなって思ってる
もし少しでも「シエラおもろそう!」って思ってくれたら、感想とかブクマしてくれたら超うれしいっ
次回から、あたしの“物語”が本格的に動き出すよ!




