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GRSI-02 星の海の歌  作者: やた


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20.ガスクロスの闇

 ガスクロス産業の不法投棄施設コントロールルーム。メインコンソールからは、ノアによる証拠データのダウンロードが完了したことを示す表示が点滅していた。これで、彼らの不正を白日の下に晒す決定的な証拠は手に入った。しかし、チームYの目の前には、汚染に蝕まれ、かろうじて生命を繋ぐルミナス・ホエールの幼生たちが捕らえられたカプセルが並んでいた。


「これで証拠は揃ったが……この子たちをどうする?」


 イヴァンが、幼生たちの姿を見て眉をひそめた。彼の荒々しい表情にも、明らかな動揺が見て取れた。


 エミリーもまた、沈痛な面持ちで幼生を見つめていた。


「GRSIの規定では、捕獲された野生生物の即時解放が原則だけど、この状態では……」


 彼女の言葉には、幼生たちの命の儚さが滲んでいた。


 カケルは、幼生たちが閉じ込められたカプセルにそっと触れた。彼の脳裏には、彼らを救うために自らを犠牲にしたホエールの姿が浮かんでいた。


「こんな状態で放り出しても、すぐに命を落とすだろう。この子たちは、治療が必要だ」


 ミリアムは、幼生たちから発せられる「弱々しい苦痛の音」と、同時に、必死に生きようとする「かすかな生命の音」を聞き取っていた。彼女の心は、深い悲しみと、そして何としても救いたいという強い衝動で満たされていた。


「助けたい……この子たちを、助けたいよ、カケル……!」


 ノアは、ダウンロードした証拠データの一部を解析しながら言った。


「ガスクロス産業は、この幼生たちを汚染に対する耐性実験に使っていたようだ。このままでは、遅かれ早かれ死んでしまう」


「畜生……そこまで外道だったとはな!」


 イヴァンが怒りを爆発させた。


 カケルは、厳しい表情でメンバーを見回した。証拠は手に入れた。GRSIの任務は達成された。しかし、目の前の命を見捨てることは、彼らの正義に反する。


「ノア、この施設に、幼生を治療できるような設備はないのか?応急処置でも構わない」


 カケルが尋ねた。


 ノアは、施設の設計図データを瞬時に解析した。


「この施設は投棄専門だ。治療設備は一切ない。しかし……」


 ノアは、何かを思いついたように顔を上げた。


「この施設は、不法投棄を隠蔽するために、非常に高度な環境制御システムを持っている。それと、汚染物質を無害化するための特殊な濾過装置も確認できる」


 ミリアムは、その言葉に反応した。


「濾過装置……?それって、『悪い音』をきれいにする『音』?」


「その通りだ、ミリアム!その濾過装置と、環境制御システムを応用すれば……もしかしたら、この幼生たちを一時的に保護し、症状を安定させることが可能かもしれない!」


 ノアの目に、希望の光が宿った。


 カケルは、ノアの提案に頷いた。


「よし、やってみる価値はある。しかし、我々に残された時間は少ない。外部からガスクロス産業の増援が来る可能性もある」


「任せてくれ、カケル!ミリアムの『音』があれば、不可能じゃない!」


 ノアは、幼生たちの命を救うため、天才的な頭脳をフル回転させ始めた。


 ノアは、ガスクロス産業の高度な環境制御システムと濾過装置をハッキングし、幼生たちが一時的に生存できる環境を作り出す作業を開始した。ミリアムは、幼生たちから発せられる「音」と、装置が発する「音」を細かく感知し、ノアに正確な調整データを伝えた。


「この幼生の脈拍が、一番弱い『音』を立てているわ……その子の周りの水の『音』を、もう少し優しくしてあげて……」


「濾過装置の『音』が、少し強すぎるみたい……もっと、ゆっくりにして……」


 ミリアムの繊細な指示により、ノアは複雑なシステムを完璧に制御し、幼生たちが生存可能な環境を整えていく。その間、イヴァンは警備にあたり、エミリーは、万が一の事態に備えて、残存する水中銃のエネルギーを温存していた。


 数時間後、幼生たちは安定した環境の中で、少しだけ呼吸を落ち着かせたようだった。彼らの体から放たれる光は、まだ微弱ながらも、以前のような歪みが消え、わずかながらではあるが、本来の輝きを取り戻しつつあった。


「よし、これで一時的な保護は可能だ。本部と連絡が取れ次第、救援部隊を要請し、幼生たちを安全な場所に移送してもらう」


 ノアは、疲労困憊ながらも達成感に満ちた表情で言った。


 カケルは、幼生たちを見つめ、静かに頷いた。彼らの任務は、まだ終わっていなかった。この幼生たちを救い、アクエリアの海の未来を守ること。そして、ガスクロス産業の悪事を徹底的に暴き、二度とこのような悲劇が起こらないようにすること。


「私たちは、この子たちに未来を託されたんだ。そして、海の守護者も、私たちにこの海を託してくれた」


 カケルは、静かに、しかし力強く言った。


「この証拠を必ずGRSI本部に届け、ガスクロス産業に正義の鉄槌を下す。それが、彼らの犠牲に対する、私たちの答えだ」


 チームYの新たな使命が、この深海の闇の中で明確になった。彼らは、ただの諜報機関のチームではない。この惑星アクエリアの、そして未来の生命の、希望を繋ぐ者たちとなったのだ。

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