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GRSI-02 星の海の歌  作者: やた


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19.悪の根源

 深海の守護者の圧倒的な力により、ガスクロス産業の私兵たちは完全に排除され、惑星アクエリアの海は、嵐が去った後のように静まり返っていた。破壊された潜水艇の残骸が、虚しく海底に沈んでいる。アクアレル号の船内は、緊張が解けた安堵の空気に包まれていたが、彼らの任務はまだ終わっていなかった。


「敵は全て排除された……」


 ノアの声には、まだ驚きと興奮が混じっていた。


「まさか、あんな生物が存在するとは……」


「だが、これで終わりじゃない。問題の根源を断たなければ」


 カケルは、私兵がいなくなったことで開かれた道、目の前にそびえる不法投棄施設へと視線を向けた。


 ミリアムは、その施設から放たれる「腐敗の音」が、依然として海を蝕んでいるのを感じていた。守護者が悪意ある存在を排除してくれたとはいえ、施設の稼働は止まっていないのだ。


「あの『悪い音』……まだ消えてない……」


 イヴァンは、拳を固く握りしめた。


「よし、今度こそぶっ潰してやるぜ!」


「待って、イヴァン。破壊するだけでは意味がないわ」


 エミリーが制止した。


「ガスクロス産業の不正を公にするためには、決定的な証拠が必要よ。内部に潜入して、彼らがこれまでに何をどれだけ投棄してきたのか、その記録を押さえなければ」


 カケルは頷いた。


「その通りだ。ノア、アクアレル号を不法投棄施設に最も近い位置まで移動させろ。ミリアム、施設の構造、内部の警備体制、そして証拠がある場所の『音』を把握できるか?」


 ミリアムは、目を閉じ、意識を集中した。彼女の覚醒した空間認識能力は、私兵の妨害がなくなった今、さらにクリアに機能する。海底に根を張る巨大な不法投棄施設の、金属の骨格、内部を走る配管、微細な電子機器の振動、そして施設の奥深くに保管されているであろうデータの「音」までが、彼女の脳内に流れ込んでくる。


「うん……見える、全部……入り口は、ここ……警備は、ほとんど機能してない。でも、奥の方に、重たい『箱』みたいな『音』がする……それが、証拠の『音』だと思う……」


 ミリアムは、具体的に指示を出した。


 ノアは、ミリアムの指示に従い、アクアレル号を不法投棄施設へと慎重に接近させた。私兵たちは排除されたとはいえ、施設には自立防衛システムが残っている可能性もある。しかし、ミリアムの「音」による情報が、彼らを危険から遠ざけた。


 アクアレル号は、施設のメインハッチのすぐそばに着底した。ハッチは分厚い金属でできており、厳重にロックされている。


「このハッチ、どうする?爆破でもするのか?」


 イヴァンが尋ねた。


「ノア、ハッチのロックシステムにハッキングは可能か?」


 カケルが問うた。


 ノアは、すぐにハッチのシステムにアクセスを試みた。ミリアムが感知した「電子音」のパターンが、ハッキングの突破口となった。


「いける!このシステム、私兵が使っていたものとは別物だ!簡易的なセキュリティしかない!」


 ノアの指が、高速でキーボードを叩く。数秒後、モニターに「ロック解除」の表示が点滅した。


 重々しい音を立てて、ハッチがゆっくりと開いていく。内部は暗く、不気味な静寂が広がっていた。汚染物質の独特の臭いが、わずかにアクアレル号の船内にも漂ってくる。


「よし、潜入するぞ。イヴァン、エミリーは後方支援。ノアはアクアレル号で待機し、万が一の事態に備えろ。ミリアムは私と一緒だ。君の『音』が頼りだ」


 カケルは、潜入班と待機班を指示した。


 イヴァンとエミリーは、水中銃を構え、警戒しながらハッチへと続く通路を進む。ミリアムは、カケルの隣を歩き、彼女の「音」によるガイドに従い、彼らは施設の奥へと進んでいった。


 施設内部は、薄暗く、錆びついた金属の壁が続いていた。パイプからは、不気味な液体の流れる「音」が聞こえる。ミリアムは、その「音」の奥から、私兵が掘削していた新たな投棄場から来る、さらにおぞましい「腐敗の音」が、施設の奥深くで合流しているのを感じていた。


「この先よ、カケル……『悪い音』と『箱の音』が、強くなってる……」


 ミリアムは、施設内部の複雑な通路を進みながら、正確に指示を出す。彼女の「音」は、施設の迷路のような構造を、完全に視覚化しているかのようだった。


 やがて、彼らは巨大なコントロールルームに辿り着いた。部屋の中央には、巨大なメインコンソールが置かれており、無数のランプが点滅している。壁には、これまでの投棄量を示すグラフや、汚染物質の拡散シミュレーションなどが表示されていた。そこには、ガスクロス産業のロゴが堂々と表示されており、彼らの不正行為の明白な証拠だった。


「これだ……!」


 カケルは、モニターに映し出されたデータを見て、息を呑んだ。


「これまでの投棄記録、汚染物質の種類と量……完璧な証拠だ!」


 ノアは、アクアレル号から遠隔でコントロールルームのシステムにアクセスを試みていた。


「アクセス成功!メインサーバーから全てのデータをダウンロードする!膨大な量だが、これでガスクロス産業の不正は動かせないものになる!」


 ダウンロードが始まる中、イヴァンは部屋の隅で、怪しげなカプセルが並べられているのを見つけた。そこからは、微弱な「苦痛の音」が漏れていた。


「おい、これなんだ!?なんか、嫌な予感がするぜ……」


 ミリアムは、そのカプセルから発せられる「音」に耳を澄ませた。それは、まるで生物が閉じ込められているような「うめき声」のような「音」だった。


「この『音』……ルミナス・ホエールの、生まれたばかりの赤ちゃんに似てる……でも、もっと弱い『音』……」


 カケルは、カプセルに近づき、内容物を確認した。そこには、光を失い、かろうじて生命を維持している、ルミナス・ホエールの幼生が捕獲されていた。彼らの体は、汚染物質に晒された影響で、本来の輝きを失っていた。


「くそっ、生きたまま捕獲していたのか……研究用か、それとも次の『ポリ・炭素酸トリウム』を作るためか……」


 カケルは、怒りで震える声で呟いた。彼らは、ルミナス・ホエールの命までも利用し、汚染を拡大させようとしていたのだ。


 ノアからのダウンロード完了の報告が入った。彼らは全ての証拠を手に入れた。しかし、目の前のルミナス・ホエールの幼生を前に、チームYの表情は沈んでいた。証拠は手に入れたが、この幼生たちをどうすればいいのか。彼らは、ガスクロス産業の悪辣な実態に、改めて直面していた。

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