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いままでの語り手


 文化祭2日目。この日は一般公開で生徒たちの親や学校関係者たちが訪問してきている。

 最初人口密度がかなり増えるのではないかと思っていたが意外とそうでもなく、視界に入るのは生徒ばかりでいつもの日常とそこまで変わらない。

 親たちは子供の元気な姿を見たらすぐに帰ってしまい、いくら来ようとその繰り返しなので結局生徒の人口の方が圧倒的に多くなっているのだ。

 ちょっと薄情なのではないかとも思ったが、そうではないらしい。

 高校生とは、高校という社会に出る寸前の環境にいる子供。だからこそ親は子供を信頼し、その姿を見るだけで時間を共に過ごそうとはしない。

 僕の考え方は過保護だったらしい。

錬磨(れんま)くーん」

 2年生の階の廊下を歩いていたら、後ろから明光(みこ)さんが手を振りながらこちらに走ってきた。

 フランクフルトや焼き鳥など、様々な食べ物を抱えながら。

「まさか、それ全部食べるつもりなの?」

「はい。それがどうかしましたか?」

「……」

 どこぞのフードファイター。

 と言いたかったけど、太ることなんてこれっぽっちも考えてなさそうな彼女の顔が斜めに傾く様子を見て止めておいた。

「錬磨君は自分の教室に行かないんですか? お好み焼き、大盛況でしたよ」

 僕のクラスはお好み焼きで、準備期間中は味見を何度もされたので混むことは大体予想がつく。模擬店の定番みたいなものだし。

「手伝わされそうだからね」

 ついさっき廊下から僕のクラスの教室を観察してた時のこと。模擬店係でもない驚助(きょうすけ)君が汗水(あせみず)流してお好み焼きの生地を作っているのが目に入った。

 人手が足りないらしく、クラスメイトはみんな手伝わされるらしい。

 なので、話しかけられる前に2年生の階に避難してきたというわけだ。

「もう少し協調性を持ちましょうよモグモグ……」

「君だって人のこと言えないでしょ」

 そんなに食べ物抱えて。頬の膨らみようなんかリスそのものだ。

「私はお店を回っているから自分の教室に行けないだけでーす」

 文化祭を楽しんでいるからとも、手伝いたくないからとも聞こえる少しうまい言い訳に少し腹が立つ。

 口調や表情がいつもより柔らかく感じる。機嫌がいいのだろうか。模擬店のおかげ?

 明光さんの浮かれように若干引いていたら、前の方から焦った表情の会田(あいだ)さんがいた。

 僕たちの方を見ると、パアっと嬉しそうな顔に変わっていく。

「青銅くーん!」

 会田さんが息を切らして来た。なんだか物凄く嫌な予感がする。

「青銅君、ごめん。はあ……はあ……模擬店が思った以上に人が多いの。裏表(うらおもて)さんに聞いたけど青銅君料理できるんだよね? ちょっと行って手伝ってほしいの」

 また余計なこと言ってたよこの性悪(しょうわる)(おんな)

「裏表さんも生地作るのお願い。じゃあ私は他の人に声をかけてくるから」

「あ、ちょっと!」

 僕の声は聞こえてないらしく人ごみの中へ消えてしまった。

「あらら、結局手伝うことになっちゃいましたね。どうします? 会田さんのことはどんなことがあっても助けないのがあなたの仕返しでしたよね。今回はクラスメイトを助けるということも含めれば、手伝わない場合あなたに非があることになりますけど」

 やり返すという行為は、周りを巻き込めばもう正当性なんか無くなってしまう。ここで行かなければ、100パーセント悪者は僕だ。

 ちょっとおかしな話で、今の僕の頭に行かないという選択肢が出ていない。

 会田さんの頼みなら絶対に助けないという考え方になっていないのだ。

 会田さんを許したわけではない。しかし、どういうわけかその仕返しがガキ臭くてかっこ悪いという結論が出てしまっている。

「行こうか」

 じゃあ他にどういう仕返しをするのかと聞かれれば、すぐには出てこない。

 成長、なのかな。それともお人好しになっただけ?

 いや、この際その変化には口出ししないようにしよう。

 人の関係は時間とともに変わる。もう少し様子を見てみよう。

 あと8年、僕の人生を素晴らしいものにできるように。









 ――って()()考えてるんでしょうね。


 横にいるホムンクルスを見ながら私は見通す。

 この2か月、その思考に至るまで本当に苦労しました。

 入学時の『あなたの面汚し具合』といったら……私が生徒のフリをして直接変えなければならないと思わせられましたよ。

 あなたは、というよりこの学校にいる魔法使い全員が気づいてませんよね。

 途中から1年生が1人増えていることに。

 不思議な不思議な子供、裏表(うらおもて)明光(みこ)青銅(あおどう)錬磨(れんま)に好意を寄せているように見せているのに、なぜ入学当初から絡んでいなかったのか。なぜ突然距離を縮めたのか。そして、なぜ無口だと思われてた生徒が突然饒舌になったのか。

 もともと入学してなかったゆえに辻褄を合わせる必要があったからですよ。

 ウンディーネ君を使って夢で初接触することは正解でした。だって錬磨君、あまりにも私に対して敵対心剝き出しにしてましたからね。

 おかげで、あなたのその幼稚で不安定な思考を再教育する覚悟ができました。

 あとはまあ……私やその他を使えばよかっただけ。

 私を嫌いつつも私から影響を受け、それを時間をかけて受け入れる。様々なトラブルを解決する『あなたの頑張り具合』には敬意を表します。まだまだお子ちゃまですけど。

 さて、次はウンディーネ君ですね。

 彼も短い命。それを延ばすために私がやるべきこと。そしてその先で襲い掛かる冥王。

 やるべきことはたくさんある。だけどその過程に確かにあるものは……。

 教室へ向かう錬磨君の背中は前よりも大きく見える。

「あなた達2人の命がどうなるのかはこの私、裏表明光のやる気にかかっているということです」


これで『あなたの頑張り具合』は終わりです。次回は『あなた達のふざけ具合』です。楽しみにしていてください。


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