思う。なら、先へ。③
思う。なら、先へ③
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石畳の道に、コツコツと足音が鳴る。時刻は朝の6時を回ったところ、まばらだが人の姿も見える。望みの塔の周りには、いくつかの集まりもある。
コツコツコツと足音が早くなる。息も弾む。「いよいよだね」「ああ」と跳ねる声は足を早める。三人は今にも駆け出しそうだ。
塔の入り口前辺りには待ち合わせしている者や、装備を確認している者がいる。少し離れた場所には転移陣を使い、前に帰還した階から塔を登る冒険者達もいた。
「門番とかいないんだね」
「門もないな。そりゃそうか。いつだって、誰だって、受け入れるのが望みの塔ってもんだよな」
「そうだ」
クイントが懐に手を入れ、コインを取り出す。
ジャックとレビンもそれに続いて、ジャックが二人に視線を送る。
「俺達。ア・サードの冒険は、今この時をもって始まる!!」
三人はコインを掲げた。その姿は、ある者から見ると滑稽に写るのだろう。冷ややかな視線を送る者もいる。
コインを魔法の鞄へと移し変えた三人は、塔の入り口に正面から向き合う。広い開口部が、大きな口の様に見える。
ジャック、レビン、クイント。三人は何を望むのか。彼ら以外、それを知る者は此処にはいない。
入口から、白く長いトンネルを抜ける。
目の前には塔の外観からは分からない、広大な草原がある。見上げれば、地上と変わらない空があり風が草花を揺らす。
「どうしよう」
「どうしようたって、どうしようか」
レビンとジャックが唖然としていると、クイントが二人の背中を叩き、一歩、二歩と歩んでいく。
「2階への昇降口が近くにあるけど、どうする?」
レビンも歩き出す。
「隅から隅とまでとは言わねぇが、じっくりいこう。クイントもレビンもそれでいいだろ?」
ジャックが尻上がりに声を大きくして投げ掛ける。クイントは振り返ることなく、手を高く挙げる。レビンも杖を振って応えてくれている。それを見て、ジャックは歩き出した。
クイントを先頭にレビン、ジャックと一定の距離を保っている。近くに他の冒険者の姿はない。三人は無人の草原を進んでいく。
いくつかの時が過ぎた頃、草むらが動き中から丸い物体が6体現れた。それらは三人に向かって飛び、体当たりしようとしている。
クイントが盾で弾き飛ばして、レビンは杖で叩き落とし、ジャックも剣で薙ぎ払う。六体の丸い物体は霧状になり、手のひらサイズの実を落として消えていった。
「今のはキューだね。で、これが水の実。結構重いんだね」
レビンが、キューの収穫品を手に取った。キューは望みの塔のどこにでも現れる怪物だ。飲料水が得られる水の実を落としてくれる。質と量、共に個体差はあるが、見た目よりもたくさん得られる。塔の階数が高い程、質と量は良くなる。
ジャックは近くの水の実を魔法の鞄にいれる。
「あれが怪物か。まっ、余裕だな」
「収穫品」
クイントがつぶやく。「ああ」「だね」と三人はニヤニヤと笑みを隠しきれないでいる。
再び草むらが動いた。今度は鈍い光りを伴っている。周囲の草を巻き込みながら、突風が三人に向かって吹く。
クイントが大盾を前にして突風を防ぎ、レビンが魔法を唱える。『空気よ・刃と成す・研ぎ澄まし・切り刻め』
三人の背後から四体のキューが迫る。ジャックが反転し、切り飛ばしていくが、肩に体当たりを受けてしまう。
「油断大敵かな。大丈夫?」
「いや、全然。余裕だな」
ジャックの肩にクイントが手を当てる。淡い光がジャックの肩を包む。
「あんがと。痛みがなくなったわ」
『空気よ・刃と成す・研ぎ澄まし・刈り取れ』レビンが見通しを良くするために魔法を使う。三人は辺りを見回し、怪物の姿がないことを確認した。
クイントがレビンの魔法で倒した怪物の収穫品を持ってくる。
「これは、ハクサイとトウモロコシだ。ミドリンが居たんだね」
ミドリンからは、いくつかの種類の野菜が収穫できる。
望みの塔は階によって現れる怪物が異なり、得られる収穫品も違う。1階は他にネムギルという怪物もおり、野菜と穀物が収穫品として得られる。
2階では牧草地帯が広がり、木々も見える。ガバグ、フルンという怪物が出現し、皮や肉、果物の収穫品が得られる。
3階は、川と湖がある。フィルオ、マッオ等、様々な水棲の怪物が生息しており、魚肉、海草を落としていく。
4階には森林が生い茂り、エルッチにコッカルが空を行き交う。鶏肉と卵、羽毛が得られる。
三人は次々と怪物達を倒し、収穫品を魔法の鞄に納めていく。今は2階の牧草地帯のある階層で休憩を取るようだ。
「4階迄は、塔の近くで生活する為の物が得られるって言うのは本当みたいだな」
「聞いていた通りだね」
ジャックとレビンが話をしていると、クイントがそわそわとする。
「疑っている訳じゃねぇよ、クイント。ほら」
ジャックが焼けた肉を渡す。レビンもコップに水の実の水を注いで笑ってみせる。クイントは受け取った肉を葉野菜で包み、かぶり付いた。
「熱っ」
慌てて、レビンからコップを受け取り、口を冷ますクイント。水は喉を潤し、肉は胃を満たしていく。不自然な自然の中、三人の冒険は進んでいく。
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「水の実が30、野菜類が29、肉類は22ですね。すべて買い取りでよろしいですか?」
組合所内にある、交換所に三人は来ていた。
ここでは、望みの塔で得た収穫品を買い取ってくれる。また、交換所は収穫品の受注もしており、依頼品は掲示され、通常よりも高値で買い取られる。
冒険者達はここで貨幣を手に入れ、ベイスンの街で役立てている。
「はい。それでお願いします」
レビンが硬貨を受け取り、交換所から出ると、ジャックがレビンに覆い被さり、クイントがジャック覆い被さる。
「初めてにしては上出来じゃねぇの」
「だね~」
三人は顔を見合わせる「くくっ」「ししし」「たはは」溢れる笑いは止まらない。
「よぉ。お前ら。楽しそうにやってるじゃないか」
ジョッキを片手に屈強な男が三人に近づいてきた。
「そうなんだよ。楽しいんだ。おっさんはどうだい?」
「おっさん...いや、俺32だけど、おっさんか~。まぁ、それはいいか。俺はガイザック。見ての通り、ご機嫌さ」
ジョッキを掲げるガイザック。組合所内には酒場もある。日も暮れた今、冒険者達によって賑やかになっている。ガイザックは仲間の居るテーブルから抜け出して、三人に声を掛けたようだ。
「はじめまして、ガイザックさん。僕はレビン。うしろの髪の長いのがクイント、こっちの目の鋭いのがジャックです。僕たちに何かご用ですか?」
「おっ。こいつはご丁寧にありがとうよ。レビンにクイントにジャックか、いい名前だ。用?用はもう済んださ。じゃあ、またな」
ガイザックは仲間の居るテーブル、小声で「おっさん」とはしゃぐテーブルへと戻っていった。
「強い」
「うん。どのくらい塔に登っているんだろうね」
「さぁな。行きゃわかるんじゃねぇの?」
翌日、三人は5階層の関の主を倒し、初の技能を獲得するのであった。
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