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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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望み。魅せられた、願い。⑤

望み。魅せられた、願い。⑤


*********************


 ベネットの宿り木。自室のベッドで目を覚ましたリズベットは起き上がると、鏡の前に立ち何度も見返す。服にシワがついているが、今朝身に付けた時と変わりはない。


「傷も無くなっている」


 窓の外は夕日に染まり、西日が部屋を切り取っている。リズベットは窓を開け、望みの塔を見上げる。


「夢だったの?」


 望みの塔はいつの時代も何も変わらず、ただそこにある。


「リズ?帰っているの?」


「おばぁちゃん」


 物音に気付いたベネットがゆっくりとドアを開けた。10年前と比べシワが少し増えただろうか。駆け寄るリズベットを笑顔で迎える。


「リズ、いつの間に」


 顔をうずめ泣き始めた背に、手が置かれる。(うめ)くばかりのリズベットにベネットは、その手をかすかに震わせる。

 切り取られた部屋は小さくなり、消えてゆく。温かみも薄れ、部屋は冷めてしまう。


「ねぇ、おばぁちゃん。人との繋がりっていうのには見えない糸でもあるのかな?」


「糸?そうかも、知れないね」


 ベネットが冷えた部屋の分、体を寄せる。


「ちゃんと結べていたのにな」


「いつかは、ね」 

 

 泣いていた目は腫れているが、深く、深く、弧を描く。   


「でもね。一度、繋がった糸は私の中に残っているよ。だってこんなにもジャックさん、レビンさん、クイントさんが私の中に生きているもの」


「そう、ね」


 2階から音のしない日は、もう何日か続くだろう。外は暗く、星が浮かぶ。星の明かりは小さくて、リズベット達を照らしはしない。ただ、その明かりは確かに在った。例え、ほんの少しの間でも。

 

 枕元にはボロボロの布が置かれていて、中に三枚のコインが眠る。


*********************


 望みの塔にホーリーリルテとマリリアーネが居る。


「こうして、望みの塔に眠りゆくのですね」


「そうじゃ、持ち物も全ての。ん?」


 ジャック、レビン、クイントが消えた場所にボロボロの魔法の鞄が三つ残っている。


「これは?」


「魔法の鞄は一人に一つと決めておるからな。ふたつあった場合にはどちらか片方しか、望みの塔は吸収せんのじゃ」


 マリリアーネが拾い上げると、中にはそれぞれにコインが入っていた。


「記念コインじゃの。どれ」


 ホーリーリルテがそう言うと、コインとボロボロの魔法の鞄は消えた。何も無くなった丘に静かな時が流れる。


「もう、お向かいになられるのですか?」


「ああ。もう充分、魅せられたからの。わしの記録もここまでじゃ」


*****************


 ベイスン協同組合本社では、今日も講習が開かれる。受講者には若者が多い中、年嵩のいった二人の男がいる。人好きのする笑顔の男とすり減った靴を履いている男、二人の男は並んで座わっている。

 ミリリアーテが、受講者を見渡して言う。


「望みの塔では、様々な技能を得ることが出来るっす。但し、他者の意思を思いのままにする技能は得られないっす」


 話を聞く者は、ミリリアーテの言葉に耳を傾ける。


「誰もが、人を思い通りに変える事は出来ないっす。だけど、人が生きる姿は神をも魅了する事が出来るっすよ」




 遠く離れたソンネルでは子ども達が望みの塔の話を聞いている。

 手を挙げて質問をする子がいて、教師をつとめるミレイユが嬉しそうに笑う。

 子ども達は、目を輝かせて話を聞く者ばかりではなく、つまらなそうに話を聞く子もいる。




「楽しみにしています」

 

 どんな子だって良い、どうか会いに来て欲しい。そして、私を魅了して欲しいものだ。


*********************


 魅了の冒険 FIN


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。

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