望み。魅せられた、願い。④
望み。魅せられた、願い。④
*********************
リズベットの声が聞こえる。扉を通して、神に話し掛けるなど前代未聞であるが、神が狭量であるはずもなく。
「あんな奴らには出ていって欲しかったのではなかったか?」
応じているというのに、口を開けてポケーとしている。どこかの受付嬢のようではないか、まったく豪胆なのか無謀なのか。
「か、神様でしょうか?」
おずおずと口を開き、訪ねてきた。そう言っているのに、疑い深い子だ。
「そう見えぬか?」
「いえ!そんな、ただ驚いていて、その、子どもだとは思っていなくて」
見かけが可愛いらしいので、子どもと間違われるのはよくある事だが、今はその話ではない。
「あんな奴らと言っておったではないか?」
数瞬、間を置きリズベットは首を何度も振る。その度に、後ろで括られた髪が強く揺れる。昔から変わらない髪型。
「違います!いえ、言いましたけど。あれは、あの人達、ジャックさん達に冒険者を辞めて欲しかったから。惨めな思いをしていれば、辞めてくれると思って…」
昔と変わらない、やさしい子だ。当人達が望んでいるかは別として、自分を偽ってまで、他人の身を案じて思うとは。
故にこうして、目の前に現れたのではあるが。
「そうであったか。で、何の用じゃ?」
「あの三人に会わせて欲しいんです。どうか、お願いします」
「それは無理じゃな。この世界に、その三人はもう居らぬ」
頭を下げているリズベットの顔が引きつり、手が震える。
「...ジャックさんとレビンさんとクイントさんの事ですよ?」
「ああ、知っておる。神じゃからな。へらず口のジャック、憐れみのレビン、運ばれ屋のクイントの事であろう?」
揺らぐ声に崩れる体。リズベットの心は何を写しているのか、何を思い、声を殺して叫ぶのか知りたいと思う。
どれくらいの時間そうしていたのだろう。
「どんな最期でしたか?」
踞る姿をじっと見ていると、不意に聞こえてきた。
「ジャックさん達の最期はどんなものだったか教えて貰えませんか。大事な人達の最期を知れないのは嫌ですから」
知って何になるというのだ。もう居ない人のことなど、忘れて生きていけば良いのに。思うだけ無駄ではないのか。
「知ってどうするんじゃ?」
「...どうもしません。ただ知りたいと思うから、です」
気丈に振る舞う体から整えられた声。リズベットの心はどう動いたのか、何を思い、声を鳴らして伝えようとするのか知りたいと思う。
逸らさない瞳に絆されてしまったのだろう。
「ただ知りたいと申すか...その願い叶えてやろう。ただ条件があるがの」
「はい?」
有無を言わさず、リズベットに近づき頭に触れる。あの三人の最期を見せる代わり、三人と出会い何を思い、何を感じたのかを見させてもらうとしよう。
********************
見たことも、聞いたこともない景色。夢にも、考えにもなかった景色の中にジャックさん、レビンさん、クイントさんがいる。
ああ、よかった。何が「この世界にもう居らぬ」だ。三人とも生きているじゃない。支え合って歩いている、相変わらず仲の良い。
長い間、話していなかったから何て声を掛けようか。
「...」
声が出ない。情けないな、緊張して声が出なくなるなんて。
「...」
近づけない。疲れているのかな?そう言えば結構走っていたし、あの蜥蜴とも戦ったんだ。
「...」
嫌だな。
三人の体はボロボロで、歩くのもやっとという感じ。ジャックさんに巻かれた包帯からは血が滲んでいるし、レビンさんの髪は真っ白だ。クイントさんは気を失っているのか、ジャックさんとレビンさんに担がれている。
もういいじゃない。
そんなになってまで、どうして冒険するの?もう冒険者は辞めて街で暮らそうよ。
ずっとそう言いたかった。
「クイントもう少しだ」
ジャックさんの声。変わらず、あたたかい。
「ジャック無理しないで、僕にも」
レビンさんの声。いつまでも、やさしい。
「うん」
クイントさんの声。短いのに、やわらかい。
三人の顔が楽しそうに笑っている。そんなにボロボロなのに、どうして楽しそうに笑えるの?そんな風に笑わないでよ。
何も言えなくなるじゃない。
「クイント、レビン。なぁ、これで良かったのか?」
「何が?」
「こんな生き方でさ。クイントは、コリンさんと一緒に、なれたんじゃないのか?」
「ジャック。そんな事、気にしているの?クイントの顔を見なよ」
クイントさんがドヤ顔をしている。
「レビンだって、他の生き方が」
「無いよ。そりゃ、可能性は無限にあるから、今よりもっと良い生き方が、あるかもしれない。でも僕はこれで良かった」
「俺が二人を付き合わせ、なけりゃ痛てぇ」
二人がジャックさんを殴った。三人とも息も絶え絶えなのに。
「「うるさい」」
ハモる声がくすぐる。
「悪かったよ、らしくねぇこと言った。だけど、今ので死因がクイントと、レビンに殴られた、所為になっちまったな」
悪い笑顔だ。目付きの悪さと相まって、極悪人に見える。
「じゃあ、僕らはつまんない事、言ったジャックの所為だね」
レビンさんがやり返す。クイントさんはドヤ顔だ。いつまでやっているんだか。
「...」
声が出ない。一緒に笑いたいのに。三人の姿が遠ざかって行く。
「見えるか?」
「うん」
「綺麗だね」
「ああ」
三人の目に写る景色はとても綺麗なのだろう。目が滲んでいて、よく見えない。会話、いつまでも続いて。まだ、さよならをしたくない。
「...!」
消え行く三人が、困ったように笑った。
*********************




