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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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望み。魅せられた、願い。②

望み。魅せられた、願い。②


*********************


 ベネットの宿り木から出て行く男達。宿に来た時からずっと変わらない笑顔を見せ扉を開く。後ろ姿を見るベネットは何か声を掛けようとしていたが、そこに他の客が降りてきた。

 降りてきた客は男達が出て行ったの目にすると、堰を切ったように話し始めた。


「朝から嫌な奴らを見てしまいましたね」


「元祖新人いびりのろくでなし“へらず口のジャック”に“憐れみのレビン”と“運ばれ屋のクイント”ここに宿を取っていたとはな」


「ベネットさんあなたも、ついていませんね。あんな疫病神に居座られるなんて」


 侮蔑が込められた言葉にベネットは頷き、順に客の顔をゆっくりと眺める。


「そうですね。ただ、どんな人でもお代を頂ければ、お泊めするのが宿屋ですから」


「おっ流石、年季が入ってらぁ。でもよ、客の選り好みはあるだろ?」


「おばぁちゃん。あの人達、もう出掛けた?」


 リズベットが受付に顔を出して、先程出て行った者達が居なくなったのを確認する。その顔は今にも崩れそうに見える。

 リズベットの言葉に客は気分を良くして、手を叩いて笑う。


「そうだろ、そうだろ。あんな奴ら顔も見たくないだろ」


 急な笑い声と投げ掛けられた言葉に戸惑うが、強く頷く。そして、口角を上げて、はっきりとした口調で、リズベットは震える唇を押さえつける。


「そうなんですよ。あんな奴らさっさと出て行って欲しいです」


 大きな笑い声がベネットの宿り木に広がり、受付の中では調子外れに揺れる肩がある。ベネットはリズベットを見ると目を伏せた。

 1年前に似たような出来事があった際には「ジャックさん達を馬鹿にするな」と客を追い出しかねない勢いで言い返していた喉から、乾いた笑いが聞こえる。

 

「ああはなりたくないよな」


 客が出掛け際に、言葉を残し付ける。三人を目にした人々は、侮蔑と共に戒めの言葉を刻む。


「リズ」


「アハハ。2階の部屋の掃除をしてくるね」


 ベネットの心配そうな声を振り切るように階段を駆け上がる。鍵を開け扉を開き、ゆっくりと歩む。ジャック、レビン、クイントの部屋は、壁や床の所々に時の経過を感じさせるキズがあり、家具にもいたみがあった。

 テーブルに出来たキズに触れると、まだ小さな自分がジャックに箒で立ち向かっていく姿が思い出される。


「このテーブルでレビンさんに魔法を教えて貰ったっけ」


 窓を開け空気の入れ換えを行う。


「この通りをクイントさんの肩に乗って何度も歩いた。もう長い間、三人と話してないな」


 部屋には三人の私物は見当たらない。魔法の鞄に全てを仕舞っているのだろう。リズベットは丁寧にベッドのシーツを交換し、テーブル拭いて床を磨きあげる。

 

 この日を最後に、ジャック、レビン、クイントがベネットの宿り木に帰ってくる事は無かった。




 ソンネルの元教会の礼拝堂では子ども達が机にしがみついて書き取りの練習をしている。

 礼拝堂は子ども達が通うようになってから、随分と様変わりした。教室の様になり、読み書き計算以外に魔法や望みの塔の事についての授業が行なわれている。


 教鞭はエイミー、レベッカ、キャシーの3人が代わる代わるに執っているが、幼い子ども達の面倒を見る子が1人いる。彼女は、ここに学習にも来ている15才の女の子だ。  

 授業が終わり、今はキャシーと一緒に片付けをしている。


「クイントさん達いつか帰ってくるよね?」 


「えっ?そうね。帰ってきて欲しいわね」


「うん。あの時の事、直接謝りたいから」


 キャシーが下を向く彼女に、そっと近づき顔を上げさせる。恐る恐る合わせる目に写る、柔らかな眼。 


「アミフィ、その事は手紙にも書いたのでしょう。もう充分よ、あなたはもう自分を許してあげなさい」


「でも」


「あの時、あなたに悪意があった訳ではないでしょう?何も知らなくてした行動をいつまでも悔いてはいけない。それは悪い後悔になってしまう」


 悔やみ、反省し続けて何も出来なくなってしまうのなら、それは必要のない事だ。もし罪だと言うのなら、他人に委ねれば良い。悪意があったとしても、自分から道を塞いでしまう事はない。

 責めを受けても、胸を張って生きて欲しい。人の在り方に正解など無いのだから。


「もし、クイント達がアミフィを責めるような事があれば、私が援護してあげるから」


 キャシーの手がアミフィを抱き寄せる。


「ありがとうね」


 耳元で言われ、恥ずかしそうに顔を赤らめるアミフィ。少し離れた所では畑に咲いた菜の花がささやくように揺れている。


 その畑の収穫物を抱えて歩く、レベッカとエイミー。


「こうして会いに行くのは半年ぶりね。元気にしているのかしら」


「どうでもいいわよ。あんな人」


「またまたぁ~エイミーは素直じゃないねぇ」


「レベッカ。怒るわよ」


 ジャック達が望みの塔に行く事を後押ししたミレイユに収穫物を分けに行く2人、途中じゃれ合いながらも歩いて行く。

 村外れのミレイユの家までもう少しという所で、エイミーがレベッカを呼び止めた。ミレイユが家の前で背の低い男と話している。


「なに話しているんだろ?」


 レベッカはエイミーが止めるのも聞かずに、ミレイユ達に気付かれないように近付いて行く。首を振りながらエイミーもレベッカの後に付いて行き、2人してミレイユの家の側にあるライラックの木の陰に隠れる。


「いや、私はそういうのじゃないから」


 仮面を着けたミレイユが両手を前に付き出すが、それを見て何度も頷き、背の低い男はまた同じような話をし始めた。先程から仮面を取るようにと説得をしている。


「わかるよ、怯えなくていいんだ。そんな仮面をしているぐらいだ。自分の顔に自信がないのだろう。でも大丈夫」


 背の低い男は腕を広げ、自分を見るように首を動かす。


「ほら。僕も背が低いんだ。だから、お互いに守り合えると思わないかい?自信のない者同士助け合って生きていこうよ」


「いや。私は自信がない訳ではな「強がらなくていいんだ!」


 ミレイユの言葉を遮るように男が一歩前に出ると、レベッカが物陰から飛び出した。エイミーは庇うようにミレイユを背に立つ。


「キミ!レビンの時から変わってないようだね。あの時も言ったよ、卑下しているって。背が低い事をキミが一番恥ずかしい事だとしているんだよ!」


「な、何だ。急に。レ、レビ?あのチビか」


「レビンよ!『水よ・運輸と成す・かの者を包み・流れ行け』」


 水の塊が男を包み、村の中心へと流れていく。急な出来事に呆気に取られていたミレイユ は水の流れが無くなると、仮面をカタカタ揺らし始めた。


「くふふ。いきなりで驚いたじゃないか。何しているんだい?」


 レベッカが水の流れていった方向に舌を出し、ミレイユはお腹を抱えて笑う。エイミーが2人を見て大きく息を吐いた。

 

「はぁ~。ミレイユ笑っている場合?変なのに言い寄られて。大体あなたがずっと1人でいるから変な誤解を生むのよ。いい?これからは週に一度は私達の所に顔を出しなさい」


 突然の誘いにミレイユの仮面がピタリと止まり、エイミーの後ろではニヤニヤとするレベッカがいる。


「いいの?」 


「あなたさえ良ければ毎日でも。皆であの子達の話もしたいし、それにあなたの知識も村の子ども達に教えて欲しいわ」


 レベッカがエイミーの背に抱きつき、ミレイユを手招きする。


「そうだよね~。冒険者が増えて世の中変わって来たし、ソンネルの村も私達も変わっていかないとね」


「そうだな」 


 そう言うと、ミレイユは仮面を外し、エイミーとレベッカに笑顔を見せる。

 側で咲くライラックの花がとても綺麗だ。


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