望み。魅せられた、願い。①
望み。魅せられた、願い。①
*********************
同じような背丈の同じ髪型をした3人の青年が、ベイスンから去ってから5年が経った。
3人の青年はツトゥリービヤ帝国に戻ったが、その後の消息は不明だ。人知れず生きているのか、それとも恨みを持つ者によって報復を受けたのか。
ただ彼らがベイスンから出ていく時、少しだけ背が伸びていた。どのような結果になろうと悪い様にはならないだろう。
ベイスン宿屋通り。ベネットの宿り木の隣に新しい建物が出来ている。
食事処モズの2号店だ。モズとベネットは業務提携を行い、今後の展開も考えているようだ。
時代は加速し「新しき冒険者の時代」と呼ばれる事は無くなり、当たり前のように冒険者の活躍が、この世界で知らされるようになった。
「ジョゼ、来たわよ」
「やぁリズ、マルクロもこんにちは」
リズベットの背も伸び、今ではベネットよりも高くなった「もう一緒の布団では寝れないわね」と言われ「もう子どもじゃないよ」と返したのは随分と前の事。マルクロは相変わらず小さく、丸くて黒い。
リズベット達が食事処モズ2号店にやって来たのは仕事の為だ。少し前より、リズベットはここで給仕をしている。
今日も後ろで結んだ髪が忙しそうにクルクルと回り、マルクロはジョゼットの作った料理のおこぼれを貰う。
「おい。あれ見ろよ」
昼下がり。店の外を見て話し出す客達。俄に騒がしくなり始め、ジョゼットも厨房から顔を出す。
「うへ~あのちっこい奴、髪が真っ白じゃねぇか。ありゃ魔力を無理に引き出した所為だぜ。可愛そうによ」
「それよりも荷台で運ばれてきた奴だよ。傷痕だらけだ、特に額の傷痕がひでぇ。あいつらだろ?ここらで有名なろくでなし」
店の外ではベネットの宿り木の前で、荷車に乗せた男を降ろしている男達がいた。通行人達が聞こえよがしに言う。
「みっともないな。冒険者の恥晒し」
「さっさと引退したらいいのに」
真っ白な髪の男が傷痕だらけの男の腕を取り、歩行するのを支えている。その後ろで目にひどい隈を作った男が通行人達を睨む。
「恥はかかなきゃ嘘だろうよ!引退?とっくに寝ションベンは引退してらぁ!お前らと違ってなぁ」
男の剣幕に通行人達が嘲笑う。店の中の客達も男達の様子に「ああはなりたくない」と口々に言い合っている。
リズベットはそんな客達の空いた皿を下げると、厨房へと入って行く。ジョゼットはその背中を見送ると大きく溜め息を吐いた。
このような光景は、ここベネットの宿り木前では珍しくもない。1年前から毎月のように、荷車で男を運んでくる男達がいる。
彼らはベネットの宿り木に入ると階段を上っていった。
ベイスンの街は10年前と比べすっかり変わってしまった。大きく変わった所では、冒険者組合というベイスン協同組合とは別の組織が誕生し、冒険者達を管理するようになった。
冒険者組合は望みの塔の攻略は勿論、各国に支部を持ち、未開の地の開拓にも冒険者を派遣している。冒険の意味が少しずつ変わりつつある。
また冒険者組合では冒険者をランク付けするようになった。そのランクにより望みの塔に挑戦できる階層が上がったり、未開の地の侵入可能地域も増えたりする。
更には毎月ようにイベントを実施し冒険者同士で切磋琢磨出来るように、闘技大会や魔術大会、理論講習など様々な催しが設けられている。
冒険者組合の誕生は冒険者パーティー〈エイマー〉の解散が契機になった。
「ごめんなさい」
その日、協同組合に1人やって来たナタリーはマリリアーネにそう告げ〈エイマー〉の解散を伝えた。彼らが到達した階層もそこまでの情報も残すことなく、ナタリーは次の日にはベイスンから居なくなっていた。
彼らのホームは跡形なく消え、クラウドシープも両日中に引き取られた。
偉大な英雄の最後がこれで良い訳がないと多くの冒険者が困惑し、冒険者を手厚く保護しようと動いたのだ。今では協同組合と冒険者組合両方に登録している者でも冒険者組合のみ利用している者が殆どで、全てと言っても過言ではない。
「暇です!ミリリアーテ先輩!」
「ムリリアース。それ昨日も聞いたっすよ。まぁ講習はうちでしか出来ないから、また忙しくなるよ」
「皆、魔法の鞄目当てで来ているだけです。私はもっと冒険者と話がしたいです」
「そうだね...あたしもモテ期再来させたいし」
数日後。
協同組合の酒場に変装したミリリアーテとムリリアースが給仕として働く姿があった。
全く酔わない2人に酒を奢らされる冒険者達であったが、楽しそうに自分の冒険譚を聞いてくれるので不満はないようだ。
酒場を出た冒険者達を月明かりが照らす。月の横には望みの塔が、今日も変わらず悠然と建っている。
*********************




