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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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脆く、儚い。望み。⑤

脆く、儚い。望み。⑤


*********************


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「汝が望むものは何だ」


 クオーグスは流れる地面を眼下に収め、今の状況を思案しているようだ 。


「望むものか...」


 そう言ったきり、黙り始めるクオーグス。フテラアリシアの羽ばたく音が2度、3度と起こり、ようやく口を開くと、首を振った。


「無いな。僕は技能を得たいと思うが望みは無い。なぜならば僕は完璧だからだ」


「完璧とな」


「そう完璧。完璧な者が何かを望むのは変だろ?完璧とは何にも否定されないものなのだから」


「技能は得たいのは自身の不足を思っての事ではないのか?」


 クオーグスは鼻で笑う。


「愚かな問いだ。常に完璧である僕が欲するのも、完璧であるが故だ。完璧な者が現状で満足する筈もない」


「ならば、満足する事が汝の望みではないか」


 肩を揺すり笑いを堪えるクオーグス。


「また愚かな問いを。望みとは未来の自分に期待する事だ。完璧である僕は未来の自分に期待などしない。僕の未来は確定しているのだから」


「そうか。汝の望み確かに聞いた」


「ははっ。流石は鳥。さっき言った事も忘れているとはな」


 フテラアリシアはクオーグスを降ろすと飛び立った。

 望みがないと言う者はクオーグスが初めてという訳では無い。フテラアリシアは知る。彼らが望みを恐れている為、そのように言うのだと。

 望みとは不確かなもの。叶うのか、叶わないのかで常に揺れ動き、不安定になる精神が望みを持つ者の裏側にある。望みが無いと言う者は不安定になる精神に耐えられないのだ。

 弱い精神であるが故に。

 望みを持てない者は言うに及ばず、クオーグスの様に未来は確定していると言う者は、それ以外を受け入れられない。その為、想定外の出来事に癇癪を起こしたり、自棄になったりする。

 そして、一度の挫折で折れてしまう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


「僕を殺してくれ」


 自分を否定されたと襲いかかったクオーグス。避けてばかりで反撃をして来ないクイントを見下し、ジャックとレビンをも愚鈍な者だと罵る。逆鱗に触れ、クオーグスは何をされたのかも解らないままに宙を舞う。

 そして、地面に転がったクオーグスは起き上がる事もなく、懇願する。


「何故?」


「何故も何も、失敗してしまったから。完璧でなくなった僕は、もう必要無い」


 クオーグスはトゥミロスの育成機関で常に最上位の存在であった。教官達からは優遇され、下位の者からは神のよう扱われた。望んでき来た場所では無いが、クオーグスは居心地が良さそうに過ごす。

 そんなある日。同じ様に連れ去られて来た者が、虚ろな目をして「人形は、要らなくなったら捨てられる」と独り言をしているのを耳にする。クオーグスはその言葉が気になり意識して見ていたが、いつの間にか虚ろな目をした者は居なくなっていた。「僕は人形じゃない」クオーグスそう言って、前より増して訓練に勤しむ。

 それは何かに追われているようで、怯えているように見えた。

   

「ひとつの失敗も許さないのですか?」


「僕にはそれ以外何も無いからね」


 トゥミロスに兵士と成るように育成されてきた者達。彼らは自分の意思を持つ事が許されなかった。トゥミロスを亡き者にした後、クオーグス達に残されたのは、優劣の価値観から生まれたものだけであった。


「何も無い...ひとつの失敗も無く、誰にも否定されない事があなたを支えていたという事ですか?」


「そういう事だ。完璧でなくなった時の事を想像したら恐くて夜も眠れなかったよ。さぁ、もういいだろ?僕を楽にしてくれ」


 クイントに殴打され、痣だらけになった顔が緩む。


「まだです。1ついいですか?」


「早くして欲しいのだが」


 強く吹いていた風が止まり、揺れていたクイントの長い髪も、今は落ち着いている。


「どうですか?今の気分は」


 クオーグスが痛む体を動かし、空を見上げる。レーミルの魔法の影響で雲のない空がそこにはあった。


「もう何もする気が起きない。でも、恐れた程じゃなかったな」


「後悔しましたか?」


 顔に影が出来、その影に隠れて笑うクオーグス。


「そうだな。恐れるんじゃなかったと後悔しているよ」 


 クイントが手を引き、クオーグスの体を起こす。


「おい。なるべく楽に殺してくれ」


「嫌ですね。違うと言うかも知れませんが、あなたは生きたいのです。じゃなきゃ後悔なんてしません」


 クオーグスの体を淡い光が包む。


「何を勝手な!いいか?僕は多くの人を殺めてきたんだぞ!」


「それは、悪い後悔ですね」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ソンネルの元教会。礼拝堂でクイントとキャシーが祈りを捧げている。礼拝堂の掃除を終えたふたりは、祭壇の後ろにある望みの塔をモチーフにしたステンドグラスを見上げている。


「あのね、キャシーお母さん」


「ん?どうしたのクイント?」


「うん。その、今日も一日良い後悔をって、罪を犯した時の後悔も良い後悔になるの?」


 窓から入る光が2人の長い髪を照らす中、クイントがキャシーの横顔を見つめる。クイントの視線に気付き、笑って応える。


「そうよ。いい?私の可愛いクイント。罪は責められた時に初めて罪となるの。自分の行いを責められた時に、人は罪の意識を覚えるという事ね」


「うん」


「ずっと正しくあり続け、罪悪感を覚えないで生きる事は難しいわ。もし出来たのなら、それはとても恵まれた人生だけど、きっとカーペットの上で一生を終えるようなもの」


「ふわふわだ」


「ふふっ。罪悪感を覚えて後悔しても、決して自分を責めてはいけないわ。それは悪い後悔になってしまう」


「悪い後悔」


「それにね・・・」

 

 日が昇り始め、ステンドグラスが光を通して床にカラフルにその姿を写す。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「罪は人の中に存在しない。罪悪感は人の中にあっても、罪というものは人と人の間にしか存在しない。だから罪を裁くのは他人に任せて、自由に生きて良いんです」


 クオーグスを包んでいた淡い光が消え、クイントに殴打された痕も消える。


「だから何だと言うのだ!?世の中にはルールがあるんだ!やってはいけない事をした僕に生きる価値は無い!」


「今日も一日良い後悔を」


 そう言うとクイントはその場から離れて行く。ひとり残されたクオーグスは「良い後悔なんて」と呟くと、もう一度空を見上げた。 


*********************



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