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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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脆く、儚い。望み。④

脆く、儚い。望み。④


************************


 ジャックとジェルードが剣を振る度に地面が削れていく。2人はレーミルの魔法の風に押し出された後、斬撃を飛ばし合っていた。

 剣が届く距離での戦いが、魔法の風の影響もあり今の形を作る。斬撃を打ち消し合う2人。それはジェルードが2本目の剣を取り出す迄、互角に見えた。


「おいおい。こんなもんかよ?」


 手数の多さにジャックは斬撃の余波を防ぎ切れていない。


「なぁ、ジェルード。なんでだ?」


「あ?何がだよ。命乞いか?」


 ジェルードの繰り出した斬撃を防ぐのではなく、かわし始めるジャック。


「いや、そうじゃねぇけど。俺達に何か恨みがあんのか?」


「ないな。だが、ムカついて仕方ない。俺達に黙って付いて来るなら許せたが」


 かわされた斬撃を見て、ジェルードは眉根を深く寄せる。ジャックが攻撃する素振りを見せないのも、苛立たせたのか躍起になって斬撃を飛ばす。


「どういう事だ?」


「逆に聞きてぇよ。どういう事だ?どうして楽しそうに笑ってやがる?この俺は選ばれた人間なんだぞ。その俺を差し置いて、俺よりも幸福そうにするんじゃない!」


 斬撃と共に駆け出し、ジャックへと接近する。


「...やっかみかよ」


 斬撃をかわした先にジェルードが迫り、3つの剣が交差する。


「俺は幸福であるべきなんだ。選ばれた人間なのだから。そしてお前らは不幸であるべきだ!」


 必死の形相でジェルードはジャックを押し切ろうと、一歩。更に、一歩と足を前に踏み込んだが、急に張り合いが無くなりバランスを崩してしまう。ジャックの剣が柳のようにジェルードの剣を流している。


「選ばれたから幸福ってのは違げぇな。そりゃ何かに選ばれないより、選ばれた方が良いってのはわかるよ。選んで欲しいと思っていたのなら尚更な」


「くっ!?」


 振り返りジャックを睨む目は微かに怯えているように見える。


「選ぶ、選ばないってのは他人が決めるもんだろ?んで、幸福は自分で決めるもんだ」


「何が言いたい?!」

  

「てめぇの事を他人に決めさせてんじゃねぇ!!」


 ジャックが咆哮と共に剣を振り下ろす。上段から振り下ろされた剣は、一際大きな斬撃を生む。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 フテラアリシアに掴まれたジェルードは苛立っていた。眉根を寄せてはため息を吐くのを繰り返している。


「使えない奴らだぜ」


「どういう事だ?」


 独り言に反応する声にジェルードは驚いたが、フテラアリシアの存在について話を聞くと苛立ちをぶつけるように話だした。


「俺達と一緒に行動している奴らなんだが、囮の役ひとつ満足にこなせないし、50階の関の主の情報すら持ってないとは情けないったらない。まぁ、囮の役も誘導されて、まんまと引っ掛かるぐらいだし、期待するだけ無駄か」 


 カカカッと笑うジェルード。愉悦を含んだ笑い顔はどこか安堵している。


「囮とな。他者に犠牲を強いるのか?」


「犠牲?当然の帰結ってやつだよ。優秀な者がいい目を見るのは自然の理だろ?」


「そうであるか。して、その優秀というのは誰が決める?」


 ジェルードは何度も言葉に詰まり、答えようとしては口を閉じる。フテラアリシアは悠々と空を飛び景色を後ろへと流していく。


「そんなもの、わかんだろ。皆だよ皆」


「詭弁を弄すか。して、汝の望むものは何だ?」


「ああ?望みだ?幸福に決まってんだろ。誰からも幸福な存在として認められる事だ」


 フテラアリシアの翼がはためく。地面についたジェルードはフテラアリシアから逃げるように距離をとる。


「自己の価値を他者の中に求めるのも人の業か。汝の望み確かに聞いた」


 飛び去るフテラアリシア。後ろ姿を見るジェルードは居心地が悪そうに肩を掻く。やがて現れた扉を通ったジェルードは羨望の眼差しで見られる事を想像し、崇拝の技能を得る。しかし、それは欲望技能と呼ばれるものであった。


 望みは自身の延長上に在るもので、自身を変えたい、もしくは成長したいという思いである。他者を変えたいという思いは望みではない、それは願いとされるもの。


 望みの塔で願いが叶う事はない。願いは誰かに届かなければ、叶う事はないのだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ジャックの放った斬撃がジェルードの前に大きな穴を穿つ。その大きさに尻込みするも、歯を食いしばり穴を飛び越えジャックに向かって行く。 


「俺は過酷な訓練に耐え、その中で選ばれたのだから。幸福でなければいけない!」


「わかんねぇ。てめぇの言う幸福ってのがわかんねぇよ!どうして周りを下げなくちゃなんねぇ」


 振り回される剣を弾き、防ぐジャック。


「恵まれている事を実感する為に必要なんだよ!」


「くっ、あの王冠被った骨と同じかよ。優越感に浸りてぇだけか!」


「違う!幸福だ!幸福を...」


 横薙ぎに弾かれ、ジェルードの手から剣が失われる。


「さっき楽しそうに笑ってって言っていたな。てめぇもそうすればいいじゃねぇか」


 突きつけられる剣を前にジェルードは諦めたのか、その場に座り込んでしまう。


「出来ないんだよ」


 風が止み、今までと逆の方向に吹き始めた。   


「どうすれば楽しそうに笑う事が出来るのか。わからない」 

 

 うつ向く影はその場から動かない。


「俺もわかんねぇよ。いつでも楽しそうに笑えている訳じゃねぇ」


「え?」


「きっと。わからないまま、間違ったり、失敗したりして、その中で時に楽しく笑えて。それでまた、探しに行くんじゃねぇのかな」  

 

 剣を納めると、ジャックは足早に去って行く。ジェルードは後ろ姿を眺めながら手を伸ばす。呼び止めようとしたのか口を開きかけて、首を振った。

 そして、仰向けに寝転がると。


「間違っていたのか」


 そう呟いた。


************************ 

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