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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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脆く、儚い。望み。①

脆く、儚い。望み。①


**********************


 クイントは転移陣を背に座りながら、50階層の転移陣と51階層への階段がある空間で待っていた。すると突然前方に扉が現れ、レビンの姿が見える。


「クイント!」


「ししっ。レビン待っていたよ」


 レビンが口を結びクイントに駆け寄る。


「笑ってんじゃないよ!どれだけ心配したと思ってるんだ!!」


「ご、ごめん。でもレビンもあの鳥に連れられて来た訳でしょ?だったら「クイント!レビン!」


 二人の後方からジャックが物凄い勢いで駆けてくる。その勢いは止まらずクイントとレビンに飛び込んだ。ジャックの腕が二人をなぎ倒し、三人が並んで寝転がる。

 

「心配させんじゃねぇ!」


 地面に伝わる声の振動が二人をくすぐる。堪えきれない様子で笑い始めるクイントとレビンに腑に落ちない表情で顔を左右に動かすジャック。


「くすくす。信じているんでしょ?そんなに心配する事ないんじゃないかな」


「レビン?」


「ああ?信じてても、心配はするもんだろが!!」


「だよね~。ほら!クイント。笑っているんじゃないよっ!」


「そうだクイント!笑ってんじゃねぇ!」

 

「なんで私だけに怒る!?」


 クイントが起き上がると、その長い髪が顔を覆った。言いたい事も途中に髪を払う姿が二人を笑わせる。


「二人も笑っているじゃないか、もう。ししっ」


 目の潤んだ三人の青年が笑い合う。今まで望みの塔では離れる事はなかったア・サード。再会と50階層到達の喜びがジャック、レビン、クイントを包む。

 しかし、その喜びが長く続く事はなかった。

 ほぼ同じタイミングで3つの扉が現れクオーグス、レーミル、ジェルードの3人が登場すると、笑い合っているア・サードを見ると怪訝な表情を浮かべた。


「もう転移陣の中には入ったのか?」


 笑いつつも首を振るア・サード。


「何へらへらしてやがんだか」


「状況判断が出来ていないね」


 クオーグスとジェルードのあきれた声と冷ややかな目。それが笑っている事を咎める。

 速やかに転移陣の中に入り、魔力を記録するクオーグス達。ア・サードも早く転移陣の中に入るようにと行動で伝えている。


「そうだよな...」


 ジャックの声が、転移陣の前に落ちていく。転移陣に魔力を記憶させた6人は静かに51階層へと続く階段を上る。


**********************


 ベイスン郊外。〈エイマー〉のホームではガイザック達が回復訓練後の休息を取っていた。コリンと既に怪我から回復したナタリーが残りのメンバーの世話をしている。

        

「今日は天気が良いからシーツを洗濯するわよ。部屋に入られたくないなら自分で持って来なさい」


 ナタリーの声にロンウェル以外の者が壁に手を付いたり、杖を突いたりして動き出す。


「なんだ。皆、見られたくない物でもあるのか?」


「「乙女の部屋には」」「甘い内緒と」「不思議の秘密が」「「詰まっているの」」


 ミーミーとメイメイが杖を重ね合わせてポーズを決める。いつだって様にするのがこのふたり。本当は部屋が散らかっているのをナタリーに知られたくないだけだ。叱られるから。

 ガイザックとキキクリクもよたよたと歩いている。

 当初、〈エイマー〉が126階層で負った怪我は復帰が絶望的だと思われていた。

 126階層は重量が地上と比べ6倍になる階層。思うように動けない体に、次々と襲いに来る怪物達。メンバーの多くが腕や脚を砕かれてしまい、重症を負う。撤退を余儀なくされ、帰還した時にはガイザックとナタリーだけが意識を保っていた。

 〈エイマー〉は冒険者を引退するのではないかと酒場で噂された。それも当然、粉々に砕かれた骨を治癒の力で治す事は難しいからだ。治癒の力で無理に治せば変形をきたし、元のようには動かせなくなってしまう。

 長い時間を要するが、外科学を用いた治療が必要となる。だが、それで治ったとしても以前のように動ける保証はない。

 

「あら、訓練中よりも良い動きをするじゃない」


「おやおや、(やま)しい物でもあるのかね」


 コリンの言葉にさらに動きをぎこち無くするガイザック。


「そ、そんな物、あ、有るわけないだろう!なっなんとなく入られたくないだけだ。な?キキクリク」


「ええっ?そんなしどろもどろでこっちに振らないで下さいよ!」


「う、裏切るのかキキクリク!」


「違います!墓穴を掘るなら一人用で間に合わせて下さいって話です!」


「「愚か」」


「情けなし」


 陽が昇り温かな時間に、誰もが活動を始めている。ここ〈エイマー〉のホームでも例外はないようだ。少々騒がしい気もするが。

 太陽は変わらず眩しくて、ちっとも輝きが陰ることが無い。

 真っ白なシーツが風に揺れ、陽を浴びている。〈エイマー〉のメンバー達はテーブルを出し、ゆっくりとした時間を作り出していた。


「あの子達はどうしているかしら?」


「〈ア・サード〉か?前に聞いたのは40階層で足踏みしているって事だったな」


 〈エイマー〉はア・サードに技能の使い方に体術や魔術を教えてきたが、望みの塔の攻略方法について教えることは無かった。冒険者は冒険を誇りにしている。だから冒険者が持つ冒険の意義を汚す事はしない。それはア・サードの師匠、ミレイユもそうだった。

 ア・サードは知らない世界を求めている。そんな彼らに攻略方法を教える事は自らの誇りを汚す事と変わりない。

 

「無理もないわね」


「そうだな。1人で2つの職をするという事は1つの職で鍛える者より、単純に半分しか鍛えられないという事だからな」


「得る技能も半端になるのだ」


 ロンウェルがしみじみと言う。自身も槍使いと治癒師の2種類の技能(スキル)を得てきたのだろう。それに対して、立ち上がり重くなる空気をはね除けようとするキキクリク。


「ロンウェルさんは、それでも強いじゃないですか」

 

「キキクリク。それは貴殿らの力があっての事だ」


「ア・サードは」「三人」「三人共」「半端になる」


 ミーミーとメイメイの前には物干しに掛けられた真っ白なシーツが風を受けてはゆらゆらと揺れる。


「ア・サードでは50階層に到達する事は出来ないだろう。それに彼らの冒険は長くは続かない」


「ガイザックさん!だったら何故あいつらを」


 ガイザックの顔の上に影が覆う。影の主を見上げ、ガイザックの声は風の先を流れるようにゆらりと昇る。 


「キキクリク。俺達、冒険者はいつだって自分達の想像を越えるものが現れるのを期待するものだろ?」


**********************


 50階層から51階層へと続く階段で、ちぐはぐに重なる足音が聞こえる。奏でられる旋律は調(ととの)えられたものばかりではない。中には旋律とは呼ばれないものもある。不揃いで不格好な音の流れ。いつでも調えられた旋律を奏でていられるわけではないのだ。

 

「うわぁ~」


 レビンの歓声が静けさを置き去りにする。クイントもジャックも声を出す代わりに目一杯、(まぶた)を開いている。

 彼らの前には地上では見られない景色が広がっていた。

 冒険者に“オーバーバース(超停泊場所)”と名付けられた空に浮く島。いくつもの島が空に浮かんで目の前を流れていく。


「どうなってんだ」


「おとぎ話の世界」


 息を飲む音。ぽつりぽつりと交わされる言葉。静かな時間が流れる。

 51階層からは数多くのオーバーバースが存在し、オーバーバースを渡り行く事で60階層に到着する事が出来る。階段を上りきった冒険者の行く先には何台もの小型の舟が用意されていた。


「おい!」


 ジェルードの刺すような声が静けさを押し退ける。小舟の選定を始めているクオーグス達。彼らが望みの塔に居られるのはあと1日だ。


**********************

   

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