動き、動かす。思い。⑥
動き、動かす。思い。⑥
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岩山の頂上に着いた6人は、50階層へと繋がる階段を余所に話し合っていた。
「いよいよ関の主との戦いだ。作戦を話し合おう」
クオーグスが円になって集まる様に誘導し、ジェルードとレーミルが左右に並ぶ。そして、つられるようにア・サードもそこに加わった。
「まずは様子見がしたいよね?」
クオーグスがゆっくりとした口調で話し出し、視線をジャックに送る。
「そうだな。関の主の事を知りてぇな」
「どうやって知るかだよね?」
じっとクイントを見つめ、話を振るクオーグス。
「私が囮になって、相手を引き付けるのはどうでしょうか」
クイントの提案に束の間の沈黙が訪れるも、またゆっくりとした口調が話し出す。
「いや、それは悪いよね?」
「確かに。だけど誰かが囮になるのは必要かもな」
「じゃあ、僕が」
「クオーグス!?」
クオーグスが手を挙げると、慌て始めるジェルードとレーミル。不穏な様子にレビンが何かを言いかけるが、レーミルの声がそれを封じてしまう。
「ダメだよ。クオーグス!君に無理をさせる訳にはいかない」
レーミルが悲痛な表情を見せ、ジェルードも悔しそうな顔を隠そうとしない。
「クオーグスさん。私が言い出したのですから」
「すまない...」
結局クイントが囮役をやる事になり、その補助にジャックとレビンが付く事になった。
50階層の関の主の部屋は今まで登ってきた岩山とは違い、何もない広野が広がる。当の関の主は大きな趾足と爪を有する鳥。フテラアリシア。全長5メートルは有り、翼を広げた状態では横に15メートルは越える。その翼は羽ばたくだけで竜巻が起こった。
「なんだ!?この風は?」
関の主の部屋の扉を閉めた途端、強風が彼らを襲う。風巻き、逆巻く風に煽られる体。そんな中、クイントが一歩前に出る。
「クイント!」
まだ関の主の姿を捉えられていないジャックは焦りを隠せないでいる。技能を使い、首を右へ左へと動かす。レビンも空気の魔法を行使しようとしているが上手くいかないようだ。
強風はフテラアリシアが産み出したもの。簡単に魔力を浸透させ、変化を起こす事は出来ない。風に流されるようにクイントが一歩一歩と進み、5人から離れていく。
「待って」
レビンが追い掛けようとするが思うように足を踏み出せない。広野に吹く風がいくつもの流れを作り、刻々と変化している。風の壁が足を進ませない。下手に足を踏み出せば、風に飲み込まれ1人はぐれてしまう。現にクイントはフラフラと揺れながら、振り返る事も出来ずに離れていく。
5人から見えるクイントの姿が人差し指程になった頃。大きな影が上空を覆った。その影の前に風は無くなり、通った後に風が生まれている。
「クイント!!」
今一度ジャックが叫ぶが、風に邪魔され届く筈もない。だが、強風に流され続けていたクイントが立ち止まりジャックの顔が歪む。
フテラアリシアがクイントに接近したのだ。
クイントの目にはフテラアリシアの大きな趾足が写り、ジャックとレビンの目にはフテラアリシアがクイントを掴み上空へと連れて行く姿が写った。
「50階層の関の主と戦う事はない」
25年程前の冒険者の間では有名な話だった。だが、今は[新しき冒険者の時代]と言われるようになって日が浅く、50階層に到達した者も少ない。
またア・サードは偽りを演じる為、クオーグス達は偽りを隠す為、地上で50階層の関の主の情報を集められなかったようだ。
フテラアリシア。その存在は門番であり、案内人でもある。神の意思により、そう決定付けられた彼女を倒す事は出来ない。正確に言えば、物理的に倒す事は出来ないのである。
では、どうすれば倒すことができるのか。
それは問答。彼女の出す問いに答え、圧倒すれば良いのである。
フテラアリシアに連れられたクイント。始めは趾足から抜け出そうとしていたが、高さが上がるとその動きを止めた。強く握られる訳でもなく、突き落とす事もしないフテラアリシアに不思議そうな顔を向けた時。
「汝が望むものは何だ?」
その問いは発せられた。
「なっなに?」
「ようやく落ち着いたか。我はフテラアリシア。神の意によりこの階層に来た者を試すモノ」
「えっ?どういうこと?ジャックとレビンは?それにクオーグスさん達も」
「仲間の心配よりも自身の心配をした方が良い。それに今頃、仲間達も同じ状況だ。汝達は今、心を試されている」
「心?」
「そうだ。我の出す問いに答えてみせよ。答え次第では、ここより落とす事なるやも知れんぞ」
地面へと視線を落とすと、あまりの高さに力が抜けてしまうクイント。フテラアリシアの周りは無風の状態である為、話している間に高くなっている事に気が付いていなかったのだろう。
「汝が望むものは何だ?」
「今は下に降ろして欲しい」
「ほほう。落下したいと申すか?」
掴んでいた趾足の力が抜けたのだろう。慌ててクイントがフテラアリシアを掴む。
「ち違います!安全に降ろして欲しいのです!」
「ならば真剣に答えるがよかろう。今一度問う、汝が望むものは何だ?」
「私が望むもの...」
クイントが思考しはじめ、静かになる。
フテラアリシアは急かす事は無く悠々と空を羽ばたく。今まで多くの冒険者に望むものを問い、その答えに隙があれば、更に問いを重ねる。
古来より、望みの塔は望みを叶えてくれると言われてきた。だがそれは、技能を得ても使いこなせなければ望みが叶った事にはならない様に、実際に望みを叶えるのは冒険者自身である。望みの塔は望む者の手助けをしているに過ぎない。
望みを叶えるのに必要な技能が少なければ2、3体の関の主を倒しただけで十分だ。しかし、多くを望む者は、望みの塔に高く上る事になる。
人の望みが尽きる事はないのか。今までに多くの者が過酷な試練に耐え、望みの塔の上階を目指した。
「何故?そこまで。どうして諦めない?」
とある神がそのような冒険者達を見て、疑問に思う。フテラアリシアはその疑問の解消を目的として生まれた関の主だ。
望みを知る事で、過酷な状況であっても人を動かすものを知ろうとしたのだ。そして、それは今もずっと続いている。
「...私の望みはジャックとレビンと一緒に輝く事」
「ジャックとレビンとは汝の友か?」
「はい。欠けがえのない友人です」
「そうか。だが人は脆弱な生き物。その友が居なくなれば汝の望みは潰えるのではないか」
「...いいえ、潰えません」
「異な事を言うの。一緒に輝く事が望みと言うたではないか」
「...ジャックとレビンはいなくなりませんから」
フテラアリシアの嘴の上に皺がより、体毛が逆立つ。
「戯れ言を」
「いっ、いつかジャックとレビンが私の前から居なくなっても...私と一緒に居た事は間違いありません。それに、私は二人の事が大好きです。それは私の中にジャックとレビンが色濃く存在しているという事です。過ごした時間だけでなく。私を救ってくれたジャックとレビンが、私から居なくなる事はありません。忘れないから。だから。私が輝く時はジャックとレビンも輝いているのです!」
フテラアリシアは翼を何度もはためかす。
「...輝くとは一体どういう事だ?」
「私が私として憂いや慮る事が有っても、笑ったり、泣いたり、怒ったり、愉しんだりして生きる事。そして生きる事を楽しいと感じる事です」
「汝が汝としてとは?」
「私が何かを感覚する時、また表現する時に偽らない事です」
「輝く為に技能が必要か?」
「はい」
「何故?輝きたいと思う?」
「...それが私が生きるという事だから」
「生きる...人の営み、または業か。汝が汝として存在し、存在するが故に望むのだな。在るものは無いことには出来ぬの」
クイントが地面に降り立つ。
「汝の望み確かに聞いた」
フテラアリシアの声が離れていく。所々に花が咲く平原に連れられていたクイント。目の前には扉がある。
クイントは息をひとつ吐くと手を掛け、扉を開く。その後ろでは花が小さく揺れていた。
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