動き、動かす。思い。②
動き、動かす。思い。②
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ベイスン大通りにあるカフェテラスに、一冊の新聞が置かれている。通りを抜ける風が吹き、大きな見出しがテーブルに広がった。
“ツゥトリービヤ帝国の第一皇子、薨去”
記事には、第一皇子のトゥミロスは惨殺死体で発見され、ツゥトリービヤ帝国はクーデターを警戒。厳戒体制を敷き、調査を行う。その際、武器の製造施設が見つかったとある。
ツゥトリービヤの皇帝は我が子を亡くした悲しみに暮れる間も無く対応に追われているようだ。
カフェテラスの前を3人の青年が通り過ぎる。同じような背丈に同じ髪型。ちぐはぐに歩く姿はどこか周りに不安を与える。
「誉めてくれると思ったんだけどな」
「クオーグス。逃げて来たのはいいが、これから大丈夫なのか?」
「え?何?僕に逆らうの?」
「いやいや、そういうんじゃない」
ジェルードが慌てて手を振る。その斜めでレーミルが後ろに手を組み、街行く人を見ている。
「そう、なら良いんだけど。彼らも一緒に来れば、死ぬ事は無かったのにね」
「あんな鬱陶しい奴らは死んで良かったよ」
クオーグスは足を止め「そうだね」と見向きもせず、目の前の望みの塔を見上げる。そうして満面の笑みを浮かべ、手を伸ばす。
望みの塔を掴むような仕草をするクオーグス。それをジェルードはつまらなそうに見やり、レーミルは変わらず街の人を見ていた。
「望みの塔って良い所だよね。ホント、僕達が優秀である事を証明するのにうってつけだ」
トゥミロスの命令によりベイスンで暮らした3人。長年育てられた施設とは違い、ベイスンでの暮らしは彼らに束の間の自由と新たな価値観を与えた。
随行していた監視役が親心からか、連れてきた者達に自由になる時間を与えたのだ。
傲慢な性格をしていた3人だが、ベイスンでの人々との触れ合いや書物との出会い、また望みの塔の世界を知り良くも悪くも変わる。
施設ではトゥミロスが絶対であると教えられてきた。
生きていけるのはトゥミロスのお陰で、自分の命はトゥミロスのもの。トゥミロスの命令に背く事はあってはならない。余計な事を考える暇も与えられず、それが普通、当然であると何度も聞かされてきた彼ら。
「この前は40階層の関の主を倒した所迄だったね」
「おお、魚の。池を飛び回るトビウオ?みたいな怪物」
「うん」
不揃いの思惑を胸にクオーグス、ジェルード、レーミルの3人は転移陣の中に消えていくのであった。
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望みの塔41から49階層。切り立った岩山が乱立するこの階層は、41階が麓で49階は頂上の構成になっている。
岩山の高さは低いものでも5万キロメートルはあり、山の側面の道や山に住まう怪物達に作られた洞窟を通り冒険者は階層を進む。
また、岩山は何本かの吊り橋で繋がっており、この吊り橋を使い岩山を上がっていく事になる。
岩山をクライミングする事も出来るが、周りを飛ぶ怪物を相手にしながらのクライミングは困難を極めるだろう。
無防備な者を見過ごす怪物はおらず、一筋縄ではいかないものが多い。せめてもの救いは気候が一定で穏やかな陽気であることだ。
「今日はこっちから行くか」
どの岩山の頂上からでも50階の関の主の階層に行くこと出来るが、始めに選ぶ道によって登頂出来る岩山は限られる。
「いいね」
ジャック、レビン、クイントの三人がこの階層に初めて到達してから、既に2年が過ぎていた。
30階層を越えた辺りから、怪我をする事も増えたア・サード。それでも彼らはパーティーの人数を増やそうとはしなかった。
だが、ここに来て人数不足が41階層より上を攻略する上で無視できないものになっていた。
崖と崖を結ぶ吊り橋を渡る際に現れる怪物達は狡猾で、種族の違いを越えて協力して冒険者達を襲うのである。
吊り橋を揺らすもの、落とそうとするもの、一体一体を相手にしなければ渡ることが出来ない。橋を揺らす怪物を抑えると向こう岸のロープを切り落とそうとする怪物が現れ、そちらへ急げば元の岸のロープを切り落とそうとする怪物が出てくる。
「空を飛べれば良いのに。レビン魔法で出来ねぇのか?」
「ジャック、今さらって感じだけど。空気の魔法で風を産み出せても、物と違って人体を浮かす事は難しいんだよ。人には魔力が流れているからね。カイトのような物を使って浮いたとしても制御するのが難しいし、出来たとしても膨大な魔力が必要になるんだ」
「なるほどね。なら空を飛べるように望めば良いのか?」
「どうだろう。非現実的な事は簡単には叶わないと思う」
「俺の斬撃は飛ぶけど?」
「あれは正確には魔力を飛ばしているんだよ」
「そうなのか。どうりで疲れる訳だぜ」
ジャックが剣を振り、空を飛んでいる虎に斬撃を飛ばす。死角から攻撃を受けたフテラリオンは旋回し、三人の存在を認めると咆哮をした。
威圧され、身じろぐ事も出来ないア・サード。咆哮に魔力が込められており、対象を動けなくさせるフテラリオンの常套手段だ。更に副次的に仲間を呼び寄せ、続々と姿を見せる怪物。
フテラピテーコス、フテラフィジィ、フテラリュコスの姿もある。
「次から次へと」
「数が多い」
リオンが16頭。ピテーコスが46頭。フィジィが12匹。リュコスが28頭。
『空気と空気よ・散々乱気と成す・籠り・上下し渦巻け』
レビンの魔法がピテーコスの統制を狂わす。混成集団ではピテーコスが必ず、統率を取っている。浮き足立つ集団に斬撃と投石が襲った。
攻撃に対し本能的に動く怪物。逆上し、個々にジャック、クイント、レビンを襲い始める。
「ナイスコントロール」
「ありがと」
クイントの大盾がフテラリュコスを弾き飛ばし、ジャックの剣がフテラフィジィの体を刻む。『水よ・槍と成す・圧されたまま・噴射せよ』レビンが想起語を唱えリオンを貫く。
三人は素早く対処しようと動いている。しかし。
「あっ!」
キィー!キィー!と甲高い音が鳴り、逆上していた怪物達が引き始める。音の発信元では、ピテーコスが連携し乱気流から離脱していた。
フテラピテーコスの声にフテラリオンが先頭に立ち、編成を変えていく。種族でまとまっていた怪物達が混合する。
「くっ」
リオンの咆哮が威圧し、背後からフテラリュコスが飛びかかる。フテラフィジィが隙を狙い、フテラピテーコスが手を叩く。次第に防戦に追いやられるア・サード。
「また、こうなっちまったか」
「逃げる用意はいつでも」
半ば敗走を覚悟し始めたア・サード。そこに怪物に攻撃をし始める者達が現れるのであった。
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