動き、動かす。思い。①
動き、動かす。思い。①
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「首尾はどうだ?」
「ええ順調です。ベイスンに遣わした者達も各人技能を得て、帰国しております」
「そうか、親父達には気取られてはいないだろうな」
「あちらに送り込んだ者の報告によれば、国王様は望みの塔から持ち込まれた新たな鉱石について研究され、他の事など目に入らないようです」
「大臣達もか?」
「はい」
「揃いも揃って愚かな者達よな」
帝城の一室で従者と会話をする男はツトゥリービヤ帝国の第一皇子トゥミロス。彼は今の現状を良しとしない男である。
彼はいつも何か不満を抱えてきた。いや、不満を探し続けてきた。与えられた環境に対して納得する事がなく「何かが欠けているのだ」と難しい顔をしてつぶやく。
そんな彼は、ある計画を進行させているのであった。
「もうすぐだ。もうすぐ我の悲願が成就する」
事の発端は22年前。とある手記を見つけた事から始まる。トゥミロスが成人の儀式の為に旧帝城跡を訪れた際に見つけたそれには296年前の事が書かれていた。
所々破れて読めない部分もあったが、トゥミロスは知った。当時ツトゥリービヤ帝国では戦乱の世を裏から操り、この大陸の支配者になろうとしていた事を。
大陸の各国で休戦協定が結ばれてから313年。望みの塔が発見されてから、人々の生活は変わっていった。
望みの塔から得られる無限の資源により飢饉の心配もなくなる。また望みの塔で技能を得た人々による大陸の交通整備、新たな土地の開拓もされるようになった。
好転する状況の中、休戦協定はのちに終戦。そして望みの塔の不可侵、各国の友好の条約へと形を変えた。
争いの無い時代が続き、鍛冶をその国の象徴にしてきたツトゥリービヤ帝国は、戦乱の世と比べその威勢を弱める事になる。
だが、それを不満に思う者はいなかった。交通整備や土地の開拓で使われる道具や、望みの塔に現れる怪物に対抗する武具を作る事でツトゥリービヤの人々の生活は満たされた。今もツトゥリービヤの人々は活気に満ちている。トゥミロスとその一派以外は。
「何が新しき冒険者の時代だ。そんなものはすぐに終わらせてやる。望みの塔はトゥミロスの塔と名前を変えるのだからな。はーはっは」
高笑いを最後にトゥミロスが部屋を出て行くと、残された従者も隠し通路を通って帝城を後にする。空は暗く星の明かりが厚い雲に阻まれていた。
従者がある施設に入っていく。地下へと降りる階段へと迷う事無く進むと扉の前で立ち止まり、ノックを2回と3回に分けて符丁を口にする。
「かんざし」
「果実の名は?」
「ざくろ」
この施設はトゥミロスが立てた計画の為に用意させたものだ。表向きは孤児院となっている。扉が開き従者が中に入ると、そこには3人の青年が思い思いに寛いでいた。
3人の青年の名はジェルード、レーミル、クオーグス。彼らはトゥミロスの計画の1つで、幼少の頃よりトゥミロスが用意したこの施設で育てられてきた。
「これだったのだ」
22年前に手記を発見したトゥミロスは、自身が感じる欠損した何かを埋めるものはこれだと行動に移し始める。
手始めに人員を確保する為に施設を建てさせ、表向きの面目と裏の目的に合った孤児院を開設。職員はトゥミロスの息のかかった者達で構成され、孤児院は静かに運営されていった。
「強力な兵を作らなくては」
ツトゥリービヤは鍛冶の国。自国の兵士達もいるが、他の3国と比べると見劣りしていた。そこでトゥミロスは自国の民には無いものを持っていると、他国の子を拐ってくるように指示を出した。
その指示により集められた子は赤子を含めて39名。しかし、赤子は施設に設備が無かった為トゥミロスは処分するように言い渡す。
その結果、36名の幼児が施設で育成されることになった。
物心ついて間もない頃に親から引き離され、否応もなく与えられる教育と鍛練。その内容は苛烈を極めた。更に、競わされ序列を決められる。
36名の内、育成環境に適応出来た者は傲慢に、出来なかった者は卑屈な態度を見せるようになる。精神に異常をきたす者も現れる。
「何故上手くいかないのだ。どうして私ばかり」
育成の報告を聞く度、トゥミロスは嘆く。
彼らが成人した時には、13名が自傷を繰り返す無気力な人間になり、14名は能力は高いが性格に問題があった。9名に至っては既に亡くなっていた。
トゥミロスが13名を処分させ、当初の3分の1に減ってしまった人員。14名を前にしてトゥミロスは言う。
「貴様達は選ばれたのだ、この俺と同じようにな。貴様達は私の駒となり、世界を変える。優秀な者が全てを得る世界に、そうでなくてはならない。さぁ、貴様達の優秀さを示して見せよ」
14名はベイスンで生活をし、望みの塔で決められた技能を得るように命じられる。くしくもそれは新しき冒険者の時代と重なった為、悪目立ちする事は無かった。
トゥミロスの計画は兵の育成以外にも着々と進められた。秘密裏に武器の製造を行い、国の要職に自身の派閥の者を就かせる等、用意周到に進められる。
またトゥミロスは配下の強化と情報収集の為に14名以外の者をベイスンに送っていたが、数日前に帰国命令を出す。
22年の歳月をかけて進められた、望みの塔を手中に納め裏から世界を支配する計画。ベイスンから配下の者達が帰国し、明日は計画の大詰めに入る予定であった。
「ジェルード、レーミル、クオーグスの3人だけか。他の者はどうした?」
「奥の部屋で寝ています」
「そうか。お前達、明日の予定は分かっているのだろうな?」
「教官、それなんですけど。俺達、この1週間に考えたんです」
ジェルードが教官と呼ばれた男の後ろにまわり、扉をゆっくりと閉める。
「なんの話だ?」
「いえ、優秀な者が全てを得る世界に変えるというのは良いのですが、その優秀な者というのはトゥミロス様でいいんでしょうか?」
「いいに決まっているではないか!」
「思考停止ですか。そんな頭は要らないですよね?」
ジェルードの手が動き「なっ!?」教官と呼ばれた男の首がずれ落ちていく。それを寛いだ姿勢のまま見ていたレーミルは大きく伸びをする。
「さぁ、優秀さを示しに行きましょうか」
クオーグスが颯爽と立ち上がり部屋から出ると、レーミルとジェルードも続いて階段を昇っていく。
地下に夥しい血が残して。
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