これまで。より、これから。②
これまで。より、これから。②
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「まだ見つからないのか」
「はい。方々手を尽くしておりますが、光に包まれてしまう為あまり情報が得られません」
「早急に対処せねば、計画が破綻してしまうぞ」
人々は光の出所を探し続ける。というのも、争いを始めようとすると決まって光が降り注ぐからだ。争いの邪魔をしたいのか、構って欲しくてちょっかいを出す子どものように光は降り注がれた。
そんな中、ある晴れた日。戦装束に身を包んだ一団が歩いていた。
トネスターム聖王国との争いが再三、光によって邪魔をされた為、今度はレミマルク共和国へと戦いに挑もうとするヤイハイ王国の者達だ。しかし、彼らの士気は低い。
「なんで俺たち戦いに行くんだ?」
「なに言ってんだ?お前。我らの武を示すのだ!って思い切り盛り上がっていたじゃないか」
後方に居る二人が話し合っている。
「いや、そうなんだけどよ。何度も光のせいで頓挫するとよ、白けてくると言うか、冷静になってきたというかさ。そもそもレミマルクは魔法で接近戦が厳しいから、トネスタームの守りの力を手に入れようって話だったのに。なんで今、レミマルクに向かっているんだ?」
士気を下げる発言であるが、それを咎める者はいない。
「今さらだよ。団長達、上の方々が決めたことだ。俺らはそれに従うしかないさ」
「はぁ~。光は何処からやって来るのかねぇ~。あっ、今さらで思い出したけど。向こうに見える未開の地から空へ縦に線が走ってるけど、あれって何なの?物心付いた時からあって親も周りも不思議がらないから、あれはそういうもんだって思っていたけど。太陽や月と同じようなもんなの?」
「未開の地の縦の線ねぇ。どうでもいいよ、あんな所にいく奴なんかいないからな。見渡す限り荒野が広がっているんだもの。よっぽど暇な奴でもいかねぇよって!!???」
噂をすれば影が差す。ではないが、彼らに光が差した。その縦の線の在るところから。その光は今までと違い集団のすべてを包むことはなかった。
「全員止まれ!こっ、これは王に報告せねばならん」
光の筋が、前方に居た者らに確認された。一団はレミマルク共和国への進行を中止し、ヤイハイ王国へと引き返していく。
「おお!なんと!!」
一団の様子を見ていたレミマルク共和国の者達にも、その光景は確認される。そして、間者や内通者を通じてトネスターム聖王国とツゥトリービヤ帝国にも伝わった。
初めに動いたのはレミマルク共和国。ヤイハイ王国へと使者を送り、休戦交渉に臨んだ。
「陛下にお会いでき、光栄です。早速でございますが、我が国では人類共通の目的として、光の出現先について調査をすべきである。と大多数が意見しております。して、昨今の情勢を鑑みた際に他国との休戦協定を結ぶことが急務であると我が国の議会は、判断いたしました。ここに休戦協定を締結させたく参上した次第です」
謁見の間にて、レミマルクの使者がヤイハイ王国の国王に相対する。
「人類共通の目的とな。大仰ではあるが、あれを調べねば何も進まぬか。よかろう。休戦協定締結の方向で進めるがよい」
休戦の提案は受け入れられ、レミマルク共和国とヤイハイ王国の休戦が決定した。それを受けて元々、争いに消極的であったトネスターム聖王国も休戦協定に参加。なし崩し的にツゥトリービヤ帝国も参加することとなった。
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休戦協定が結ばれてから半年後。光の出所への探索は難航していた。未開の地の行程は険しい道が続き、野生の動物に襲われる危険もある。加えて目標の地点は見えているのに中々に辿り着かないことが精神的にも探索者達を苦しめる。
各国は話し合い、共同で探索隊を組むことにした。
それから、数日後。各国の選抜されたメンバーによって朗報はもたらされる事となる。
縦の線。近づけば、塔だと分かったのだ。
「これは一体...触ったことのない材質で出来ているが」
「隊長!あちらに石碑があります!」
石碑には、こう書かれていた。
《愛しき人の子らへ。この塔は我よりの贈り物である。塔に入り、階を進めよ。幾多の試練を乗り越えた暁には汝らの望みは叶うであろう。》
《この塔を広く伝えよ。万人に門戸は開かれる。愛しき人の子らよ。命を賭して我に会いに来い。》
神より
と。
探索隊は慎重に塔の中へと入っていく。塔の中は不思議に空間が広がっており、見たことのない物達が生息している。
「隊長!!」
「ああ、ああ。これはとんでもない事になった」
隊長と呼ばれた者は信じられないとばかりに頭に手を置く。
「神とは神話に聞く、この大地や我々人間を創造された神様のことでしょうか?」
「わからない事ばかりだ。我々の手には余る。ひとまず報告に戻るぞ!」
共同探索隊の報告書は各国の主導者達の元に届き、前にも増して多くの人員が派遣されるようになった。塔の調査は進み、徐々に塔の概要が解っていく。
また、神の文言をこの世界の人々に知れ渡らそうと宣教活動を行う者達が現れる。各地にその為の教会も建てられるようになった。
各国から塔への道の整備も少しずつ行われ、塔に集う人が増えていく。
この頃から塔は「望みの塔」と呼ばれだした。
近くに宿屋が出来、鍛冶屋が出来た。だんだんと望みの塔の周りが賑やかになる。人が増えると、時には言い争いや喧嘩が起きた。
そんな状況を見かねた有志達が決まりを作り、望みの塔の隣に組合所を建てる。数年後には酒場が増設され、集う人々の中心となった。徐々に組織化していき、協同組合の形を取るようになる。
そうして秩序が保たれ、街が形を成していく。ベイスンと呼ばれ出したのが今より、240年前のことであった。
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ジャックが男の前に来てから、かなりの時間が経った。夕焼けの空が見える。男はいつまでも話を続けるジャックにうんざりして「はぁ~~」と大きく溜め息をつく。
一通り、望みの塔の歴史について語り終えたジャックは、改めて男に向き合い尋ねる。
「お前だって色々見てきただろ?」
長々と話を聞かされ、弛緩していたのか男は答える。
「靴の裏を眺めていた」
「そうか。自分の靴は見たことはあるのか?」
男はそんな事をする意味が分からないのか嘲笑を浮かべ、目の前にいる者を見上げた。
ジャックは、悲しそうな顔をして男に言う。
「自分のこともちゃんと見てやれよ」
「っ!!お前に何がわかる!自分のことだって!?自分のことなら嫌という程知っているさ!あいつと比べて何も出来ない俺を。あいつの後ろ姿、駆けていく足を眺めている事しか出来ない俺を!」
逆鱗に触れたのか、男は捲し立てる。
「何でも良かったんだ!あいつよりも出来るんだって思える何かが、欲しかったんだ。それさえあれば俺は!そうじゃなけりゃ...俺はっ!」
男はガラスに薄く写る自分の姿が目に入ると、黙ってしまった。夕日が地平線に差し掛かる。
「まだ、お前の姿は見えるよ。靴も。すり減ったのは躓かせる為じゃねぇから」
ジャックがそう言うと、男は放っといてくれと言わんばかりに背を向け再び蹲ってしまった。
「もういいのかな?」
待っていたレビンがジャックに声を掛ける。
「あぁ。言いたいことは言ったからな」
ジャック達3人は元の道に戻り、歩みを進める。
夕日が地平線に消えると男を閉じ込めていたガラスの小屋も消えてなくなる。男は自由になったが、その場から動かなかった。街に明かりが灯り始めるも、男の周囲は暗闇に包まれている。
暫くすると、何かに突き動かされるように動き出した。どちらの足を前に出せば良いのか判らないのか、躓きそうになりながらも男は歩き出す。
男は大通りのベイスンの街から出る馬車へと乗り込み、旅に出る。宛もなく、失なった物を探すように。失なった物は何であったかを思い出す所から。
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