演じて、隠す。理由。①
演じて、隠す。理由。①
**********************
ベイスン大通りには多くの人が行き交う。如何にも冒険者といった格好の者が大手を振って歩いている。大通りには公衆浴場が出来ていた。冒険者の間では望みの塔より帰還した後。汚れや汗を落として飲み食いに行くのが今のトレンドだ。
3年前とは違い大通りには飲食店が並び、その近くには酒屋がある。少し歩いた所には鍛冶屋もあり武器に防具が置かれている。
「パーティーの変更すか?メンバーが増えるんすね~」
「交換所に忘れ物ですか?」
「受付には、代表者の方のみでお願い致します」
ベイスン協同組合所では、昼前にも関わらず受付の前は列が出来ていた。受付カウンターの中で対応する彼女達は、一息つく暇もなさそうだ。昨年に交換所が拡大され、人員も増えた。酒場は冒険者同士の情報交換の場になり、昼夜を問わず賑わっている。
職員の多くが嬉しい悲鳴を上げている一方で、ホーリーリルテは書類を前に頭を押さえていた。所長机に広げられた書類は望みの塔から帰還しなかった者達の冒険者登録書だ。
冒険者の人気が高まるにつれ、様々な人物が望みの塔を上っていった。明らかに実力が足りない者、冒険者同士で争いを起こす者もいた。冒険は自己責任ではあるが、何の方策も取らず放置したままでは協同組合の存在意義が問われてしまう。
「この組み合わせのパーティーの未帰還率が高いのう」
ホーリーリルテはペンを取ると、手紙を書き始める。送り先はベネットの宿り木。書き上げられた手紙はア・サードを協同組合所へと呼び寄せた。
「待っておったぞ」
所長室に入ってきたア・サードを満面の笑みで迎えるホーリーリルテ。三人は無邪気な笑顔に苦笑いを浮かべつつ、ソファに腰かけた。
「僕達に頼みたい事があると手紙に書かれていましたが、どういった事でしょうか?」
「まぁ、慌てるな。久しぶりに会うたのじゃ。積もる話もあろうて」
席に着くや否や用件を切り出すレビンに対し、お茶菓子をローテーブルに置き、ホーリーリルテは鼻唄混じりに紅茶を用意し始める。楽しそうな振る舞いに三人は落ち着かない様子だ。
バームクーヘンと紅茶の香りが所長室に漂う。ホーリーリルテも席に着き、三人の顔をじっくりと見る。
「元気そうで何よりじゃ。冒険は順調かの?」
「ああ、お陰様でな」
所長室の甘い香りが消えて無くなるまでの時間、冒険について語らされる三人。何度も手を打っては大きく頷くホーリーリルテは、終始嬉しそうにするのであった。
**********************
ベイスン協同組合の受付に4人の若者が並んでいる。故郷から出てきたばかりなのか、身を寄せ合いキョロキョロと辺りを見回す姿が初々しい。
4人は初心者講習を受け、冒険者登録をしようと受付に並んでいるようだ。先程から魔法の鞄に手を出し入れしている。
何とも微笑ましい様子に周りの冒険者の1人が声を掛けようと動いたが、踵を返してしまった。4人の醸し出す空気がそうさせてしまったのだろう。
4人は男性が1人、女性が3人のパーティーで男性は何かと周囲を警戒していたし、また女性3人も他の女性冒険者を見定めるような目をしていた。
「またか」
4人の若者を見て、そんな声が聞こえる。男性が1人で他が多数の女性で構成されたパーティー。俗に言うハーレムパーティーだが、望みの塔から帰ってこない事が多かったのだ。
ここ数日ホーリーリルテが悩んでいた望みの塔の未帰還率で問題になっていた事柄である。
女性を狙った不埒な者に襲われて帰って来ないのではない。今は新しき冒険者の時代と呼ばれる程に冒険者の数が多いのだ。街中に、塔の中であっても冒険者の目があるのだ。新人冒険者が襲われる可能性は低いだろう。
仮に新人冒険者を襲う不埒な者達がいたとしても、力自慢の者達に大義名分を与えるだけだ。不埒な者達は体の良いサンドバックになる事が容易に想像される。
何故ハーレムパーティーの未帰還率が高いのか。
それは、自滅である。
パーティーの殆んどが他の冒険者と関わりを持たない為、望みの塔の情報が少なく準備不足が多く見られた。
また、彼らの行動にも問題があった。男性は常に女性を庇いながら戦おうとする為、無駄が多い。女性は男性の気を引こうと余計な事をする。
そのような状態では隙が出来てしまうのは当然。更に1人が怪物に倒されると、その行動は顕著になるのであった。
「おいおい。えれーかわいい子、連れてんじゃねぇか」
皆が関わらないように距離を取っていた4人の若者に寄って行く者達がいる。バンダナの男と髪を真上で結んだ男と目を隠した男だ。
見るからに三下といった男達の接近に若い男性が一歩前に出て、目の色を変える。
「何か用ですか?」
丁寧な言葉使いを見せるが、腰を落とし何時でも戦える体を為している。3人の男達はわざとらしく、若い男の後ろに控える若い女性達へと視線を投げ掛けた。
「いや~ちょっと、お話したいと思ってよ」
バンダナの男の言葉に、不格好な笑顔を携え追従する髪を結んだ男と目を隠した男。若い女性達が身構え、不快感を露にしている。
「お断りします」
「連れない事言うなよ。俺達はここいらじゃ割りと有名なんだぜ?」
バンダナの男の合図に、ポーズを決める三人。
「運ばれ屋のクイント」
「憐れみのレビン」
「へらず口のジャック」
ベイスン協同組合受付前の空気が滞り「ぷっ、ダさ」と若い女性達から漏れてきた。恥ずかしいのか、変な姿勢に耐えられなくなったのプルプルと震えるア・サード。
「笑ってんじゃねぇ!三日三晩考えたんだぞ」
声と共に若い女性達へと腕を伸ばすジャック。だが、その腕が届く事はなく弾かれる。若い男性が振り払ったのだ。
弾かれた腕を痛そうに擦りながら、ジャックは不敵な笑みを浮かべた。
**********************




