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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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隠し、演じる。秘密。③

隠し、演じる。秘密。③


**********************


 陽が沈み、辺りの色が消えていく中、ジャック、レビン、クイントが息を切らし走っていた。ミレイユに師事し始めてから毎日、鍛える三人。


「今日は、ここまでにしよう」


 ジャックがゆっくりと速度を落とし歩き始めた。レビンとクイントも息を吐き、体を休ませるように足を緩める。


「前よりもずっと走れるようになったね」


「筋肉も増えた」


 クイントが力こぶを作り鼻から息を出す。


「それよりもクイントが癒しの力を使えた事の方が驚きだったわ」


 振り返り肩を竦めるジャックに、うんうんと隣で同意するレビン。クイントは嬉しそうに照れている。


「望みの塔に早く行きたい」


「ああ」「だね」


 三人は暗くなった空を見上げると家路へと就くのであった。


「おかえりなさい。今日も鍛練?」


 レベッカが待っていたかのように迎い入れ、三人の汚れた格好見て汗を流すように促した。言われるままに浴場へと向かう背中を寂しそうな目で見送る。


「大きくなっちゃって。家が小さく感じるね」


 三人が汗を流して戻るとテーブルの上には夕飯が用意されていた。エイミーとキャシーが今日も腕に縒りをかけて作ったのだろう。どうだと言わんばかりの顔で席に着いている。


「いただきます」


 誰かの声を皮切りに始められる食事。ジャック、レビン、クイントは目の前のお皿を次々に空にしていく。


「ごちそうさまでした」


 会話もそこそこに三人は食器を片付けると自分達の部屋へと入っていった。部屋に向かう途中に聞こえてくるのは望みの塔に関する事だ。


「あの人と会ってから、前にも増して望みの塔の事ばかり話しているわ」


 キャシーが(たけのこ)の入った料理に手を伸ばす。レベッカもエイミーもまだ食事の途中だが、三人の居なくなったテーブルのお皿が空になるには、まだ時間が掛かりそうだ。


「手が掛からなくなって、逆に手助けしてくれる事が多くなった。いつかは私達の元から離れていくとは思っていたけど」


「早すぎるわよ。それに三人共一緒に居なくなりそうじゃない。そうでしょ?」


「そうね。でも、あんなに夢中になってる子達を止められる?」


「それは...出来ないわよ」


 そんな会話が為されているとは知らず、ジャック、レビン、クイントは望みの塔について語り合い、それはそれはとても良い顔をして過ごしていくのであった。

 そうして、また幾つかの月日が過ぎ、鍛練により体つきにも変化が現れ始めた頃。三人はミレイユを誘って山菜を取りに行った。

 早々に山菜を集め終えた後、ジャックとクイントは剣と盾で模擬戦をして、レビンは土の想起語を唱えている。その様子をミレイユがふきのとうを摘みながらも見ていた。

 三人の訓練が一段落付くと、ミレイユが声を掛ける。

 

「ジャック、レビン、クイント。この後時間あるかい?私の家で少し話そう」

 

「ここでは駄目なの?」


「そういう事さ」


 ミレイユの家に着くと、ミレイユは小さな箱を持ち出して来た。三人は見た事のある箱を前に不思議そうに顔を見合わせる。


「私は<龍の背>の荷物持ちだったんだ。君達も知っての通り、望みの塔は望みを叶えてくれる。だけどそれは、思いの強さに比例するみたいでね」


 いつもより低い声で話を始めるミレイユ。椅子に腰を下ろすと机の上に小さな箱を置く。唐突に知らされた情報にクイントがいち早く反応した。


「思いの強さ?」


 ミレイユの話によると望みの塔で関の主(ボス)を倒し、新たに出現した扉から出る際にどれだけの思いを持っていたのかが重要との事だった。

 

 思いの強さ。それは行動に現れる。

 

 関の主を倒す事に参加しなかったミレイユは、望んだ技能(スキル)を得てもその力が低かったのだ。

 さらにミレイユが言うには倒す事に参加したとしても、その思いが漠然としていてはその技能の力は低かったと言う。

 強くなりたいと思い、強さの技能を手に入れたとしてもあらゆる強さが少し上がるだけである。また、具体的でない為に実感が持てないのだろう。


「君達に教えてきた事は仲間からの受け売りなのさ。すまないね」


 ミレイユが申し訳なさそうにする。


「そんな謝らないで下さい!」


「そうだ!現に俺達は強くなってんじゃねぇか」


 頭を下げるミレイユを否定するように首を振る三人。ミレイユの仮面が笑う。


「そういう訳で私は強くはないんだ。だけど、私は戦う強さを望んではいなかった。多くの景色を見る事が出来れば良かったんだ」


 ミレイユが小さな箱を両手で持ち上げる。まるで何かに祈りを捧げるように。そのまま暫くの時間が過ぎ溢れていく。 

 

「ミレイユ?」


「ううん、少し思い出していたんだ。望みの塔には地上では見られない景色が沢山あるって話はしたよね」


 ミレイユが向き直り、三人の目が大きく開く。息を飲み込む音が聞こえる。


「ははは。51階以降からだったよ。そこからとても綺麗な場所が沢山あると思うんだ」


「あると思う?」


 首を傾ける姿を見て、ミレイユの声が上ずる。


「私達は大人数だったから、あまり寄り道は出来なかった」


 小さな箱が開かれ、コインがジャック、レビン、クイントの手の上に乗る。乗せられたコインを見て、ミレイユの言葉を待つ三人。


「贈り物だよ、受け取って。もう私が君達に教えられる事は無くなっちゃったから、時期が来たら望みの塔に向かうが良いさ」


「ミレイユ」「師匠」「ミレイユさん」


「ふふっ。まぁ村にいる間はいつでも遊びにおいで」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ジャックの言葉を待つリズベット。冒険者を目指した理由が知りたいと思ったのは、自分の将来について考え出したからだ。何が彼らを動かすのか、それを知れば自分の進む道が分かるのではないかと期待して。


「そうだな...色々だな」


 しかし、ジャックの口から出た言葉はリズベットの期待に応えるものではなかった。


「色々って。何それズルいよ」


「ははっ。まだまだお子様だな、リズベットは」


 ジャックの子ども扱いにムッとするも、そう言う訳は何なのだろうと考える。言いにくい事だったのだろうか、触れてほしくない事だったのだろうか。それともズルいと言った事が子どもっぽかったのだろうか。リズベットは気まずげにジャックの目を見る。

 馬鹿にしたような目では無くて、少し困ったような目をしている。

 二人の様子を見ていたレビンがジャックの頭の上にトランプを乗せる。


「リズベットちゃん、僕達が冒険者になった理由は楽しいからだよ」


「レビンさん...」

 

 レビンの答えに思わず下を向いてしまう。


「くすっ、納得いかないみたいだね。僕達も同じだよ。行動の原理を言葉にすると詰まらなくなってしまう」


 ジャックがトランプをシャッフルして配り始めた。5枚づつ配られるカード。クイントが嫌そうな顔をしてカードを手に取る。


「ポーカーは苦手だ」


「色々で良いのさ。行動の原理をこれだと決めてしまっても仕方ねぇよ。何をしてても、そこに自分が居りゃ問題ねぇさ」


 テーブルには遊び用のチップが用意され、カードの交換を順番に済ませる。チップが無くなると参加した者達から、他愛もないが面倒な用事を頼まれるというルールがあるようだ。皆一様に真剣な顔をしている。


「10枚ベット」


「5枚レイズね」


 順番にカードの交換を済ませチップが上乗せされていく中、ジャックが口角を上げる。


「50枚レイズだ」


 積み上げられたチップに、リズベットを始めフォールドを宣言し降りていく。ゲームはジャックの勝利に終わり、リズベットがジャックの手札を見ようと動く。


「おいおい。それはダメだぜ、お嬢ちゃん」


「もうお嬢ちゃんと呼ばれる歳ではないです!」


 ジャックが手札をリズベットには届かない位置まで高く上げるので、必死に手を伸ばす。


「僕たちがベイスンに来てから4年が経つんだね」


「街もベネットの宿り木も変わった」


 ベネットの宿り木は全ての階の部屋が営業中だ。


「いいや、まだまだだ。いいかリズベット。答えのない。いや、答えがあっても聞くことが出来ないまま進まなくてはいけないこともある。そんな経験をして人は大人になるんだよ」


 ジャックがしたり顔をしてカードを束の中に混ぜてしまう。それを見たリズベットはがっくりと項垂れる。


「モヤモヤするじゃないですか!それっぽい事言えば、良い訳じゃないんですからね。そんなんだからモテないんですよ」


「言いやがったな、リズベット!」 


 ベネットの宿り木の2階では、まだまだ騒がしい時間が流れそうだ。レビンとクイントが窓の外へと視線を向ける。宿屋通りに多くの冒険者の姿があった。

 【新しき冒険者の時代】そんな風に言う者が増えてきた。街の人の数が多くなるに従い宿屋の数も増え、街の拡張工事も始まっている。

 そんな中、ア・サードは未だ三人で活動を続けているのであった。


**********************

 


   

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