隠し、演じる。秘密。②
隠し、演じる。秘密。②
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日が暮れた頃、ミレイユが家に明かりを灯す。付けられた明かりは光度が高く、夜を忘れさせそうな程であった。
「うわっ、眩しい」
「あっ、もう帰らねぇと」
ジャックがエイミーに言われたことを思い出したのか、席を立つ。ミレイユは話し込んでしまった自分を恥じるように頭を掻いた。
「すまない。誰かと話すのは久しぶりで、時間が経つのを忘れてしまった」
別れの挨拶もそこそこにミレイユの家を後にする三人。家に着いた時には暗くなっており、エイミー、キャシー、レベッカにお小言を貰うのであった。
この日を境に、ミレイユと三人が過ごす時間が増えていく。家で過ごす時間が減ったのでエイミーとレベッカが時折不満を漏らしていたが、そんな時はいつもキャシーが諌めていた。
三人がミレイユの家に通い始めて4日が経った頃。
「なんで仮面着けているの?」
クイントがミレイユの仮面、笑うそれを不思議そうに見ている。ジャックとレビンも興味深そうに顔を寄せる。
「おお。聞くのかい?嬉しいね。君にとって私は踏み込んで知りたい存在になったという事だね。いや、いいんだ」
ミレイユの前に三人が並ぶ。当のミレイユは天井を見たり、地面を見たりと考え込んでいるようだ。
「何から話せば良いのだろうか」
ミレイユが仮面に手をやり目の辺りを触る。今までミレイユの家で話す事は望みの塔の話だけであった。ミレイユの身の上の話は勿論、三人の事についても話題にする事は無かった。
「そうだね、私は人と違う色の見え方をするらしいんだ。それが冒険者になった始まりの理由なんだ」
「見え方が違う?」
レビンが疑問を声に出すと、ミレイユは頷き部屋にある置物を指差す。
「ああ。そこにある花瓶だが何色に見える?」
「赤ですけど」
レビンの答えにジャックとクイントも小刻みに首を縦に動かす。答えを聞いたミレイユは三人の不可解そうな顔に仮面をケタケタと動かす。
「私には緑に見えるんだ」
ミレイユの発言に頭を捻る三人。赤の物が緑に見える。そう言われても、自分の目では赤の物は赤なのだから理解のしようがないのだろう。
「っはは。信じられないかも知れないが私にはそう見えるんだよ。ずっと人とは違う色の見え方で生きてきた。だけど、解ってもらえた事はないかな」
ジャック、レビン、クイント、ミレイユの目がそれぞれに違うものを写している。
「それが始まりの理由?」
「私だけ全ての色が他人と違う色に見えるのなら、いろんな景色を見ておこうと思ったんだ。私の目が見た景色は他の誰とも違う。私だけの」
ミレイユが窓を開け、そこからの景色を眺める。
「私にだけ見える世界だ。私はこういう風に世界を見る為に生きていくんだって思ったのさ」
「それで仮面を?」
クイントが難しい顔でミレイユの目と仮面を結びつけようとする。だがどうしても結びつかないのか、長い髪があちこちに跳ねている。
「はは。いや、今のは私が冒険者になった理由だ。私は多くの景色を見る為に望みの塔に向かい、そこで一番実績のあるパーティーに入ったんだ」
「一番実績のあるパーティー?」
「<龍の背>という名のパーティーだった。所属している人が100人は居たと思う。<龍の背>は私がパーティーに加わった当時、望みの塔を最も攻略していたんだ」
ミレイユがタンスの奥から小さな箱を取り出してきた。三人の前で箱を開け、中に入っている三枚のコインを見せる。
「これは望みの塔100階層に到達した際に作られた記念コイン」
三人がコインをまじまじと見つめる。
「それで?」
「そう。それで色々あって仮面を着けるようになったって訳さ」
「いや色々って、わからねぇよ!」
「ははは。色々は色々さ」
ミレイユの仮面は笑う。仮面の向こうにある表情を全て隠したまま。
「なんだ結局、教える気はねぇのかよ。まぁいいや。それよりミレイユ。100階まで望みの塔に行ったって事なのか?」
「そうだね」
「100階はどんな所だった?」
「それは秘密。どうしても知りたいのなら自分達で行けばいいさ。それに言葉で伝えた所で10分の1も分からないさ」
「なら・・・」
それから三人はミレイユから冒険者として必要な知識を学び、鍛えていく。
ミレイユの指導の下、ジャックは剣技、クイントは癒しの力、レビンは魔法の才能を開花させるのであった。
幾つかの季節が過ぎていったある日。三人の帰りを見送る姿が夕焼けの空に馴染んでいる。三人の姿が見えなくなり1人家の中に入ると、ミレイユは仮面を外し向かい合う。
「酷い事をしていると思う?」
仮面は何も答えない。いつもと変わらず大きく描かれた笑顔のままだ。
「望みの塔に行けば、いつか何かを失う。そんな道に進もうとする彼らを応援するのは、酷い事かな?」
仮面の描く弧をなぞる指が弱々しい。
「今でも仲間の事を思うと悲しい気持ちが溢れてくる」
洗面台に立ち、顔を洗うミレイユ。仮面に付いた汚れも落とし、タンスのある方向に歩き出した。
「でも、私は笑いたい。そうしなきゃ、仲間と出会った事も悲しい出来事になってしまう。何も無ければ良かったなんて思う事は間違っているよね?」
タンスを開け小さな箱から3枚のコインを取り出す。灯りに照らされたコインがキラキラと輝く。暫くするとその輝きは、ミレイユの手の中に消えていった。
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