隠し、演じる。秘密。①
隠し、演じる。秘密。①
**********************
ベネットの宿り木。2階の部屋にア・サードとリズベット、それにマルクロがいる。4人と1匹はテーブルを囲みトランプを楽しんでいるようだ。
レビンが並べられたカードと手札を眺め、パスを宣言する。次の手番であるリズベットは苦々しく思うも平静な声で同じくパスを宣言した。
「おいおい。7並べだろ?並べるんじゃねぇのかよ」
ジャックがクラブの4を場に出す。
「フッ」
クイントがクラブの3を出した。その後にレビン、リズベットと続く。
「くっパス」
「あと一回だけだよ」
ジャックの苦虫を噛んだような表情とレビンの見透かしたような表情。マルクロがレビンの頭の上でジャックの表情を真似ている。クイントとリズベットがそれを見て、クスクスと笑い合う。
手順は巡り、再びジャックの番。
「いいか。7並べってのは最初に負けた奴がある意味勝者なんだぜ?」
「はいはい、わかりました。で、どうなのです?」
「リズベット、はいは一回でいいんだ。...俺の負けだ」
ジャックの敗北宣言にカードが舞う。リズベットが手を叩き、マルクロが跳び跳ねる。
「では、負けたジャックさんには私の質問に答えて頂きます」
姿勢をただし、咳払いをひとつ。
「どうして冒険者になろうと思ったのですか?」
「そんな事でいいのか?」
意外な顔をするジャックと真剣な顔のリズベット。レビンとクイントは散らばったカードを片付けている。
「はい。私も思う所がありまして」
「そうだな・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
礼拝堂でジャックが一人、壁に描かれた地図を見ている。そこにシスター服を着た女性が現れた。
「ジャック。最近、村に新しく住み始めた人が元冒険者らしいわよ。私達よりも望みの塔について詳しいかも知れないし、話を聞きに行ってみたら?」
「シスターエイミー」
「もう。エイミーお母さんでしょ?」
エイミーが腰に手を当てて頬をふくらませていると、後ろからキャシーとレベッカがやって来た。
「ジャック。エイミーの話だけど、レビンとクイントも連れて行ってあげて」
「シスターキャシー、シスターレベッカ」
「え~私達の事もお母さんて呼んでくれないの?」
レベッカがエイミーに続いて頬をふくらませ、キャシーは困り顔だ。
「でもさ、お姉さんって方が似合うから」
ジャックの言葉にレベッカとキャシーが嬉しそうな顔をする。だけど、エイミーはそうではないようだ。
「もう。2人ともそんな言葉で誤魔化されないでよ。ジャックが私の事をお母さんって呼んでくれなくなっちゃう」
レベッカとキャシーが、しまったと態度を取り繕う。
「いやね、エイミー冗談よ」
「そう、冗談」
3人が言い合っている隙にジャックが礼拝堂を出ていく。そろりそろりと音を立てないように。扉が開き、太陽の光が礼拝堂に差し込む。
「あっ、ジャック!暗くなる前には帰るのよ」
「はいはい」
「もう。「はい」は1回でいいの!」
本日3度目の「もう」が礼拝堂に響き、レベッカとキャシーをくすぐった。
ジャックがレビンとクイントを伴い、村を歩く。左から順に頭の位置が上がっていくのが何処と無く可笑しい。エイミーから聞いた、新しく住み始めた人に会いに行くようだ。
新しく住み始めた者の名はミレイユ。数日前に、村にやって来て辺りを散策すると村の者と話をつけ、村の外れあったボロ屋を修復し、住み始めた。変わった格好をしているのが噂になり、エイミー達の耳にも届いたのは昨日の事。
元冒険者という話。三人の足取りは緊張しているのか、ぎこちない動きだ。
「どんな奴かな」
「え~、怖い人だったりして」
「大丈夫、私が守る」
クイントの意気込みを前にミレイユの家から村の子ども達が出てくる。逃げるようにして走り去っていく子ども達。何事かと不思議そうな顔をする三人の前にミレイユは現れた。
「はは、お客さんかと思ったけど違ったようだわ」
玄関から姿を出し、逃げていく子ども達を見るミレイユ。クイント、レビン、ジャックがミレイユの登場に驚いている。ミレイユの顔には可笑しい様な恐ろしい様な、笑っている仮面が着けられていた。
「ん?君達は逃げないのかい?」
高い声が仮面を通して聞こえる。三人が顔を見合わせコクりと頷く。
「っはは。何だい君達はまるで兄弟みたいだね。差し詰め君がお兄さんかな?」
仮面の目がクイントを見つめる。その目は極端に湾曲しており、幼な子が描いた似顔絵の顔と変わらない。鼻はなく口は大きく描かれ、こちらも大きく描かれ湾曲している。無言でまじまじと仮面を見る三人。ミレイユが首を傾げ、後ろで括られた長い髪が背中を流れた。
「何だ?あんた。お面なんか着けてよ」
「おや?君がお兄さんか?」
ジャックが一歩前に出て、ミレイユの気を引く。ミレイユは手を大袈裟に動かし、ジャックへと向きを変えた。
「いや、俺らは兄弟じゃねぇ。あんたが元冒険者だって聞いたから会いに来たんだ」
嬉しいのか恥ずかしいのか分からないが、ミレイユが体を隠すような動作をし手をワチャワチャと振る。その様子を見て三人は思わず吹き出してしまう。
「ぷっ」「ふふっ」「くすっ」
「あっ笑ったね?ははは」
ミレイユの家の前に笑い声が訪れた。4人は一頻り笑い合う。
「それじゃ、バイバイ」
ミレイユが手を振り家へと帰ろうと背を向け、ジャックとクイントが手を振り見送る。レビンも手を振っていたが、走ってミレイユを追い越し歩みを止めさせた。
「待って下さい。僕達は望みの塔について知りたいんです」
「あらら。だったら立ち話も何だし、我が家に招待しようかな」
ミレイユが家へと三人を招き入れた。家の中には色とりどりの家具が並び、床にはペンキが置かれている。
「いや、すまないね。招待しようと言っておいて、もてなす用意は無いんだよ。ははっ」
「いえ、僕達が突然お伺いしているわけなので」
「ははは。君は気遣い屋さんだね。おっと、そういえば名前もまだ知り合えていなかったね・・・」
ペンキの匂いが充満する中、会話が広げられていく。身ぶり手振りを交えたミレイユの話に、ジャック、レビン、クイントは時間が経つのも忘れて夢中になるのであった。
**********************




