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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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迷い、出会いし。えん。③

迷い、出会いし。えん。③


**********************


 ギフモスキブルの枝が鞭のようにしなり、地面を抉る。擬態する事を止めたギフモスキブルの動きは前とは比べ物にならない。枝が伸び、根が地面を突き破り出てくる。

 ジャックが一人、気炎を吐き2体のギフモスキブルを相手取っていた。


「物真似止めて、本当の自分って訳か」


 次々に迫り来る枝を切り落とし、根に体を持ち上げられても体勢を崩さないジャック。持ち上げられた勢いを上手く利用して高く飛び、そのまま斬りつける。

 

「木とは思えねぇ固さだ、って木じゃねぇな」


 戦いの激しさが増すにつれ銀杏の木々も倒れ、積もった雪は土と共に掘り返されている。雪が風に押されふわふわと舞う。


 ギフモスキブルが枝を上へと伸ばす。枝はぐんぐんと伸び、先は地上からは見えない位置にある。


「なんだ?万歳して」


 雪の降る空から枝の先が落ち、地面に幾多の穴を開ける。下から見上げる鋭く尖った枝の先は、雪と変わらず混同してしまうだろう。

 ジャックが目を開き、枝を切り払う。地面に穴が開いた事によって更に銀杏の木が倒れ、ギフモスキブルの体の部分が倒れた銀杏の木々の中に隠れてしまった。

 レビンとクイントはラビリツを背に体勢を整えている。レビンの治療は終えたようだ。

 

『火よ・猛炎と成す・示す内を・燃やせ』レビンの指で限定された範囲に火が現れ、周りの銀杏を巻き込んでギフモスキブルの体を燃やす。煙が立ち込め視界が更に悪化する中、ギフモスキブルの根が暴れるように動く。

 さっきと違い縦横無尽に動く根により、思うように動けないジャック。

 レビンも魔法の二次被害を警戒してか、手を出せないでいた。

 そんな中。


「うわっ」


 地面が揺れる。

 クイントが根の一部に拳撃を叩き込んだのだ。ギフモスキブルの幹に亀裂が入り、霧散していく。

 周囲には煙が上がり、白に灰色が混じる。


 まだ1体のギフモスキブルがおり、今は静かに機会を伺う。

 張り詰めた時間が流れ、灰色が風に消える。

 ジャックが細く息を吐き、目を凝らす。レビンとクイントがジャックの元へと移動し、三人は一ヶ所に集まる。


「もう1体だね」


 ア・サードは残ったギフモスキブルを探すが、擬態能力は気配察知の技能(スキル)を持ってしても看破することは難しいのだろう。雪が積もり、時間が過ぎていく。

 不意に物音がする。それは銀杏の枝の折れる音だった。目覚めたラビリツがこの場から去ろうと動いたのだ。


 張りつめていた糸が切れたようにそれは起きた。


 銀杏の木々の中に隠れていたギフモスキブルの枝がラビリツの体を貫いた。背中から胸へと突き出た枝はラビリツの目から光を奪う。


 反射のように三つの影が動く。


 ジャックがラビリツへと伸びる枝を切り、クイントがラビリツを抱える。レビンが手を伸ばす『火と火よ・紅蓮と成す・示すものを・灰に』その火はギフモスキブルが灰になるまで消える事は無かった。


「クイント...」


 やわらかな光がラビリツを包むも、傷は塞がらず血が流れていく。白に紅と赤が混じり、雪と灰が三人の背中に積もる。

 

「僕達に何の縁もないラビリツが1匹死んだ所でどうって事ないよね」


「レビン...」


「それにさ、ホッとしている所もあるんだ。悩みの種が無くなったからね。ほんと、あそこで死んでくれて良かったよ、生きていたらずっと悩むところだった。くっくっ、酷い奴だよね僕って」


「そんな事ない!」


「酷い奴なんだよ!」


「酷い奴はそんな顔しねぇよ...」



 三人の前に墓標がある。墓標にはギフモスキブルの落とした収穫品の木の実が添えられている。雪はしんしんと降り続け、少しすれば戦いのあった場所もこの墓標も全てを覆い隠してしまうだろう。


 汚れた格好のままア・サードは望みの塔20階へと戻り地上へと帰還すると、ベネットの宿り木には帰らずベイスン協同組合所へと足を向けた。

 昼前の緩やかな空気が流れていた組合所に、酷く軋んだ空気が入ってきた。

 受付のマリリアーネがア・サードと対面する。

 

「こんにちは。どういったご用件でしょうか?」

    

「所長に会えますか?」


 事務的な口調に苛立ちを覚えたのか目も合わせず、レビンは端的に返した。マリリアーネの隣で暇をしていたミリリアーテとムリリアースが何事かと視線をア・サードに向けるが、三人共、向けられた視線に応える事はなかった。


「所長ですか。少々お待ち下さい」


「お願いします」   


 暫くして戻ってきたマリリアーネがア・サードを連れて所長室に入っていく。ミリリアーテとムリリアースは何の用だろうと首を傾げ、ああでもないこうでもないと言い合っていたが昼休憩の時間が近づくにつれ食事の話へと変わっていき、数分後、ア・サードが所長室から出てきた時にはデザートを何にするかで揉めていた。

 ア・サードは組合所を出ると、再び望みの塔20階へと転移する。汚れた格好のまま、言葉少なに三人は上階を目指す。


「宜しかったのですか?」


「別にええじゃろうて。28階での依頼の報酬を金ではなく、協同組合の拡声器の使用権にして欲しいってのは変わっておるがの」


「何を言うか不明です」


「いいんじゃ、儂はあやつらを気に入っておるからの」


 ホーリーリルテが可愛らしくウインクをする。所長室の窓から見える街は雪化粧が施され、美しい。


 ア・サードが28階の楓の木から蜜を持ち帰ってきたのは、それから1か月後の春の訪れを感じる時期であった。

 つい先日まで寒い寒いとミリリアーテが日課のように言っていたのが嘘みたいに陽気な天候が街を覆う。新緑が芽吹き、人々の顔もどこか明るい。


 街にレビンの声が広がる。


《望みの塔の中にラビリツがいた。誰かが連れてきたのか、悪戯に捨てられたのかはわからないが、本来いる筈の無いラビリツが望みの塔にいたんだ》


 講習の案内とは違う声に街の人々が戸惑い始める。


《そのラビリツは怪物に殺されてしまった。誰がラビリツを望みの塔に持ち込んだのか分からないが、理不尽な事をする人がいたものだ》


 怨みの籠った声が拡声器から出される。いつもは聞き取りやすい柔らかな声が聞こえてくる拡声器。


《か弱い者を捨てるような行為をする者が現れないことを願う。もし、そんな事をする者がまだこの街にいるのならば、僕が、このレビンが憐れんでやる》


 無関係な者にとっては耳障りな声。ラビリツを持ち込んだ者に届いたのかも分からない。この声が何になるというのだろう。

 

 ベイスンに春の風が通り過ぎていった。



**********************

 

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