迷い、出会いし。えん。②
迷い、出会いし。えん。②
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望みの塔の中の季節は外と同期している階層もあれば、独自の気候を有する階層も存在する。
21階層から29階層は外と同期しており、先程から雪が積もり始めている。望みの塔21階で本来いる筈の無いラビリツを見かけたア・サード。
巣を見つけた所までは良かったが、その後の対応で三人は揉めていた。
「レビン。今回ばかりは俺達の手に負えない。ラビリツは一度野生に戻ると二度と人と関わろうとしないってのは知ってんだろ」
「知っているよ!でも!このまま放っておけない!」
ジャックが目を伏せ、淡々と話しを進めるのに対し、レビンは感情の波を抑えきれずに話しを止めてしまう。クイントはレビンの感情の波に巻き込まれたのか、悲しそうな表情をしている。
「レビン...。ジャック!エイマーのホームに連れて行けば!」
「ああ。それでラビリツが再び人に触れられた事による拒絶反応で、衰弱していくのを皆で見るのか」
皮肉な言葉で厳しい目を向けるジャック。その目からクイントは下を向き、逃れようとする。
「ジャックは衰弱するのを見たことあるの?」
「いや、ないな」
「だったら!」
クイントが顔を上げ表情にも明るさが戻るが、ジャックがそれを許さない。
「なんだ?やってみないと分からないか?上手く行くかも知れないとでも言うつもりか?」
「うん...」
ジャックの顔を見るのを恐れるかの様に、また下を向くクイント。ジャックの目が鋭くなる。
「自分達が特別だとでも?クイント、いつからサーガの主人公になったんだ?」
あまりの言葉にクイントがジャックを睨む。
「っ!前に!無駄な事が無駄だと分かったって言っていたじゃないか!試してもいいじゃないか!そうだ!こういう時はコインで」
魔法の鞄からコインを出すが、ジャックの手が鋭くそのコインを奪いあげる。
「ダメだ。コインで決める内容じゃない。それに試すってのは後戻り出来る事にしか使えないもんだ。クイントは試しで生きてんのか?」
じっと見るジャックにクイントはやっと目と目を合わせ、ジャックの言葉遣いの違いに気づいたのか、ハッとした表情をする。
「ごめん」
「うっ、見過ごせないんだ!」
今までクイントとジャックのやり取りを見ていたレビンが、耐えかねたように叫ぶと一人ラビリツの巣のある方へと走っていく。
クイントが手を伸ばすが、届く事はない。届かなかった手を額に当て、クイントは目を閉じる。ジャックは、ただ走り去るレビンの背中を見ていた。
二人の肩に降る雪が何度も重なった頃。
ジャックがゆっくりと動き出し、コインをクイントに返す。そして、頭を掻きつつレビンを追いかけ始めた。クイントもコインを魔法の鞄に仕舞うとジャックの横に並ぶ。
「俺達はア・サードだ」
「うん」
冷たくやわらかな風がクイントの髪を浮かせた。
「何か方法を探すんだ。この思いを空しいものなんかにはさせない」
レビンが逃げるように足を進め、積もった雪を散らして、強く踏みしめる。その足跡を追いかける二人とは対照的だ。
「今回はどう転んでも救いが見えねぇ」
ジャックが降り落ちる雪を見上げて、白い息を吐く。クイントは何も言わず、足をひとつひとつ動かしている。二人は言葉を交わすこと無く、明瞭に足跡だけが残っていった。
レビンがラビリツの巣に近づいた頃、巣の周りの木々の枝にも雪が積もり始めていた。巣から顔を出したラビリツは空を見上げると、慌てた様子で飛び出す。雪を今まで見たことが無かったのだろう。巣の周りを何をする訳でも無くおろおろと動く。
その様子に銀杏の木に良く似た怪物が気付き始め、怪物の腕に積もった雪が落ちていく。
銀杏の木に良く似た怪物の名はアンウッド種のギフモスキブル。
今は周りの銀杏と同じように枯れた姿をしているが、秋の深い時期には葉を紅葉させ、果実もつける。見かけが本物の銀杏と変わらない為、冒険者は知らぬ間に攻撃を受け命を落とす事もある。
『土よ・防護と成す・流動し・固まれ』レビンの想起語により土の防護がラビリツを隠す。獲物が突然隠れてしまった事にギフモスキブルは一瞬動きを止めたが、そのままラビリツを隠す土の防護を攻撃し始めた。
何度も降り下ろされるギフモスキブルの枝。頑丈に作られた土の防護であるが、罅が入り始めている。
『空気よ・風と成す・移り・吹っ飛ばせ』今度は風の塊がギフモスキブルを襲う。レビンの呼吸は荒く、戦いに集中出来ていないのか頻りに眉間に皺を寄せている。
レビンの魔法により一時的に体を仰け反らされたギフモスキブルは、その反動を利用し土の防護に枝を振り下ろす。幹のしなるような不気味な音がレビンの耳に届く。
『土よ・防護と成す・流動し・固まれ』罅の入った土の防護の前に新たに出来る土の防護。しかし、ギフモスキブルの枝は砂の城を崩すかのように2つの防護を壊してしまう。
「ラビリツ!!」
レビンが呼吸を止め、土煙の中を見つめる。背後から迫る2体目のギフモスキブルの存在に気付かず、魔法で土煙を払う事もせず、ただ立ちつくすレビン。
ギフモスキブルの腕が振り払われ、レビンの体が宙を舞う。
ジャックとクイントが大きな口を開けているのが見えたのだろう。痛みとは別に悔しそうな顔をするレビン。
「レビン!」
クイントが落下するレビンの元へと急いで行く。
レビンの体が銀杏の木の枝を折り、地面を削った。血を吐きながらも顔を上げ、ラビリツを探そうと動く。
土煙が晴れ、ラビリツは破壊された土の防護の近くで横たわっているのが目に写ったのだろう。レビンが体を引きずって、ラビリツへと近づいて行く。
クイントが声を掛ける。
「レビン、動かないで」
「僕はいいから。先にラビリツを」
クイントの手を払い、横たわるラビリツの元に向かうのを止めないレビン。雪が降っている事も、近くで怪物が暴れている事も忘れて、ラビリツの事しか頭に無いようだ。
「良かった。怪我はしていない、気を失っただけだね」
ラビリツの横に踞り、レビンは安堵の息を漏らす。
「レビン。じっとしていて」
癒しの光がレビンの傷を治す。
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