迷い、出会いし。えん。①
迷い、出会いし。えん。①
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「いってらっしゃい」
リズベットがマルクロと一緒にモコモコして、三人を見送る。冬の寒さにも馴れてきた頃、ア・サードは魔法の鞄にキャンプ用具を詰め込み、望みの塔21階へと向かう。
三人は、今日までに望みの塔30階層を目指して7回挑んでいる。だが、最も進めたのが26階層で、それも10日を要しての事だった。
「10日後には帰ってくるからね」
「分かっています。風邪を引かないようにして下さい」
「はっ。ガキのくせに」
目をつむり、手のひらを肩の高さで広げるジャック。リズベットの指にマルクロがコクリと頷く。ポンと飛び跳ね、薄ら笑いを浮かべるジャックの顔面に前足をめり込ませた。リズベットの後ろではクイントが腕を組み、うん、うんと頷いている。
「%&#!」
「じゃ、行ってくるよ」
何事も無かったようにレビンは石畳の道に足音を鳴らす。クイントもそれに続いて、足音はコツ、コツと響く。後から少し大きめな足音が追いついて、三つの足音が揃って離れて行った。
マルクロを抱え上げたリズベットが、微かに残った淋しさを掻き消すように満足そうな顔をする。
「あの人達ばかりを構っていられないね。他にもお客さんが居るんだし」
「クー」
ドアを開けて帰って行く。
誰も居なくなったベネットの宿り木の前に、ちらりと雪が降る。ふわりふわりと降る姿は、時が遅くなったかの様。小さな雪は石畳に触れると溶けていった。
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望みの塔21階から29階層は森林地帯が広がり、各階層毎に種類が異なる樹木が生える。
21階から25階層は各階層毎に針葉樹、広葉樹、落葉樹、硬葉樹、照葉樹に別れており、同じ様な木々が生息している。また、木に擬態した怪物も出現する為、迷う冒険者が続出するのが21階層から25階層の特徴だ。
ちなみに、ア・サードが依頼を受けた楓の木は28階層にある。
「何にも無いと無いで迷うけど、沢山あっても迷うね」
「ははっ。なぞなぞみてぇだ」
「似たような場所が答え?」
「それじゃ、普通の問題だろ?なぞなぞらしく、そうだな...」
ジャックが首を捻りはじめた。レビンは周囲を観察している。ここは望みの塔21階。7回も来たことが有るア・サードだが、その記憶がレビンを惑わせていた。
「この大木の右側に岩があった筈なのに。見つからない...」
レビンも首を捻りだし、ジャックと同じ方向に頭が傾く。
「「う~ん」」
二人の唸る声も重なる。クイントが背筋を伸ばし念じるような声を出す。
「あの大木?夢はどう?」
念じられた言葉に首の捻りが元に戻り、レビンとジャックが声が合わさる。
「「今何て言った?」」
「ん?あの大木と夢だけど?」
「行き過ぎていたんだね」
レビンは思い違いに気付いたのだろう。ホッとしたような表情をしている。ジャックは気付けなかった事が悔しいのか喉を指して言う。
「俺もそれ!ここまで出かかっていたんだ!」
「はいはい」
クイントがおざなりに応えると、ジャックが片手を腰に当てて口を尖らせる。
「はい、は一回でいいんだ!」
「そう言えばジャックの事を”へらず口”ってベイスン協同組合で言う人がいたね」
レビンが告げるとジャックは何故か得意気な顔になる。
「ははっ。そうか俺にも二つ名が付いたか」
二つ名。冒険者の中で抜きん出た者が、その特徴で名を呼ばれるようになる事だ。
ガイザックには風刃、ナタリーには冷切、ミーミーとメイメイは双造、ロンウェルが迅救、キキクリクには口口という二つ名が付けられている。
今は冒険者の少ない時代。二つ名で呼ぶ事など滅多にないが。
ジャックは嬉しそうな顔をして先程の事など忘れてしまったようだ。
「二つ名って言うより「クイントッ」
「知らない方が良い事があるんだよ」
クイントとレビンが頷き合い、道を引き返そうとした時、木の実を抱えた茶色の動物が二人の前を通りすぎた。
「ラビリツ!?」
ラビリツは兎形目の一種で、二足歩行をし長い耳を持つ。人々の間では愛玩動物として人気がある。ベイスンではあまり見かけないが、外から持ち込まれたのだろうか。ここ望みの塔で生まれる訳は無く侵入経路は不明だ。
今現在、生息している事自体が不思議である。人以外には10日間の制限は適用されないが、10日も生きていられる安全などない。怪物は侵入する者を見境なく襲うのだから。
「何でこんな所に?」
レビンがラビリツを追い駆けた。クイントは「へらず口か」と嬉しそうに呟くジャックを呼び、レビンの後を二人で追う。
後ろの音に、急ぎ足で駆けはじめるラビリツ。トコトコ、トコトコと。可愛らしい擬音が聞こえてきそうな足取りで、途中に木の実を落としながらも駆けていく。
足取りの変化にレビンは木の実を辿り、ラビリツの後をゆっくり慎重に付いていった。
ラビリツは急ぎ足のまま、巣に着いたようでその場でキョロキョロと辺りを見渡す。巣は土を掘って作られたようだ。中に入り巣穴より顔を出すラビリツ。木の枝で穴を隠すように覆うと引っ込む。一目では、巣が有る事は分からなくなった。
「レビン」
その様子を見ていたレビンをクイントが後ろから小声で呼んだ。振り返ったレビンは口に人差し指を当て、二人に目で合図をする。ア・サードはラビリツに気付かれ無いように、その場を離れるのであった。
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