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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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あらたに、始まる。日々。②

あらたに、始まる。日々。②


***********************


 雲に覆われたベイスン鍛冶通り。どんよりした空とは正反対にホクホクの笑顔で店から出てくる三人。


「待った甲斐があったね」


「納得いく物が出来た」


「この装飾、格好いいよな?」


 レビン、クイント、ジャックが店先で、(いしゆみ)、大盾、剣を見せ合う。三人は望みの塔5~9階層で獲れる鉱物を素材に武器をそれぞれ作って貰ったようだ。


「ジャックらしいよ」

 

「うん」


「そうか?へへへっ」


 だらしない顔で笑うジャックに連られて、笑みを溢すレビンとクイント。そこに、紙を撒きながら走る者がやって来る。


「大ニュースだ!!我らが英雄がやってくれたぞ!」


 叫びながら、ア・サードの前を過ぎていく。撒かれた紙をレビンが手に取り、ジャックとクイントが覗き込む。紙の見出しはこう書かれていた。


【20年振りの快挙!望みの塔100階層に到達者が現る!!】


「すごっむぎゅ~」


 ア・サードのサンドイッチ。真ん中のレビンの口がタコのようになっている。シーフードのサンドイッチだ。           

 

 記事の内容はこうだ。


‘’ベイスン協同組合から、冒険者ガイザック率いる〈エイマー〉が望みの塔100階に到達したとの知らせが出た。1年前に90階層に到達した彼らが今回、20年振りとなる100階層への到達を見事果たしたのである。

前回100階層に到達したパーティーは58人で挑み、戻ってきたのは7人だけであった。だが、今回は6人で挑み、6人全員が帰還した。これを快挙と呼ばずなんと言おう。

さらに〈エイマー〉は101階層に進み、何と金塊と希少な鉱物を得て帰ったというのだ。また、宝石の類いも有るのではないかとメンバー証言から得ている。

20年前に100階層へ到達したパーティーは主力を失い100階層より先に進む事は無かった為、今回〈エイマー〉の冒険は驚愕の発見となった。‘’


 望みの塔の最高到達階は139階。今より153年前の記録である。冒険者の数が最も多かった時代の事だ。冒険者達は競い合うように望みの塔に挑戦していた。当時の事を覚えている人は居らず、詳しい内容も残されていない。徹底した秘密主義が次代に何も残すことを許さなかった。


 記事を読み終えた三人の表情は、憂いを帯びている。ジャックが懐に入れたコインを取りだす。


「ミレイユ...」


「師匠、何も言わないから」


「あの人らしいけどね」


 突風が強く吹き、レビンの手から紙を(さら)っていく。紙は高く上がり、雲の向こうで照らす太陽は朧気に見えた。


************************


 エイマーが100階層に到達した3日後。エイマーのホームでは祝賀会が開かれていた。多くの冒険者が集い、参加者の中にはア・サードとベイスン協同組合長の姿もある。

 次々と冒険者達から祝いの言葉を掛けられるガイザック達。ガイザックは怪我がまだ癒えていないのか、席に座り笑顔で応対するのがやっとのようだ。隣ではナタリーがガイザックの分も受け答えしており、時折ガイザックの体調を心配そうな瞳で見つめている。

 ミーミーとメイメイは祝賀の舞を披露。メイメイの服のお腹には[名誉の負傷]とある。ロンウェルは槍を構え如何に空気抵抗を減らしたかを実演。キキクリクは言うに及ばず、止まらないお喋りをこれでもかと放流している。コリンはクラウドシープ達と一緒に来てくれた冒険者達をもてなしていた。


「ようやったの」


 ホーリーリルテが言葉を掛ける。ガイザックは組合長の(ねぎら)いに立ち上がろうとするが、手で制されてしまう。


「構わんよ、傷に障るじゃろうて。それにしても100階層の関の主相手に全員が帰還するとはの、大したもんじゃ」


「いえ、俺は仲間に恵まれただけです」


 痛みを堪えてでも言いたかったのだろう。ガイザックの額には脂汗が滲む。ナタリーがすっと汗を拭うと前に出てくる。


「難しい相手でした。ガイザックが囮になってくれなければ、私達も無事で居られたか分かりません」


「成るほどの。傷の治りはどうじゃ?」


「はい。ロンウェルの癒しの力のお陰でなんとかといったところです。それもこれも100階層の関の主を倒した後に、無茶して101階層に進んだからです。一時期は命の危険も有ったというのに、この馬鹿は」


 ナタリーに呆れたような目で見られ、反論しようと口を開きかけるガイザック。だが、キッと睨まれてしまい、すごすごと引き下がる。


「痴話喧嘩もほどほどにの」


 ホーリーリルテはそう言って2人の前を辞した。真っ赤になったナタリーを残して。

 その後も祝賀会は恙無(つつがな)く進み、陽が沈む前には解散となる。ア・サードもエイマーのメンバー各々にお祝いの言葉を送り、エイマーのホームを後にする。

 

「いっぱい冒険者が来てたね」


「ああ」


「101階層の話ばかりだった」


 ベイスンへの帰路の途中、荒野の丘に登った三人は沈み行く夕日を見ていた。レビン、ジャック、クイントの手にはコインが握られている。


「エイマーとア・サードでは行き先が違うんだね」


「ああ」


「ジャック?」


 地平線には夕日がまだ僅かに残り、別れを惜しむかのように輝きを見せている。ジャックは目を伏せ握ったコインを、強く強く握りしめる。


「いや、何でもねぇ。俺達ア・サードの冒険はこれからだ。俺達は俺達の望みを叶える」


「うん」


「だね」


 決意をあらたにコインが弾かれ、クルクルクルとコインは回転する。

 この日以降、日に日にベイスンを訪れる者が増えていく。望みの塔の低階層で活動する者も減り、各国の腕自慢の者達が望みの塔の上層を目指す。

【新しき冒険者の時代】そう呼ばれるようになるのは、これより3年後の事だ。


 だが今は、まだ少しこの時間を。


「「コインが~」」


「暗いんだから加減してよ!」


「レビンだって落としているじゃねぇか!」


「フッ」


「「クイントッ!!」」


************************


 



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