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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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日々は、なれて。遠くに。③

日々は、なれて。遠くに。③


***********************


「確かに、私達は望みの塔から逃げてきたね」


「けどそれは、望みを叶える事を諦めた訳では無かったわ」


「私達は望みを叶える為に選んだのよ」


 テーブルの反対側に語りかけるように言葉が紡がれる。その声が3人が見る影に届くことは無いが。


「エイミー。運命じゃなかったの?」


「そうね、エイミー。運命とやらのお陰なんでしょ?」


 キャシーがお澄まし顔でティーカップに口を付ける。レベッカもお澄まし顔にウィンクを添えて。


「ちがいます、運命じゃありませんよ」


「レベッカさん。では何かしら?」


「キャシーさん。何でしょうね?」


 エイミーが目をコロコロと動かし、突きだした口を動かす。そんなエイミーに、キャシーとレベッカが2人して体を寄せた。仲の良い姉妹のようだ。


「意思よ。私がそうしたいって思ったの」


「あの子達と出会ったのも?」


 立ち上がるエイミー。体を寄せていた2人がエイミーを見上げ、息を漏らし微笑む。


「それは偶然よ。でも育てたのは私達の意思。誰かに決められて行動したんじゃない。全て私、私達の意思。運命なんてものが介在する余地なんてない」 


「偶然は運命?」


「うん。だけど、その言葉に大した意味はない。運命なんて言葉にすがりたい気持ちが解らない訳ではないけど、偶然も運命も意思の上にしか成り立たないのよ」


 エイミーが下を向き答える。自分の胸に話す様に。そうして大きく息を吸い込むと前を向いた。


「元気でたね」


「元気になったわ」   


 レベッカもキャシーもエイミーに続いて大きく息を吸い込む。3人しか居ない空間が3人の空間になっていく。


「あの子達も元気でいるかな?」


 エイミーが座り直して、伸びをするような笑顔で尋ねる。


「レビン「クイント「「がいるもの」」  


 レベッカとキャシーの声が混線する。


「キャシーさん?何をおっしゃっているの?私のレビンが支えているのよ」


「いえいえレベッカさん。私のクイントが守っているわ」

 

 エイミーを挟んで、言い合う2人。3人で育てたと言っても、自分で名付けた子に肩入れをしてきたのだろう。特別な思いを見せるレベッカとキャシー。

 

「ねぇ、エイミー。レビンだよね?」


「エイミー。クイントだと言ってくれて良いわ」


 2択を迫られるエイミー。だが、しかし。エイミーは心底驚いた顔をして3択目を提示する。

 

「はぁ?ジャックに決まっているんですけど」


 エイミーは続けてジャックの逸話を話し始めるのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「遊んでいらっしゃい」


 声に送られ、村へと出掛けるレビン、クイント、ジャックの三人。まだ遊びたい盛りで家の手伝いも多くは出来ない。そんな年頃。 

 村の広場に着き、レビンとクイントが村の子ども達と遊ぶ中、一人ジャックは離れてその様子をみている。その目は反射を写すだけのようだ。

 きっかけは些細な事だった。ジャックと村の子ども達が遊び方で意見が割れ、ある子どもがジャックに対して「捨て子のくせに」と言った事が始まりだった。

 

「そんな事は知っているんだよ」


 その時に言い返した言葉を再びに、一人ごちていく。


「なんで気にもしてなかったのに。あんな奴に言われただけでこんなイヤな気持ちになんだよ。昨日言われた時も別になんとも思わなかったのに。くそっ頭から、はなれねぇ」


 ジャックは髪の毛をくしゃくしゃにし、誰にも見咎められないように広場を後にした。


 その夜。


 ジャックは静かに礼拝堂へと足を運ぶ。外には月が輝いており、礼拝堂には月の光が差し込んでいる。


「いらない子なんだろ?」


 誰に言うわけでもなく発された言葉。返事を期待しない声に、答える声があった。


「はぁ?私がいるんですけど」


 心底驚いた表情を見せるジャックと心底呆れているエイミー。


「エイミー!?」


「お母さんって呼んで欲しいよ」


「どうしてここに?」


「ジャックの事、見てたから」


 答えになっていない答えにジャックは口を開きかけるが、月の光に照らされたエイミーの瞳に閉じてしまう。


「何かあった?」


 エイミーの声は、細い枝のように今にも折れてしまいそうな音だ。それでも、響いてジャックへと届く。


「俺は、俺達は捨て子だったんだろ?」  


 震える声は迷いながらもエイミーの元へと行き着いた。


「うん」


「気にしていなかったんだ。別にいいって思ってた。けど、人に言われてから、その言葉が頭からはなれなくて」     


「うん」


「いらない子なんだって思うようになった」


「私がいるよ」


 反射のように出された声は大きく響き、礼拝堂に染み込んでいく。


「ねぇ、ジャック。自ら不幸になろうとしないで」


「不幸?」


「そうやって自分には価値がないんだって思うのは不幸なことよ」


「エイミーにはわかんないよ。捨てられた訳じゃねぇんだし」


「うん。ジャックの気持ちはジャックにしかわかんない」


「っ!ほら!」

  

 背を向けるジャックを月の明かりが切り取ったように照らす。エイミーは静かに、その背中に近付いていく。


「でもね。私はジャックの事をわかりたいと思っている。けど、きっとそれは届かない思い。ずっとわかる日なんて来ないと思う」


 月に雲が架かり礼拝堂が闇に染まる中、エイミーは手を伸ばしジャックの体をしっかりと(いだ)く。


「それでも。ジャックの事をわかる日まで少しでも近付ければいいから。わかりたいと思い続けるの」 


「おもてぇよ」  


「重くありません。標準です」


 雲が過ぎ、月明かりがふたりを照らす。


「なぁ、不幸ってのはイヤな気持ちを抱えて生きることか?」


「大体そうね。自棄になったり、羨んだり、妬んだり、蔑んだりして生きることは不幸よ」


「落ち込むのも?」


「そうよ。ねぇ、ジャック。いらない子って言ったけど、私もそう思った事があるの」


「うそ?」


「ほんと。だけど、思ったの。誰にも必要とされなくても、私が必要とすればいいって」


 エイミーの声が幹のように根付いて確かな音を響かせる。


「そして、私は見つけたの。花を咲かせる事が私のしたい事だって」


 ジャックの顔を上から伺うように覗き込むエイミー。


「その為に私はこの世界を必要として、そこに住む人も必要としたの。ジャックの好きなレンコンも綺麗な花を咲かせるのよ」 


「ほんと?」


 エイミーの顔を見上げるジャック。


「ほんとよ。だから、ジャックも見つけて」


 ジャックの目が月明かりを受けて鮮やかに輝く。


「うん。エイミー母さん」


 声は真っ直ぐ伸びていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ってエイミー母さんって呼んでくれて。その日は一緒の布団で寝たんだけど、ずっと手を離さないのよ。もう可愛くない?可愛いわよね」


 エイミーの話しはズレていたが、レベッカ、キャシーの(かん)に触れる。


「可愛さならレビンが断トツね!」


「クイントが一番可愛いわ!」


「ジャックよ!」


 結論のない話しは夜遅くまで続くのであった。


***************************


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