日々は、なれて。遠くに。③
日々は、なれて。遠くに。③
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「確かに、私達は望みの塔から逃げてきたね」
「けどそれは、望みを叶える事を諦めた訳では無かったわ」
「私達は望みを叶える為に選んだのよ」
テーブルの反対側に語りかけるように言葉が紡がれる。その声が3人が見る影に届くことは無いが。
「エイミー。運命じゃなかったの?」
「そうね、エイミー。運命とやらのお陰なんでしょ?」
キャシーがお澄まし顔でティーカップに口を付ける。レベッカもお澄まし顔にウィンクを添えて。
「ちがいます、運命じゃありませんよ」
「レベッカさん。では何かしら?」
「キャシーさん。何でしょうね?」
エイミーが目をコロコロと動かし、突きだした口を動かす。そんなエイミーに、キャシーとレベッカが2人して体を寄せた。仲の良い姉妹のようだ。
「意思よ。私がそうしたいって思ったの」
「あの子達と出会ったのも?」
立ち上がるエイミー。体を寄せていた2人がエイミーを見上げ、息を漏らし微笑む。
「それは偶然よ。でも育てたのは私達の意思。誰かに決められて行動したんじゃない。全て私、私達の意思。運命なんてものが介在する余地なんてない」
「偶然は運命?」
「うん。だけど、その言葉に大した意味はない。運命なんて言葉にすがりたい気持ちが解らない訳ではないけど、偶然も運命も意思の上にしか成り立たないのよ」
エイミーが下を向き答える。自分の胸に話す様に。そうして大きく息を吸い込むと前を向いた。
「元気でたね」
「元気になったわ」
レベッカもキャシーもエイミーに続いて大きく息を吸い込む。3人しか居ない空間が3人の空間になっていく。
「あの子達も元気でいるかな?」
エイミーが座り直して、伸びをするような笑顔で尋ねる。
「レビン「クイント「「がいるもの」」
レベッカとキャシーの声が混線する。
「キャシーさん?何をおっしゃっているの?私のレビンが支えているのよ」
「いえいえレベッカさん。私のクイントが守っているわ」
エイミーを挟んで、言い合う2人。3人で育てたと言っても、自分で名付けた子に肩入れをしてきたのだろう。特別な思いを見せるレベッカとキャシー。
「ねぇ、エイミー。レビンだよね?」
「エイミー。クイントだと言ってくれて良いわ」
2択を迫られるエイミー。だが、しかし。エイミーは心底驚いた顔をして3択目を提示する。
「はぁ?ジャックに決まっているんですけど」
エイミーは続けてジャックの逸話を話し始めるのであった。
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「遊んでいらっしゃい」
声に送られ、村へと出掛けるレビン、クイント、ジャックの三人。まだ遊びたい盛りで家の手伝いも多くは出来ない。そんな年頃。
村の広場に着き、レビンとクイントが村の子ども達と遊ぶ中、一人ジャックは離れてその様子をみている。その目は反射を写すだけのようだ。
きっかけは些細な事だった。ジャックと村の子ども達が遊び方で意見が割れ、ある子どもがジャックに対して「捨て子のくせに」と言った事が始まりだった。
「そんな事は知っているんだよ」
その時に言い返した言葉を再びに、一人ごちていく。
「なんで気にもしてなかったのに。あんな奴に言われただけでこんなイヤな気持ちになんだよ。昨日言われた時も別になんとも思わなかったのに。くそっ頭から、はなれねぇ」
ジャックは髪の毛をくしゃくしゃにし、誰にも見咎められないように広場を後にした。
その夜。
ジャックは静かに礼拝堂へと足を運ぶ。外には月が輝いており、礼拝堂には月の光が差し込んでいる。
「いらない子なんだろ?」
誰に言うわけでもなく発された言葉。返事を期待しない声に、答える声があった。
「はぁ?私がいるんですけど」
心底驚いた表情を見せるジャックと心底呆れているエイミー。
「エイミー!?」
「お母さんって呼んで欲しいよ」
「どうしてここに?」
「ジャックの事、見てたから」
答えになっていない答えにジャックは口を開きかけるが、月の光に照らされたエイミーの瞳に閉じてしまう。
「何かあった?」
エイミーの声は、細い枝のように今にも折れてしまいそうな音だ。それでも、響いてジャックへと届く。
「俺は、俺達は捨て子だったんだろ?」
震える声は迷いながらもエイミーの元へと行き着いた。
「うん」
「気にしていなかったんだ。別にいいって思ってた。けど、人に言われてから、その言葉が頭からはなれなくて」
「うん」
「いらない子なんだって思うようになった」
「私がいるよ」
反射のように出された声は大きく響き、礼拝堂に染み込んでいく。
「ねぇ、ジャック。自ら不幸になろうとしないで」
「不幸?」
「そうやって自分には価値がないんだって思うのは不幸なことよ」
「エイミーにはわかんないよ。捨てられた訳じゃねぇんだし」
「うん。ジャックの気持ちはジャックにしかわかんない」
「っ!ほら!」
背を向けるジャックを月の明かりが切り取ったように照らす。エイミーは静かに、その背中に近付いていく。
「でもね。私はジャックの事をわかりたいと思っている。けど、きっとそれは届かない思い。ずっとわかる日なんて来ないと思う」
月に雲が架かり礼拝堂が闇に染まる中、エイミーは手を伸ばしジャックの体をしっかりと抱く。
「それでも。ジャックの事をわかる日まで少しでも近付ければいいから。わかりたいと思い続けるの」
「おもてぇよ」
「重くありません。標準です」
雲が過ぎ、月明かりがふたりを照らす。
「なぁ、不幸ってのはイヤな気持ちを抱えて生きることか?」
「大体そうね。自棄になったり、羨んだり、妬んだり、蔑んだりして生きることは不幸よ」
「落ち込むのも?」
「そうよ。ねぇ、ジャック。いらない子って言ったけど、私もそう思った事があるの」
「うそ?」
「ほんと。だけど、思ったの。誰にも必要とされなくても、私が必要とすればいいって」
エイミーの声が幹のように根付いて確かな音を響かせる。
「そして、私は見つけたの。花を咲かせる事が私のしたい事だって」
ジャックの顔を上から伺うように覗き込むエイミー。
「その為に私はこの世界を必要として、そこに住む人も必要としたの。ジャックの好きなレンコンも綺麗な花を咲かせるのよ」
「ほんと?」
エイミーの顔を見上げるジャック。
「ほんとよ。だから、ジャックも見つけて」
ジャックの目が月明かりを受けて鮮やかに輝く。
「うん。エイミー母さん」
声は真っ直ぐ伸びていった。
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「ってエイミー母さんって呼んでくれて。その日は一緒の布団で寝たんだけど、ずっと手を離さないのよ。もう可愛くない?可愛いわよね」
エイミーの話しはズレていたが、レベッカ、キャシーの癇に触れる。
「可愛さならレビンが断トツね!」
「クイントが一番可愛いわ!」
「ジャックよ!」
結論のない話しは夜遅くまで続くのであった。
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