日々は、なれて。遠くに。②
日々は、なれて。遠くに。②
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夜が訪れ、台所の火も落とされたソイネルの元教会。
「今日の夕御飯はジャックが好きなレンコンの甘辛炒めと、レビンが好きなホウレン草の卵とじと、クイントが好きな長ネギのスープ。デザートには私達の好きなスイートポテトだね」
レベッカがキッチンからダイニングへと料理を運ぶ。3人で調理した料理が大きなテーブルには似合わないまま置かれていく。
「レベッカはスイートポテトしか作ってないけど」
テーブルの側でスープをよそうキャシーが、目を細めて言った。
「ノン、ノン。スイーツ専門店のレベッカ様とは私の事ね」
「フフッ、そうでした。懐かしいわ、3人で暮らし始めて、初めて料理した日もそう言っていた」
レベッカとキャシーがテーブルに並び、最後の料理を持ってエイミーもそこに並ぶ。
「レベッカはスイーツ担当。それが当たり前で、もう気にもしなくなったよ」
「慣れだね」
「料理名を言うことも無くなっていったわ」
「慣れだね」
「明日の天気は?」
「晴れだね」
「プハッ。もう笑わせないでよ」「フフフ」「エヘヘ」
「私達が初めて会った時もこんな感じだったよね?」
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多くの若者達がある建物の前で首を伸ばしている。そのような光景はここベイスンではいつもの光景だ。毎日のように数十人がベイスンを訪れては似た動きをしている。
ベイスンには望みの塔が存在する。
望みの塔。それは人々の中で神聖視されている塔。どこまでも天の恵みをもたらす塔。何人も支配する事が出来ない塔。
そして、それは人に可能性を見せる塔である。
先程の若者達が見上げていた建物がそれである。若者の中に取分け真剣な表情で望みの塔を見上げる者がいた。前髪を揃えたその者の右隣には髪の長い者、左隣にはウェーブした髪の者が望みの塔を見上げている。
「絶対に負けないんだから」
「いいね」
「行けるところまで」
「いいね」
「一位の次は?」
「にいね」
「プハッ。もう何よ」「フフフ」「エヘヘ」
前髪を揃えた者と、長い髪の者と、ウェーブした髪の者が顔を見合わせる。
「エイミーよ」
「キャシー」
「レベッカね」
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「そうだったね~へへへ」
レベッカが顔を隠すように座ると、キャシーはレベッカの顔を覗き込むように腰を下ろす。
「何?恥ずかしがっているの?」
「いやぁ、あの時ね。急に話に割り込んで変な人と思われなくて良かったなぁって」
「え?」
エイミーが心底意外だという顔を作って、レベッカと顔を合わせた。
「エ、エイミー?」
「まぁ、過去は変えられないわよ。それより、御飯頂きましょ」
「嘘だよね?エイミー」
「いいの、いいのよ。レベッカはそのまんまで」
「キャシー。何の慰めにもなって無いから!」
騒がしくも食事は進み、テーブルの上の料理は残されること無く消えていく。3人のお腹が満たされた頃、食後の紅茶を淹れるエイミーが口火を切った。
「私は、私を言いなりにしようとする親が嫌だった。だけど、何もしようとしない。そんな自分を変えたくて望みの塔に行ったのよ」
ティーポットの中でリーフが舞う。
「私は家族に馴染めなくてね、私以外は仲良いけど。そんな所にいるのが嫌で、望みの塔を目指したの」
「私は全てを罵って、つまらなくする両親から離れて私の思いを叶える為に」
キャシーのティーカップにストレーナーが置かれる。
「キャシーの思いって、生きることは楽しいって事を証明したい。だよね」
過去に何度も交わされた話しなのだろう。だが、時が変われば同じ話しでも違う展開を迎える事もあるものだ。
「そうよ。だから、今日も一日良い後悔をと言い続けるの」
ティーポットからストレーナーにリーフを残して紅茶が注がれる。次にレベッカのティーカップにストレーナーが置かれた。
「レベッカは言葉だけで何も行動しない家族と相容れなかった」
「空しい思いの言葉は、私の性に合わないからね」
ティーポットの中でリーフが舞い、ティーカップを満たしていく。最後にエイミーのティーカップにストレーナーが置かれる。
「エイミーは見つけた。自分のしたい事を」
「私の価値を知るのは私だけよ」
満たされた3つのティーカップ。
「「「でも私達は望みの塔から逃げ出したけど」」」
肩を揺すって笑うキャシー、レベッカ、エイミーの3人。
「この話しの終りは、いつも一緒ね」
繰り返される同じ話しは、一度淹れ終えたリーフの様にまだ楽しめるのだろう。変わらぬ展開を迎えても。薄れてしまっても。
「あの寒さは無理だわ」
「扉開けた瞬間即閉じね」
「防寒着?何それ?よ」
ひとしきり笑いあって、夜の静けさが人知れずに満ちる。
「...でもさ、逃げてきたお陰で会えたんだよ。あの子達に」
その言葉に3人はテーブルの反対側を見つめる。以前はそこに座っていた者達の影を見るように。
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