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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
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日々は、なれて。遠くに。②

日々は、なれて。遠くに。②


*************************


 夜が訪れ、台所の火も落とされたソイネルの元教会。


「今日の夕御飯はジャックが好きなレンコンの甘辛炒めと、レビンが好きなホウレン草の卵とじと、クイントが好きな長ネギのスープ。デザートには私達の好きなスイートポテトだね」


 レベッカがキッチンからダイニングへと料理を運ぶ。3人で調理した料理が大きなテーブルには似合わないまま置かれていく。

 

「レベッカはスイートポテトしか作ってないけど」 


 テーブルの側でスープをよそうキャシーが、目を細めて言った。


「ノン、ノン。スイーツ専門店のレベッカ様とは私の事ね」


「フフッ、そうでした。懐かしいわ、3人で暮らし始めて、初めて料理した日もそう言っていた」


 レベッカとキャシーがテーブルに並び、最後の料理を持ってエイミーもそこに並ぶ。


「レベッカはスイーツ担当。それが当たり前で、もう気にもしなくなったよ」


「慣れだね」


「料理名を言うことも無くなっていったわ」


「慣れだね」


「明日の天気は?」


「晴れだね」


「プハッ。もう笑わせないでよ」「フフフ」「エヘヘ」


「私達が初めて会った時もこんな感じだったよね?」

   

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 多くの若者達がある建物の前で首を伸ばしている。そのような光景はここベイスンではいつもの光景だ。毎日のように数十人がベイスンを訪れては似た動きをしている。


 ベイスンには望みの塔が存在する。

 

 望みの塔。それは人々の中で神聖視されている塔。どこまでも天の恵みをもたらす塔。何人も支配する事が出来ない塔。 


 そして、それは人に可能性を見せる塔である。


 先程の若者達が見上げていた建物がそれである。若者の中に取分け真剣な表情で望みの塔を見上げる者がいた。前髪を揃えたその者の右隣には髪の長い者、左隣にはウェーブした髪の者が望みの塔を見上げている。

 

「絶対に負けないんだから」


「いいね」


「行けるところまで」


「いいね」


「一位の次は?」


「にいね」

 

「プハッ。もう何よ」「フフフ」「エヘヘ」


 前髪を揃えた者と、長い髪の者と、ウェーブした髪の者が顔を見合わせる。


「エイミーよ」


「キャシー」


「レベッカね」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そうだったね~へへへ」


 レベッカが顔を隠すように座ると、キャシーはレベッカの顔を覗き込むように腰を下ろす。


「何?恥ずかしがっているの?」 

 

「いやぁ、あの時ね。急に話に割り込んで変な人と思われなくて良かったなぁって」


「え?」


 エイミーが心底意外だという顔を作って、レベッカと顔を合わせた。


「エ、エイミー?」


「まぁ、過去は変えられないわよ。それより、御飯頂きましょ」


「嘘だよね?エイミー」


「いいの、いいのよ。レベッカはそのまんまで」


「キャシー。何の慰めにもなって無いから!」


 騒がしくも食事は進み、テーブルの上の料理は残されること無く消えていく。3人のお腹が満たされた頃、食後の紅茶を淹れるエイミーが口火を切った。


「私は、私を言いなりにしようとする親が嫌だった。だけど、何もしようとしない。そんな自分を変えたくて望みの塔に行ったのよ」


 ティーポットの中でリーフが舞う。


「私は家族に馴染めなくてね、私以外は仲良いけど。そんな所にいるのが嫌で、望みの塔を目指したの」


「私は全てを罵って、つまらなくする両親から離れて私の思いを叶える為に」


 キャシーのティーカップにストレーナーが置かれる。


「キャシーの思いって、生きることは楽しいって事を証明したい。だよね」

  

 過去に何度も交わされた話しなのだろう。だが、時が変われば同じ話しでも違う展開を迎える事もあるものだ。

 

「そうよ。だから、今日も一日良い後悔をと言い続けるの」


 ティーポットからストレーナーにリーフを残して紅茶が注がれる。次にレベッカのティーカップにストレーナーが置かれた。


「レベッカは言葉だけで何も行動しない家族と相容れなかった」


「空しい思いの言葉は、私の性に合わないからね」


 ティーポットの中でリーフが舞い、ティーカップを満たしていく。最後にエイミーのティーカップにストレーナーが置かれる。


「エイミーは見つけた。自分のしたい事を」


「私の価値を知るのは私だけよ」


 満たされた3つのティーカップ。


「「「でも私達は望みの塔から逃げ出したけど」」」


 肩を揺すって笑うキャシー、レベッカ、エイミーの3人。


「この話しの終りは、いつも一緒ね」


 繰り返される同じ話しは、一度淹れ終えたリーフの様にまだ楽しめるのだろう。変わらぬ展開を迎えても。薄れてしまっても。

 

「あの寒さは無理だわ」


「扉開けた瞬間即閉じね」


「防寒着?何それ?よ」


 ひとしきり笑いあって、夜の静けさが人知れずに満ちる。


「...でもさ、逃げてきたお陰で会えたんだよ。あの子達に」


 その言葉に3人はテーブルの反対側を見つめる。以前はそこに座っていた者達の影を見るように。


*************************



 

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