日々は、なれて。遠くに。①
日々は、なれて。遠くに。①
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この大陸には4つの大きな国がある。それらはベイスンを中心にして北西にトネスターム聖王国、南西にヤイハイ王国、南東にレミマルク共和国、北東にツトゥリービヤ帝国が位置する。
ベイスンから遠く離れた地。レミマルク共和国内、ツトゥリービヤ帝国との国境近くの村、ソンネル。昔、望みの塔の宣教活動の拠点であった教会は、今や3人のシスター服の女性が暮らす家になっていた。
「エイミー。今年もいい野菜が採れたね」
レベッカがホウレン草と長ネギとレンコンを仕分けている。毛布にくるまって冷えた体を温めるエイミーが、レンコンを見て視線を落とす。
「うん」
「いい加減慣れなさいよ、エイミー。あの子達が居なくなってもう半年よ。これはもう良さそうね」
キャシーは貯蔵していたカンショを取り出している。レベッカが切れてしまったレンコンの穴を覗いて言う。
「旅立ってもう半年か~。あんなに小さかったのにねぇ」
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朝霧が立ち込めるソンネルで、人目を忍んで動く者達がいた。マントで姿を隠した者達は教会の中に入り、三つの籠を置いて出る。
「すまない。これがわたし達に出来る精一杯なんだ。許しておくれ」
マントで姿を隠した者達は、何度も振り返り北へと去っていった。教会に残された籠からは鳴き声が聞こえ、次第に大きくなっていく。
「何?猫?」
前髪を揃えた女性が礼拝堂に明かりを灯した。祭壇に置かれた籠に気付いたのだろう早足で駆け寄る。
「!?」
籠の中には赤子が三人。生まれて半年といった所だ。
「キャシー!レベッカ!」
前髪を揃えた女性が母屋に向かって叫ぶ。朝の支度をしていた2人が、普通ではない声に礼拝堂へと駆け込んでくる。
「どうしたの?エイミー」
「エイミー。ご飯はまだだよ」
長い髪の女性とウェーブした髪の女性がエイミーに寄っていく。2人が来た事で安心したのか、落ち着きを取り戻すエイミー。
「レベッカ、ご飯じゃないわ。見て」
籠の置かれた祭壇に誘われるキャシーとレベッカ。
「エイミー...返してきなさい。早く返せば罪は軽くて済むわ、きっと」
「...エイミー、面会に行くね」
「うん、って違うわよ!この祭壇に置かれていたのよ!」
エイミーの声に赤子がひときわ大きく鳴き始めた。礼拝堂によく響く。
「ほらほら、大きな声を出すから。ねぇ、よしよし」
「きゃ~こわいですねぇ」
エイミーの声を躱したキャシーとレベッカは赤子を抱えて話しかけた。抱えられた二人の赤子は不思議と鳴き止み、2人はもう一人の赤子を抱えるようにエイミーを見る。
「もう」
言葉とは裏腹にエイミーの手は素早く、そっと赤子を抱えた。もう一人の赤子も鳴き止み、礼拝堂にはいつもの静けさが訪れる。
「捨て子よね?」
「三つ子って訳じゃなさそうだけど、どういった経緯でここに置かれたのかしら」
エイミーとレベッカが思案していると、キャシーが赤子に頬を寄せて言う。
「私達で育てましょう。いつか引き取りに来るかも知れないけど、ここが教会だった事を考えるとその可能性は低いわ」
「でも、私達シスターでも何でもないよ」
「ふふっ、それならこれから成れば良いじゃない。シスター服、エイミーもレベッカもきっと似合うわよ」
キャシーの目が光を帯びていく。
「布を買いに行かないとね」
「どんなデザインにしようか」
顔を合わせるエイミーとレベッカの目も、同じように光る。3人は赤子を胸元に抱え、見つめてくる瞳に微笑みを返した。
「じゃあ、私達は育ての親になるわけだね」
「ええ。そうなるわ」
「ねっ、もう1つ特別な親になれるよ?」
キャシーとエイミーの微笑みは、レベッカの嬉しさを耐えてるような顔につられて、笑顔になる。
「レベッカ、何?」
「もう、早く言いなさいよ」
「エヘヘ、名付け親だよ、名付け親。この世にひとりだけの親だよ」
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「本当に小さかった。レベッカがレビンの、キャシーがクイントの、私がジャックの名付け親になって、それから色んな事があった」
エイミーが毛布をたたみ、レベッカと一緒に野菜に付いた土を落とし始めた。カンショを数本取り出したキャシーもそこへ加わる。
「育児書を買いに行って、哺乳瓶やオムツを選んだ。育児書だけではわからない所は村の女の人に助けて貰った」
「顔見知り程度だったのに、親身になってくれたよね」
レベッカが土を落とした野菜を小分けにして束ねる。
「夜中にぐずって寝てくれなくて。あれは三人だから大変だったけど、こっちも3人だったから何とかやっていけたよね」
「レベッカは一緒にぐずってなかった?」
エイミーが眉を曲げて見ると、レベッカは「あはは」と笑う。キャシーがレベッカの頬をつつく。
「それでも嬉しかった、私は親になっているんだって思えた。苦労だなんて思わなかったわ」
「次の日、眠くても髪も肌もボロボロでも。嬉しかったよ。私も」
「私も!私も!一緒にぐずって嬉しかったね」
「こら!フフッ」「エヘヘ」「ハハッ」
笑い声が重なる。それは重ねた思い出の分、深く染み込んでいく。
「今思えばさ、運命だったよ」
「運命ねぇ」
「どうしてそう思ったの?」
「全部だよ、全部。今までの事、全部運命」
野菜を持って母屋へと向かう3人。エイミーがくるりと回り、後ろ向きに歩いていく。レベッカは先に躓く所は無いかと心配そうにしている。キャシーが上を向いて大きく息を吸い込む。
「エイミー、そんな投げやりにならないで。運命なんて言葉、嫌っていたじゃない」
「だって、淋しいの。運命だと思えば諦めがつくと思ったのよ」
足を止めるエイミー。キャシーとレベッカが目配せをし、エイミーの持つ野菜を取り上げる。
「あっ」
エイミーは抱えていた物がなくなって、バランスを崩してしまう。
「バカエイミー。私達だって淋しいわ」
「ダメエイミー。今日は昔の話をしようね」
「うん」
補修の跡が色濃く残る母屋。6人で暮らしてきた家にキャシー、レベッカ、エイミーが帰っていく。
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