知らず。選んでゆく、みち。④
知らず。選んでゆく、みち。④
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ガヤガヤとしていた人だかりは、トーテムポールとヘロヘロなリーダー格の男とを見守るように静かになった。リーダー格の男をあしらっていた5人も動きを止め、息を潜め始める。
「俺に何か用か?」
ヘロヘロなリーダー格の男に指差されたジャックが、4m付近の所から尋ねる。
「お、お前も!」
今度はクイントが指差された。
「私もです?」
「そうだ!お前達だ!お前達の所為で我々が「ちょっと!ちょっと待って。僕は?」
レビンが5mは優に越えた高さで存在をアピールする。
「お前など知らん」
いくら高い所からアピールしても、知られていないものは知られていないのだ。レビンが項垂れると頭の上のマルクロが、ポンポンと前足で叩く。
「慰めないで」
「その頭の上に乗っている黒いのは知っているがな」
レビンの顔が硬直した。
「ははっ。やーい、知られてないのレビンだけでやんの」
「ししっ。マルクロも知られてた」
ジャックが茶化し始めるとクイントも乗っかる。レビンが二人の上でわなわなと震える、キッとヘロヘロなリーダー格の男を睨み付けた。そして、白々しく言う。
「二人とも良かったね。野太い声に好かれるなんて、ホント羨ましいよ。あっクイント、この事はコリンさんに伝えておくね」
途端、ぐらぐらし始めるトーテムポール。
「レ、レビン負け惜しみは止めろ。クイントも動揺し過ぎだ」
「へらず口のジャックに言われたくないね」
「レビン。今度面白そうな本一緒に探すから、だから」
「え~どうしよっかな~「おいっ!!!何をふざけている!!」
ヘロヘロなリーダー格の男が声を張り上げた。声の大きさに驚いたトーテムポールはピタリと止まる。
「あっ悪ぃ、別にふざけてなんかいねぇよ、遊んでたんだ。むしろ、ふざけてんのはそっちじゃねぇか」
ジャックが、息を整え始めたリーダー格の男がいる辺りの地面を指差す。そこには魔法の鞄が三つ、踏まれてボロボロの状態で落ちていた。
「そうだ!この鞄だ!お前達、鞄の中身を何処にやった!?」
息を整えつつあるリーダー格の男の声は、疲れからか酷く籠っている。
「何言ってんだ?何処にもやってねぇよ」
「そんな訳あるか!ベイスンを出たら魔法の鞄は使えなくなるんだぞ!なのに何も出て来ないではないか!」
息を整えたリーダー格の男が魔法の鞄を拾い上げ、投げ捨てる。クイントが表情を険しくする。
「随分な事をしてくれる」
「まったくだね。ベイスンを出たら、魔法の鞄の中身が出るなんて聞いた事ないけど」
レビンがトーテムポールからリーダー格の男の横に跳び降りると、地面に落とされた三つの魔法の鞄を回収する。
その場で自分の鞄の中に手を入れるが、何も入っていない鞄と同様に手の形が浮き出るだけで何も出てこない。次にレビンは魔法の鞄を持って、東門を通りベイスンに入る。今度は、中からアズキの入った袋を取り出した。
リーダー格の男がレビンに駆け寄り、出て来たアズキの袋を凝視する。
「う、嘘だ!ベイスンから出れば使えなくなるんだ。つまり、中の物は出てくる筈だ!これは何かの間違いだ!」
「間違いも何も、事実を見なよ。生半可な知識で物事を判断してはいけないね」
アズキの入った袋を仕舞い、足跡がついた魔法の鞄の泥と土を払って落とす。擦れて破れかけている鞄もある。
「若造が知った風な口を利くな!正しいのは我々だ。お前達が何か細工をしたに決まっている!」
リーダー格の男は歯を食い縛り、威嚇するようにレビンに詰め寄る。
「はいはい、分かったよ。君が見たいものだけしか、見ないってことがね。もういいから。鞄は返して貰うね」
リーダー格の男から距離を取り、二人の所に戻ろうとするレビン。入れ違いにジャックがリーダー格の男に近付いていく。すれ違うレビンは肩を落とし、肩からジャックが離れたクイントは声を掛ける。
「リズが待っているから、時間かけないで」
クイントの声に苦笑いを浮かべるジャックは、リーダー格の男をゆっくりとした目で見る。
「時間制限つきで悪ぃが、聞きたい事があるんだ。あと言いたい事も」
「何をだ!?お前達が悪いんだ!我々が欲しいと言ったレンコンを譲らず、これ見よがしにアズキを振る舞い。挙げ句の果てには、目の前で我々が手に入れる事が出来ないものを見せつけてきた。それも楽しそうにだ!」
リーダー格の男が抱えていた思考を言葉にする。
「ズルいではないか!たまたま10階の関の主を倒しただけで!どうせ運が良かっただけだろ。それか卑怯な事をしたに決まっている。そうでなければお前達みたいな者が、あの関の主を倒せる訳がない!」
「それで俺達の物を盗んだと?」
「そうだ。お前達にその報いを受けさせるのだ」
リーダー格の男の答えに対し、ジャックはレビンを呼び自分の魔法の鞄を受けとる。そして魔法の鞄に手を入れ、レンコンにアズキ、弦楽器に楽譜等、鞄の中身をリーダー格の男の前に積み上げていく。
「聞きたかった事を言ってくれて、どうも。これで気が済むか?」
しかし、リーダー格の男は積み上げられた物に手を出そうとはせず、憎々しげに見つめるだけであった。そこへ今まで息を潜めていた5人の壮年の男達が、人だかりから出てきてジャックの物を取って行く。
「くれんのか、バッカで~」「ゴチになりまーす」「じゃ、そういう事で」「兄貴は要らないぜ」「そもそも兄貴って嫌々呼んでた」
3台の馬車に乗り込み、5人の壮年の男達はベイスンから去っていく。
「いいのか?」
「あんな奴等、我々の仲間ではない」
「我々って、もう1人じゃねぇか。いや余計な事はいっか。まぁ気が済む訳ねぇよな、てめぇは俺達みたいに成りたかったんだから」
ジャックの言葉に、壮年の男は顔を背ける。
「けどよ。何があったかは知らねぇが、てめぇは今まで見る事、聞く事、知る事の全てを都合の良いように捉えてきたんだろ。自分の思いにまでも、そうやって顔を背けてよ」
「くっ。それの何がいけない!ずっと羨ましがったり、妬んだりするより良いではないか。お前達さえ居なければ、上手くやっていけたんだ!」
壮年の男はジャックの背後にいるクイント、レビンをも睨む。
「上手く?何処がだよ?都合の良い面しか見ねぇ奴等の集まりで上手く行く訳なんかねぇよ。現にそうだろ?」
「それはお前達が居たからだ!」
「ジャック」
レビンがジャックを気遣うように声を掛け、クイントはジャックの背後で壮年の男に敵意を向ける。
「ああ、大丈夫だ。これで最後にする」
そう言うと、壮年の男の胸ぐらを掴む。
「結局、羨ましい妬ましいって思うんだったらよ。そう思う奴等の事を知ろうとしやがれ!てめぇの都合だけで答えを出してんじゃねぇ!そこから不幸が始まってんだ!!」
掴んだ胸ぐらを突き放すジャック。
「不幸?何の事だか」
壮年の男は胸元を整えると、後ろを向きベイスン大通りを進んでいく。
「我々が正常なんだ...我々が正常なんだ...」
自分に言い聞かすように繰り返す壮年の男。
その目にはもう、ジャックもクイントもレビンも写っていない。ただただ、自分の足下を見るように男は進んでいった。
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その後。壮年の男は新たな仲間を見つけ、2年は低階層での活動を続けていた。何もないのに下を向いて、暗い目をした男。
ある日、1人で旅に出た。
どこへ行ったのか、男はベイスンに戻って来る事は無かった。時折、胸を押さえていたが、あれは痛みの所為だったのだろうか。
もう確かめることも出来ない。
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