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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
34/66

知らず。選んでゆく、みち。③

知らず。選んでゆく、みち。③


**********************


 ベネットの宿り木。


 マルクロが裏庭で食後の日向ぼっこを楽しんでいると、物音が聞こえる。1階奥のキッチンでリズベットがドタバタと動いていた。


「バターを冷蔵庫から出しておかないと、卵は?卵はもう出したっけ」


 テーブルの上に薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、はちみつ、バニラオイルが並んでいる。その向こうでボウルにホイッパーとシェル形の型を入れて抱えたリズベットが、冷蔵庫を開けたり閉めたり忙しそうにしている。

 物音に誘われてキッチンにやって来たマルクロ。リズベットの出す音が楽しそうだったのか、ぴょんぴょん跳び跳ねて飛び付いた。


「はわっマルクロ!?今は遊べないよ?」


「クゥ」


 リズベットに遊んでもらえなかったマルクロは受付カウンターに出てくる。受付にはベネットが座っており、家計簿を書いていた。


「今月は黒字ね」


 少し浮いた声にマルクロの足取りもうきうきして、ベネットの足下にすり寄る。


「あら、ふふ。抱っこさせてくれるの?」


 抱き抱え上げられ、ご満悦な表情を見せるマルクロ。真ん丸の目が三日月になっている。三日月の目が新月に成りそうになるが、玄関の扉が開く事により満月となった。


「いらっしゃい。お泊まり?マルクロ、ごめんね。ごめんなさい、今は満室なの。明日には3階の部屋が空くのだけれど、それじゃ困るわよね?」


 ベネットの応対に客の表情は明るく前向きな様子。床に降りたマルクロも前を向くと、階段を上っていく。



「それくらいでいい」


 壮年のリーダー格の男が、仲間に指示を出す。ベネットの宿り木、2階の部屋の窓は一部が綺麗にくり貫かれている。部屋の中はタンスやクローゼットが開けられ、中の物が散乱していた。


「帰ってきたら、奴ら驚くだろうな。バカな奴らだぜ」


 口の端を上げた壮年の男が、魔法の鞄を3つ手にしている。

 

「兄貴、本当に大丈夫なのか?」


「ああ。ベイスンの街以外では使えないのだ。街から出れば魔法の鞄の中身は全て出るだろうよ」


 聞き耳を立て廊下に誰も居ないことを確認すると、ドアを開けて2階の部屋から出ていく。ベネットの宿り木の階段で壮年の男達とマルクロがすれ違った。

 マルクロの鼻がひくひくと動く。壮年の男達は取り合わず、そのままベネットが客の対応をしているのを尻目に外へと出た。


「あの宿主め。前払いだと譲らないから、踏み倒す事が出来なかったではないか」


 壮年のリーダー格の男が仲間に向けて愚痴る。


「まぁまぁ兄貴。代わりと言っちゃあ何ですが、この鞄があるじゃないですか」


「そうだな」


 壮年の男達は高笑いをして、大通りへと向かう。丸くて黒いものがその後を付いていった。 


「やっぱ塩だな」


「えー僕は醤油」


「檸檬が一番」


 大通りをお腹一杯に歩くア・サード。大通りは観光客で一杯だ。土産物屋には望みの塔の特産品である収穫品も並んでいる。三人が収穫した、楽器も置いてあった。


「あれはグランドピアノじゃねぇか」


「あ、本当だ」


「え!?」


 レビンがグランドピアノを見て驚きの表情を見せる。


「ししっ。レビンどうしたの?やっぱり、あの衣装が欲しくなった?」


「ち、違うよクイント。値段を見てよ」


 グランドピアノの値段は、ア・サードがベイスン協同組合所で交換した額と同じであった。


「ねぇ、ジャック。間違いないよね?」


「ああ、違えねぇ。クイントどうしてだ?」


 クイントが握った右手を唇に持っていき頭を下げると、黒くて丸いものが頭の上に乗っかった。マルクロだ。クイントが驚く間もなくぺしぺしと頭を叩き、大通り東門を前足で指す。


「何?向こうへ行けって言うの?」


 マルクロは前足で今一度大きく叩き、後ろ足で何度も踏む。


「急いで」


 クイントが、戸惑うジャックとレビンの腕を引き走り始めた。

 

 大通り東門では壮年のリーダー格の男が愕然としていた。門の周りには男が頼んだのであろう馬車が3台止まっている。行き交う人々の迷惑そうな視線に御者が身を小さくする。

 

「だんな、早くしてくだせぇ」


「うるさい!何故だ!何故何も出てこない!」


 壮年のリーダー格の男が髪を掻きむしる。仲間の男達は、焦るリーダー格の男に反比例して冷めた目をしている。


「中身が出るって話は嘘かよ」「調べてなかったのかよ」「使えない」


「!!。なんだと!貴様ら!」


 リーダー格の男が仲間である男達に殴りかかり、喧嘩が始まった。しかし、1対5では勝負になる訳もなく次第に翻弄されていくリーダー格の男。自然と東門には人だかりが出来始める。


「なんだありゃ」


 ジャックが人だかりに気付き、声をあげ一人先んじて行く。


「目、良かったけど更に良くなったね」


「うん。ジャックはいつでも凄い。たまに変だけど」


「本当に凄いよね。くすくす。でも、それはいつでもって言えるのかな」


「ししっ」


 二人と一匹も足を早めジャックの後を追う。


 ジャックは人だかりに着いたが、人垣が出来ていて前の様子はわからないでいた。そこへクイントとレビンが合流し、ジャックが何かを閃いた顔になる。


「トーテムポールだ」


 言うや否やレビンを抱えて肩に乗せ、クイントの肩に飛び乗った。


「「ジャックッ」」


 クイントの頭の上にいたマルクロはちゃっかりとレビンの頭の上に移動している。5m以上の物体が急に現れ、人だかりの視線がトーテムポールに集中する。壮年のリーダー格の男も、ヘロヘロになりながら周りと同じように見上げる。


「お、お前は!」


 トーテムポールと壮年のリーダー格の男の間に線を引くように、人垣が割れた。


**********************


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