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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
32/66

知らず。選んでゆく、みち。①

知らず。選んでゆく、みち。①


**********************


「帰って来ないなら前もって言って下さい。朝食が勿体ないですので」


 ア・サードが出掛けようとしている所、リズベットが先日の事を思い出して声を掛けた。三人が振り向くとそっぽを向く。

 レビンとクイントは困った顔をして笑うが、ジャックが大袈裟に首を傾げる。


「リズベット。嘘は良くねぇ、良くねぇよな?」


「知りません」


 そっぽを向いた顔をさっぽに向ける。分かっているけど恥ずかしくて、素直に言えないリズベット。


「俺達は朝には帰ってきて、朝食は食べたはずだ」


「知らないったら知りません」


 ジャックの追求に、リズベットは意固地になってしまう。見かねたレビンが取り成す。


「ごめんね、リズベットちゃん。今日は早く帰ってくるから」


 ジャックを引っ張り玄関へと向かう。


「早く帰ってくる必要は無いのですが...そうですね。折角なのでお菓子でも用意しておきましょう」


 口元が緩んでしまうリズベットと口を尖らせるジャック。


「ジャックはモテない」


 クイントが口を滑らせる。ジャックが固まり、レビンは深々と頷いた。


「いってらっしゃい」


 リズベットの声が、明るく晴れていく。


 手を振る二人と固まったままの一人が、宿屋通りを望みの塔の方向へと進んでいく。三人の姿をリズベット以外に見送る者がいる。ベネットの宿り木の3階から、壮年の男が盗み見るようにしている。


「兄貴」


「水の実が300と。お?出掛けたか。どうだ?」

 

 部屋の中には荷物が、所狭しと置かれている。壮年のリーダー格の男は、椅子に座り収穫品のリストを作成しているようだ。


「ああ。奴ら、魔法の鞄を持っていなかったぜ」


「それは結構」


 リーダー格の男はリストに追加を記入した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


 リズベットの声が、明るく晴れていった日の3日前。


 ベネットの宿り木の前でア・サードとエイマーのメンバー全員が、簡易のテーブルを出して会場の設営を行っている。会場内には冒険者の姿が多く見え、楽器の調整をしている者が大勢いる。冒険者以外ではベイスン協同組合の職員の姿もある。

 

 三人が覇王の城から持ち帰った収穫品(ハーベスト)をベイスン協同組合に交換しに行った所、楽譜は演奏をしてみない事には交換が出来ないと言われのだ。

 困った三人はガイザックに相談する。エイマーのメンバーが演奏の出来る冒険者に声を掛け、今に至るという訳だ。

 

「大盛況だな」

 

 会場の入り口前には行列が出来ていた。荷車にコンロと調理器具を乗せたモズが、ア・サードの側に来て驚いている。


「ああ。俺も此処までとは思わねぇよ」


「流石、ガイザックさん」


「お願いしといてなんですけど、大丈夫ですか?」


 レビンが魔法の鞄からダイコンの束にエダマメの入った袋をモズへと手渡す。


「おう。いい食材と食べてくれる客が沢山あるってのは、料理人の腕の見せ所ってもんよ」


 モズが腕をまくり力こぶを作ってみせると、触発されたのかクイントも力こぶを作る。


「おっ。なんだ筋肉か?」

 

 そこへ屈強な男、ガイザックが加わる。見せつけるように胸の筋肉に力を入れ大きくする。反応するモズとクイント、2人並んで肩の筋肉を隆起させる。


「やるじゃねぇか」


 ガイザックは形勢不利と思ったのか、ロンウェルを呼ぶ。


「うむ」


 上半身の服を脱ぎ、背中を反って筋肉を集めてみせる。ロンウェルが上半身裸になったのを皮切りに、脱ぎ始める男達。騒ぎは大きくなり、筋肉自慢の者達が続々と参戦してくる。


「肥大化すれば良いってもんじゃなくない?行くぞ!レビン、ジャック」


 キキクリクが二人を連れて参戦する。「時代は細マッチョって事」3人が斜に構える。「パワーこそ至高」4人が真正面から受けて立った。

 準備も程ほどに熱気を増していく男達に、エイマーの女性陣とミリリアーテが冷めた視線を送る。


「寒空の下よくやるわ」


「ほんとっす。男はどうしようもないっす」


 ナタリーとミリリアーテが呆れている。


「「リズリズ」」「見てはいけません」「目が穢れます」「「見るなら」」「ミーとメイの」「可憐な姿を」


 ミーミーとメイメイが前衛的なポーズをとる。


「どっちも教育に悪いんだよ」


 コリンがリズベットを抱き寄せた。コリンの胸の上に頭を乗せたリズベットが、首を伸ばし目を爛々とさせる。


「コリンさんは細マッチョ派?それともパワー派?」


「えっ?パワー派かねぇ」


 リズベットがグッと拳を握る。


「なんすか。カワイ子ちゃんは細マッチョの彼が好きなんすか?」


 ミリリアーテが恋バナの気配を感じたのか、コリンとリズベットの隣に腰かける。すると、前衛的なポーズをとっていたミーミーとメイメイも近付いてくる。

 

「恋というのは」「幻」「恋というのは」「本能」「恋というのは」「ひとつを見つける」「それは愛?」「愛?」「「?」」


 ミーミーとメイメイは話に加わり損なっていった。 


「...で、どうなんすか?」

 

「いえ、私じゃなくて、その」


 仕事中には無い根気を見せるミリリアーテに、リズベットがしどろもどろになる。


「ナ、ナタリーさん!」


「えっ何?」


 ナタリーが振り向くと、女性陣の視線が集中する。その視線の中でも、ミリリアーテが普段見せない積極性を示す。


「ナタリーさんの好きな人の話っす」


「リズ?ナタリーはパワー派だよ」


 コリンが口を滑らせた。ナタリーの顔が真っ赤に変わり、ミーミーとメイメイは「「赤いのは愛?」」とナタリーの顔をじっくりと見る。 

『空気よ・無事と成せ・示す箇所にて・維持せよ』ミリリアーテが想起語を唱える。


 ナタリーから魔力が溢れ、冷気が所構わず散乱する。会場内の至るところに霜が降りた。


「いい加減、作業に戻りなさい!」


 ナタリーが誤魔化すように男達に注意を始めると、男達は急いで服を着直し作業へと戻っていく。


「かわいいっすね」


 ミリリアーテが満足げに笑った。

 

 その後。会場の設営は迅速に行われ、冒険者達による演奏会が開かれた。


 次々と披露されていく楽譜の演奏。当たり外れはあるが、楽しそうに演奏されていく。会場が温まった頃、演奏する楽譜に歌詞を付けた冒険者の歌が更に会場を沸かす。モズの屋台の料理も飛ぶように売れ、会場を訪れた者を満たしていく。

 一時の出来事。それを何と言うかは誰にも決められない。ガイザックがステージに上がる。


「皆、来てくれてありがとう。話には聞いていたが、望みの塔にこんな収穫品があるとは知らなかった。俺達はただ、上を目指していた」


「なんだ自慢かー!?」


 野次が飛ぶ。ニカッと笑い「ああ。自慢だ」と返す。


「俺はこんな時間を教えてくれる奴らと知り合えたんだ。紹介させてくれ」


 ガイザックが右腕を広げた。


「ア・サード!」


 ジャック、レビン、クイントがステージに登場する。歓声が上がり、割れそうな拍手が三人を包み、魔法使い達による火が三人を鮮やかに彩った。

 ステージの下にはベネット、リズベット、マルクロの姿も見える。


「すてきね」


「うん...」


 リズベットがベネットの手を強く握り、マルクロを抱き締める。ステージの上は別世界のように輝いていて、知っている筈なのに知らないものを見ている。そんな感覚がリズベットに生まれる。ジャックが手を挙げると、歓声が一際大きく上がる。


「行かないで」


 小さな声は消されてしまった。


 ベネットの宿り木の3階では、会場とは正反対につまらなそうにしている者達がいる。リーダー格の男は迷惑そうな顔でア・サードを見ている。


「いい気になりおって」 


 素直になれない者が辿る道は、トンネルのように暗くじめじめしている。いくつ出口があっても、選んで行く閉ざされた道。


 その奥には何も無いというのに。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


**********************


  

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