時に。従って、変わり。⑦
時に。従って、変わり。⑦
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翌朝。覇王の城5階、王の間。
「ドウイウ事ダ 我ラノ、術ガ破ラレル トハ キサマ 裏ギッタノカ」
スカルキングが昨日の事を受け入れられないのか、猜疑を言葉にする。昨夜は物に当たりスカルクイーンの指揮が悪いと喚いていたのだが、愚鈍とならざるを得ないほどの出来事であったようだ。
「イ、イエ ソンナ事 出キル筈ガアリマセン!ポーン共ガ、ミ熟ダッタノデス!」
「ポーン ハ良イ。ダガ ナイト、モ ヤラレルトハ、ドウイウ事ダ」
スカルクイーンの肋骨が跳ねる。
「ア、アレハ アノ者ノ 運ガ 良カッタノデハ」
「運ダト? ソンナ事デカ!!」
手にしていた王笏を投げ飛ばす。スカルクイーンの返答は精彩を欠いていた。
「アヤツ等ガ オ前ニ、頭ヲ下ゲタトキ 久カタ二、ユウ越ガ 齎サレ、我ノ体ガ 潤ッタノダ」
スカルキングの手が戦慄く。
「王ヨ ゴアン心ヲ、ポーンモ ナイトモ、術ハ ミ熟。真ノ術ノ使イ手デ アル、ビショップ ルーク ソシテ 私 ガ居リマス」
スカルクイーンが、肋骨に手を当て頭を垂れる。その時、先触れもなく王の間の扉が開いた。スカルポーンが1体慌てた様子で入ってくる。
「大変デス! ビショップ ガ アト ルーク共モ」
「王ノ ゴ前デス!分ヲ、ワキマエナサイ!」
「ソンナ場合 ジャナイ!」
饒舌なスカルポーンとスカルクイーンが言い合っていると、王の間にスカルルークが追われる様に駆け込んでくる。王の間へと続く廊下には弦楽器、擦弦楽器、打楽器が彼方此方に転がっている。
「王ヨ オ逃ゲ下サイ!」
近衛を勤めるスカルルークが叫ぶ。だが、覇王の城の何処にも逃げ場所など無い。スカルキングはその玉座から一歩も動くこと無く、状況を見る事しか出来ない。
「ねぇ、ジャック。どういう風の吹き回し?技能も魔法も使わずに、この城の怪物達を相手にするんじゃ無かったの?『空気よ・射出発進と成す・腕に沿い・加速させよ』」
レビンの矢が消え、スカルルークの頭蓋骨を貫通し王の間の壁に刺さる。
「ジャックの心は秋の空」
クイントが大盾を構えた残像を残し、スカルルークを王の間の壁で押し潰す。
「ん?クイント。どういう意味だ?」
ジャックが消えたスカルルークが現れたのと同時に足音を置き去りにし、王の間の壁を背にして止まる。
「変わりやすい」
3体のスカルルークが、霧散していく。
「くっ。悪りったよ。なんだよ、レビンもクイントも」
「だってね」
「そう。ジャックはどうして?」
「いや...リズベットが心配しているかも知れねぇだろ。まだ、ガキんちょなんだし」
ア・サードが、スカルキングの玉座へと続く絨毯の上を歩く。礼儀は無く、買い物にでも来たかのような振る舞いだ。
「素直なジャックは珍しい。ししっ」
「うっせぇ。ははっ。んじゃまぁ、さっさと倒して帰りますか」
「くすくす。だね。お土産も持って帰ろうね」
「うん。帰ろう」
三人の前にはスカルキング、饒舌なスカルポーン、スカルクイーンが並ぶ。
「我ヲ 守レ。我ヲ守ラネバ 誰ガ、オ前タチヲ 守ルトイウノダ!」
スカルキングの肩が上下する。その矛盾を含んだ命令を聞く者は、もう2体しかいない。その2体も心ここに在らずといった様子。
饒舌なスカルポーンの手が玉座に触れる。すると、姿が変化した。簡素な鎧姿から、豪華で煌びやか鎧姿となる。
スカルクイーンは膝を地面を着いている。壮麗な衣装が着崩れ、そこに威厳は見られない。スカルクイーンの眼窩が三人を憎々しげに捉える。
「遂二 成シ遂ゲタゾ!コレデ俺様ガ最強ダ! ウン? 何ダ 君、弓ヲ構エテ 通用シナイ事ガ、マダ理解出来テイナイノカ コレダカラ 進歩ノ ナイ奴ハ」
レビンが矢を放つ。饒舌なスカルポーンが腕を上げようと動こうとするが、根本から弾き飛ばされる。
「サ!?最強...」
「最強ね。自分の世界だけで最強はないよ。他と比べるなら、周りを良く見ないとね」
穴だらけの饒舌なスカルポーンが霧散していき、一枚の楽譜が残った。
「残スハ 私ノミデスカ」
スカルクイーンが、レビンに攻撃を仕掛ける気配を見せる。
「させない」
クイントが大盾で、スカルクイーンを凄まじい速度で押し運んで行く。負荷に晒されたスカルクイーンは喋る事も出来ない。
大きな衝突音が鳴り、グランドピアノが佇む。
玉座に腰掛けたままのスカルキング、目の前に立つジャックを見上げる。
「我ヲ見下スナ!渇クノダ!!我ノ心二潤イヲ、モタラセ。我二 膝マズケ。優越ヲ、感ジサセヨ!劣等二、アエグ姿ヲ 我二 見セヨ!」
「そうか。てめぇは、もうずっと前から干からびてんよ」
ジャックがスカルキングの喉元に剣を突き刺す。なにも残さず、スカルキングは消えていく。
「他と比べて生きた所に不幸が待ってんじゃねぇかな」
届かない言葉も。
王の間に扉が現れ、三人は後ろ髪を引かれること無く出ていく。ジャックは視野拡張。レビンは集中力拡大。クイントは破壊力拡散の技能を得た。
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ベネットの宿り木。カウンターには三人分の朝食が用意されている。受付にはベネットが座っており、リズベットは奥の部屋からマルクロと一緒にチラチラと落ち着かない。
ベネットはそんなふたりを眉を下げて見ている。だけど、いつも綺麗に揃えられている髪が、少し跳ねているのには気付いていないようだ。
騒がしい声がする。
玄関の扉が開かれ、ジャック、クイント、レビンが帰ってきた。
「おかえりなさい」
ベネットの弾んだ声と共に、カウンターを飛び越えていく影が2つ。
「ぐはっ」
ジャックのお腹に重みが加わり、クイントの顔には柔らかなものが覆い、レビンの目には安らかな瞳が写る。
窓の外にはすっかり枯れてしまった木が、そっと立っている。
変わらないものなど無く、同じ様に見えても同じものはない。形のあるもの、形のないもの、全てのものが変わって行く。
だから。
「ただいま」
大切に。
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望みの塔16階から20階層、覇王の城は濃霧包まれていた。
ア・サードが覇王の城を出ていくと、濃霧は晴れる。その後、白い霧が集まりスカルキングを作る。そうして順に、スカルクイーン、スカルルーク、スカルビショップ、スカルナイト、スカルポーンが作られていく。
「此ノセカイハ 我ラノモノ」
スカルキングが玉座に座りそう宣言し、スカルクイーンが指示を出す。スカルポーン達が行進していく。
ダン、ダン、ダン。
足の鳴らす音。
ダン、ダン、ダン。
自由の無い音。
ダン、ダン、ダン。
地面を踏む音。
ダン、ダン、ダン。
疑いを許さない音。
ダン、ダン、ダン。
変わらない音。
ダン、ダン、ダン。
変えられない音。
「我ハ ナゼ セカイヲ 欲シタノダロウカ」
王の間に1人残ったスカルキングが、喉元を押さえて呟く。
だが。
その問いは、じきに忘れられるだろう。
満たされることの無い渇きによって、答えを思い出す前に。
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