時に。従って、変わり。⑥
時に。従って、変わり。⑥
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覇王の城3階、観覧席。
スカルキングが立ち上がる。覇王の城2階、闘技場の入り口にア・サードの姿が見える。スカルキングは三人を確認すると、手のひらを前に出した。
スカルキングの眼窩が写しているのは、小さな三人が自分の手のひらの上でキョロキョロと周りを見回している姿だ。
「モテナセ。我ラノ術ヲ、トクト 堪ノウ サセロ」
王の命令。近衛のスカルルーク3体以外が、速やかに行動を開始する。闘技場ではスカルポーン達が武舞台を取り巻くように並び始める。
ジャック、クイント、レビンをスカルナイトが槍を向け、逃げ出せないようにしている。
「逃げねぇっての」
「ほんと失礼だね。見てよあれ」
レビンが3階の観覧席を指差した。
「ブ礼モノ!」
言葉より早くスカルナイトの槍がしなる。が、何も打つ事はなくその形を保った状態で制止された。
「クッ!?」
クイントに顎の骨を開けた顔を向けるスカルナイト、槍の反動で手が弾かれる。クイントが槍の胴金を握り潰し、その場に投げ捨てた。
饒舌なスカルポーンが怒鳴り声を聞き付け、またア・サードの元にやってくる。
「ホラホラ 大人シク、シテナイカラ 次ハ 威嚇ダケジャ済マナイカモヨ」
槍が壊れているのを見て饒舌なスカルポーンはカタカタとあげつらう。
「ソ、ソウダ 今ノハ、イカクダ オトナシクシトケッ」
スカルナイトは槍を置いて去って行く。饒舌なスカルポーンも三人が何も言い返さないので、満足そうに元の隊列へと戻っていった。
ジャックが3階の観覧席を見上げて眉を寄せる。クイントも見上げた後で、首を傾げる。
「何でこっちに向けて手ぇ出してんだ?空気抵抗高そうな服着て、飛ぶの?」
「ししっ。ムササビ?」
「ぷはっ。笑わせないでよ。飛んでいる姿を想像しちゃったじゃないか」
ジャックとクイントとレビンは何事も無かったかのように会話を続ける。三人と違い黙々と整列を続けていたスカルポーン達が立ち止まり、もう1つの闘技場の入り口へ一斉に顔を向ける。壮麗な衣装を身に纏ったスカルクイーンが闘技場へと入ってきた。
「あれは服?」
「服の概念を改める必要があるね」
「レビンの誕生日にああいう服をプレゼントしようぜ、クイント」
「うん。私は空気抵抗の高い服が欲しいかも知れない」
「え??僕は要らないから。え?クイント?」
スカルクイーンは武舞台の中央に現れ、はしゃぐ三人を眼窩にカッカッと歯を鳴らす。
「私ヲ 見テ、恐レノアマリ 気ガ触レタカ、ウイ奴ラヨ ドレ」
スカルビショップの一団に、手を掲げ合図を出す。1体のスカルビショップの手が鍵盤の上を行進し、弦の弾かれる音が生まれた。
その音は連なり、旋律を奏でていく。
再び手を掲げる。木と金属の合わさる音が旋律に加わる。音は重なり、奥行きを広げていく。更に弦の擦れる音も重なる。
舞台上でスカルクイーンは踊るように、手を、腕を、体を動かす。
音が形を成し、意味を持つ。
それは意思があるかのように静寂を求め、全てを塗り替える。旋律が流れ、聴く者に与える無機質の生命の鼓動。
時が音に覆われ、音が過ぎていく。
旋律が音の速さを導く。
音が響く。
スカルビショップの一団によって劇しく奏でられた音は、残すことが無くなり、いつしか辞去していった。
雨のような拍手が降り、時の姿をうつし出す。
「ドウヤラ 気ニイッテ、頂イタヨウ ドウゾ、此チラヘ」
三人は誘われるまま、武舞台へと上がった。
「ありがとうございます」
クイントがお礼を言う。ジャックとレビンもつられて頭を下げる。3階の観覧席ではスカルキングが、その様子に拳を戦慄わせている。
「イイエ オ礼ヲ、言ウノハ 此チラノ方」
そう言って、スカルクイーンは武舞台を囲っているスカルポーンの中から3体を指差した。選ばれた3体が武舞台に上がり、三人と対峙した。
スカルポーンの手には剣が握られている。
「今カラ、コノモノ達ト 戦ッテ頂キマス。成ルベク長イ間 ゼン戦、シテクダサイ」
両手を挙げ、武舞台から消えるスカルクイーンと同時に選ばれなかったスカルポーン達が、その場で足を踏み鳴らし始めた。足音は拍子を取り、戦意を高揚させる。
「相手が剣なら俺の出番だな」
ジャックが一人前に出る。
「いや僕も戦いたいよ」
「私も」
レビンは弓、クイントは盾を構えて表明する。
「ダメ。これは斥候の役割だし」
3体に対しジャックが一人で戦う図式が出来上がる。スカルポーン達の足音が烈しさを増し、レビンもクイントもブーイングだ。
「孤立無援だね」
ジャックは笑って、スカルポーンに向かっていった。すると、正面のスカルポーンが突如ジャックの目の前に現れ、上段に構えた剣を振り下ろそうとする。ジャックはまだ、腰に差した剣を抜いてもいない。
だが、直後に膝を着いたのはスカルポーンだった。それを見た残り2体のスカルポーンが消え、ジャックの右と左の前方に現れ、剣を振り上げる。
「おっと」
左の剣閃をかわし、腰から抜いた剣で右上を払う。右前方のスカルポーンの剣を弾き飛ばし、右上に掲げた剣を振り下ろす途中に、両手で持ち左前方のスカルポーンに叩きつけた。
複数の骨の折れる音が鳴り、1体のスカルポーンが霧散する。
2体のスカルポーンが互いに顔を向け、歯をカチカチと鳴らし合う。ジャックに対して2体同時で攻撃をし始めた。
四角い武舞台の上を剣が舞う。スカルポーン達の足音に合わせるかのように剣撃が繰り広げられていく。
迫る剣をするりとかわし、ステップを踏んで剣を弾く。ジャックがダンスをする。型も形もないダンス、足音の拍子に合っているのかも分からない、優雅さも気品もないダンス。
苛立ちを隠せないスカルクイーンが、追加でスカルポーンを武舞台へと上げていく。3体、4体、5体と数が増え、剣を突き立てる。
ジャックのダンスが激しさを増していく。手を着いて転回。背中を軸にして回転。脚が蹴り、跳ね起きついでに剣が叩く。ジャックの目が忙しなく動いている。突き立てる剣はジャックの予測できない動きに翻弄され、空を斬る。
足の音、剣の音、骨の音、打楽器のように音を奏でる束の間の出来事。次第に足の音が止み、剣の音が止み、骨の音が止む。
ジャックがくるりと回転し、お辞儀をした。
武舞台を囲っていた95体のスカルポーンは居なくなり、武舞台の上には95本の剣と95枚の紙が散っている。
スカルポーンの収穫品は楽譜だ。当たり外れもあるが、当たりは好事家に高値で売れる。とある冒険家が96枚持ち帰ったが、全て外れで「骨折り得たのはくたびれた紙」と言ったのはベイスン協同組合では有名な話だ。
「ナ!?」
スカルクイーンは、武舞台を見て正気を取り戻したようだ。
「ジャック。話が違わない?」
「ジャック。格好つけすぎ」
レビンとクイントはジャックのブーイングを再開し、スカルクイーンが武舞台に再登場する。
「イイ気二ナラナイデ 下サイ。スカルポーンハ 捨テ駒、最弱デス」
「あ~ごめん。体が勝手に」
ジャックがスカルクイーンの話に耳を傾ける事もなく、悪びれた様子もなく謝った。
「次ハ コウハ行キマセンヨ」
「そうだね。こうは行かないよ」
「エ?」
「え?」
レビンとスカルクイーンの間に照れ臭い空気が流れた。その後、スカルナイトとレビンが戦った際にスカルクイーンは密かにレビンを応援していたが、最後までレビンとクイーンの関係に変化は訪れなかった。
「あの骨の怪物達、空間移動が出来るみたいだね」
レビンがスカルナイト24体を弓で射抜いて霧散させた後、スカルクイーンに休憩を申し出て、武舞台から降りて来た。
「移動先は種によって違うけど、多分限定されているよ。物質をすり抜ける事も出来なくて、動線上を動く事に変わりないから、正直微妙だけどね」
収穫品の笛を魔法の鞄に納めて言う。
「透明になって感覚も無く干渉も出来ずに、ある地点まで移動する技術?」
「そりゃあ、微妙だな。移動後の動きも視界の変化に付いていけてねぇ感じだし。それよりも、あの服か何だか分かんないのを着ている骨の人がチラチラとレビンを見ているけど?」
「え?」
その日はそのまま休戦に入り、三人はレビンが魔法で作ったガラスと空気の部屋で休む事になった。一時、物が壊れる音と誰かの罵声が聞こえた以外何事も無く、望みの塔での三人の夜は過ぎていった。
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